02-06.休日の過ごし方
「それで今日は何をするの?
またデートに連れて行ってくれる?」
「無茶言わないで、ディアナ。
内緒だって説明したでしょ。
私達は大人しく部屋でお勉強よ」
「私達は?
私とパティだけなの?」
「そうよ。
今日だけはユーシャにエリクを返してあげて」
「そういう事ね♪
もちろん構わないわ!」
「ありがと。ディアナ」
「良いのよ!ユーシャ!
こちらこそ、何時もエリク貸してくれてありがとう!」
「うん。ふふ♪」
まあ、どの道私達もこの部屋からは離れられんのだがな。
私は常にディアナの状態を監視しておかなきゃだし。
ユーシャは歩き回るわけにもいかんし。
なにはともあれ、二人でゆっくりさせてもらうとしよう。
「お風呂行こ、エリク」
「あ!なら私も行きたい!」
「ちょっと。パティは私の勉強見てくれるんでしょ?
エリクはユーシャに返すんでしょ?
自分でそう言ったばかりじゃない」
「いや、でも……昨晩だって……」
「そもそも部屋から離れるわけにいかんのだろうが。
風呂はダメだ。湯とタオルくらいは用意してやる。
何なら私が二人とも拭いてやる。だから諦めろ」
「もう♪エリクのえっち♪」
「ユーシャだけで良いな。
パティはスノウに任せよう」
「待ってよ!冗談よ!
是非エリクにお願いするわ!」
「なら最初からそう言え。
スノウ、準備を頼めるか?」
「うん」
良かった。
素直に私の側を離れて必要な物を取りに行ってくれた。
しかしミカゲも慌ててついて行ってしまった。
大丈夫だろうか。スノウの足を引っ張るやもしれん。
まあ、心配は要らぬか。
今のところ私の側で大きなミスをやらかした事はないのだ。
そもそも禄に仕事を振ったことも無いのだけど。
メアリがディアナのついでに大体の事はやってくれるし。
「ディアナの学習状況はここに纏めてある。
目を通しておいてくれ」
「ありがと♪
さっすがエリクね♪」
「それって昨日のテストのやつ?」
「うむ。それも込みだ。
パティよ。ディアナはよくやっておるぞ」
「ええ。そうみたいね。
この調子なら心配は要らなそうだわ。
ふふ♪良い子よ♪ディアナ♪」
「えへへ~♪」
可愛い。
「むぅ……」
「ユーシャも一緒に勉強してみる?」
「……うん。する」
可愛い。
まさかユーシャが勉強をしたがるとはな。
ディアナが褒められて羨ましくなってしまったようだ。
素直にディアナの頑張りを尊重出来ない心の狭さを叱るべきか、張り合ってでも勉強に興味を持ってくれた事を喜ぶべきか。
ふふ。可愛いものだな。本当に。
近頃は随分としっかりしてきたものと思っていたが、まだまだ子供らしい部分も変わらず残っているようだ。手元を離れて不安になっていたが、何だか少し安心したぞ。私も大概心が狭いのかもしれんな。ふふ。
もしやすると、学園生活の影響もあるのかもしれぬな。成績優秀なパティに付き従っていた事で、間接的に勉学が出来る者の立場を体験したのかもしれん。パティの性格も込みで考えれば、さぞや人気者であったことだろうし。いくら人見知りのユーシャと言えど、いく分か過ごしやすかったのではなかろうか。
まあ、下手をするとやっかみなども買いかねんが。
そこはパティが上手くやるだろう。心配は要らぬな。うむ。
結局、全員で勉強会になりそうだ。
うむうむ。良いことだな。
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「スノウとミカゲには休暇を与えよう」
ユーシャの背を拭きながら、二人に今日の予定を伝えてみる事にした。
「またですか!?
どうかお考え直しを! 我が主!
休暇は先日頂いたばかりです!」
案の定、ミカゲから猛反対の声が上がった。
「だがお主にもやりたい事があるのだろう?
またスノウの記憶を取り戻しに行かんで良いのか?」
「は!?
まさか覗いていたのですか!?」
「今更何を言っておるんだ。
スノウは私の人形だ。スノウの全ては私のものだ。
そしてそれはお前もだ。ミカゲ。
お主らにプライベートなんぞあるわけがなかろう。
たとえ休暇中であっても好きに覗くぞ私は」
「はぅう!!」
何今の声?
「委細承知致しました!
どうぞ何時でもご笑覧下さいませ!
精一杯楽しませてご覧に入れます!」
「いらんぞ。余計な事はするな。
別に暇つぶしで覗いていたわけではない。
全ては研究の為だ。お主らの価値はそれだけだ。
ゆめゆめ忘れるな」
「はい……申し訳ございません……調子に乗りました……」
「エリク、そういう言い方ダメ」
「必要な事だ。
昨晩のように寝床に潜られては適わんからな。
線引は明確にすべきだ。私の伴侶は三人だけだ。
スノウとミカゲは所有物だ。伴侶ではないのだ」
「エリクの気持ちもわかるけど、もっと上手くやって」
「上手くってなんだ? 私にどうしろと言うのだ?
