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01-68.浄化

 段々とパティの扱う魔術の火力が上がってきた。

屋敷から十分に離れたのに加え、加減をしていられなくなってきたのもあるのだろう。場合によってはフラビアごと焼き尽くすしかあるまい。


 どの道奴は問題を起こしすぎた。私自身がその原因に関わっているという負い目もあるが、過剰に同情するべきではない。あれはどうやってか幽閉中の部屋から抜け出したのだ。そこに人形の呪いは関係ない。虜囚の立場を弁えず、我々の温情を無下にした。こちらにも目論見はあるにせよ、御せないのなら拘るべきではない。これは仕方のない事だ。


 だからと言って、そう簡単に割り切れるものでもない。

手を汚すのは難しい。私はこれが初めての実戦とも言えるのだ。本当に命がけの戦いは。


 やはり、模擬戦や決闘とは違うようだ。

どうしても力を込めきれない。フラビアの肉体が地を跳ねる度、一瞬私の中にもヒヤリとした感覚が生じてしまう。きっとこれは大きな隙となっているのだろう。