こやつら、甘い顔をすれば調子に乗るのだぞ? 何処の世界に恋人との逢瀬を邪魔する従者がいるのだ。昨晩のあれは論外だ。私も空気に流されて強くは止められなんだが。しかし次は無い。
ユーシャも嫌であろう? 私がなあなあでスノウとミカゲまで伴侶に加えるのは」
「……その言い方はズルい」
「これは私なりの誠意だ。
しかしユーシャやパティが他に優先すべき事があると言うなら従おう。私だって別に二人を冷遇したいわけじゃない。許されるなら甘やかしてやりたい。多少調子に乗ったって笑い飛ばしてやって構わない。けれど線引は必要だ。それが私の考えだ。私の本心だ」
我ながら本当にズルい言い方だな。
これだけでは正確に伝わらんか。
「だからと言って、私はこの考えを強行するつもりはない。スノウとミカゲは今後長く我々に仕えてくれるのだ。伴侶や恋人では無いにせよ、家族ではあるのだろう。だからユーシャやパティ、ディアナの意見も尊重しよう。私の言動が不快ならば改めよう。ユーシャもそのつもりで居ておくれ。もちろん今すぐに何かを決める必要は無いがな」
「……やっぱりズルい」
「すまんな。ならばこう言い変えよう。
スノウとミカゲを家族と認めておくれ。けれどその上で、今の私は家族とではなく恋人達と過ごしたい。だから恋人以外の家族には遠慮してもらおう。二人には休暇を与えて遊びに出てもらおう。ユーシャもそれで良いかな? 私の意見に賛同してくれるか?」
「……」
「もう。おバカね。エリクは。
そんな言い方されたらかえって賛同し辛いじゃない」
「そうか? どの辺がだ?」
「そもそも優しいユーシャが誰かを除け者にするような選択自体出来るわけ無いじゃない」
「そうでもないぞ?
ユーシャは割とその辺辛辣だ」
「それは他人の話でしょ。
ユーシャは身内認定した相手には甘々よ?」
「まあ、それは言われてみれば確かに」
ユーシャに友人が居無さ過ぎて私ですら最近まで気付かなんだが。私に対してはむしろ好意が行き過ぎて扱いがぞんざいだったし。
たぶん、身内以上恋人未満には結構甘いっぽい。
逆に恋人以上になると遠慮が無くなって甘さが薄れるけど。
元々甘える側の立場である事も関係しているのかもしれん。
「……バカ。もう好きにして」
可愛い。
思わず後ろから抱きしめちゃうよね。こんなの。
「まだ途中でしょ。
エリクも濡れちゃうよ」
「気にするな」
ユーシャは相変わらず最高の抱き心地だ。
なんてふわふわなのだろう。やっぱりずっと側に居てくれないだろうか。
「ぶ~ぶ~私ずっと待ってるんだけど~?
もうお湯冷めちゃってるんだけど~?」
お預けを食らっていたパティが騒ぎ始めた。
「気にするな。
まだ少し気温は暖かい。
手早く済ませれば風邪など引かんだろう」
「私は雑に済ませる気なの!?
ユーシャにはこんなに時間かけてるのに!?」
「嫌なら自分で温めておけばよかろう。
パティなら魔術でちょちょいだろう。
そんな事より、スノウとミカゲの事だがな」
「そんな事ですって!?
私の事なのにそんな事って言ったわね!!」
「おい。話しが進まんだろう。
後で相手してやるから大人しくしておれ」
「恋人より二人を優先するんだ!
浮気よ! 浮気! 本性表したわ!」
「やかましい! お主らがそんな事ばかり言っておるから扱いかねておるのだろうが! いい加減落ち着かんか! 私がそんなに信用できぬのか!?」
「ちょっと二人とも!
勉強の邪魔なんだけど!
騒ぐなら外でやりなさいよ!」
「「ごめんなさい……」」
「ぷっふふ」
「どうしてエリクとパティはすぐに喧嘩しちゃうのかしら」
「でも仲良い」
「そうね。
喧嘩する程って、こういう事を言うのかしらね」
「ディアナ。続きやって。
エリク。私はもういい。
後はパティお願い」
「ディアナは勉強中であろうが」
「散々邪魔してきた人が言う事じゃないわね。
もちろん構わないわ、ユーシャ。
ほら、エリク、そこどいて」
「むぅ……やだ」
「ちょっと。それどういう意味よ?
私じゃ不服だっての?」
「ユーシャと離れたくない。
このまま一日中抱きしめてる」
「ならせめて服くらい着せなさいよ。
風邪引いちゃうわよ」
「エリク。交代。離して」
「な!? んだと!?」
「パティの終わったら抱きしめて。
待ってるから」
「うむ!速攻で終わらせよう!」
「ちょっと!!」
「それで……我々は……?」
「スノウとミカゲもここに居なさい。
ただし仕事はお休みよ。好きに過ごしなさい。
エリクの機嫌を損ねない範囲でね」
「はい! 承知致しました! ディアナお嬢様!」
「おい! 何を勝手に決めておる!」
「私の意見も聞いてくれるんでしょう?」
「そうは言ったがな! だからと言って!」
「はいはい。もうその話はお終いよ。
それより、ほら早く。次は私の番でしょ。
終わったらユーシャ抱きしめるんでしょ」
「むぅ……仕方ない」
「本当に怒るわよ?
私の背中を拭くのがそんなに渋々なの?」
「そんなわけがなかろう。何度も言っておるだろうが。
私はお主の身体が好きだ。理想と言っても過言ではない。
なんなら直接撫で回したいくらいだ。
しかしそれでも、今はユーシャが恋しくて堪らんのだ」
「何でもかんでも正直に言えば良いもんじゃないのよ!?」
「ほれ、さっさと始めるぞ。前を向いて服を脱げ。
いや、やっぱりこっちを向いたまま服を脱げ。
それから振り返れ」
「もう開き直り過ぎてただのセクハラみたいになってるじゃない」
みたいじゃなくて、完全にセクハラだがな。
例え恋人相手だろうが、その事実は変わるまい。
まあ、何だかんだと本人も嬉しそうにノリノリでストリップショー始めたから良いよね別に。うむうむ。眼福眼福。
「むぅ」
またユーシャが膨れておるな。
難しいお年頃のようだ。可愛い。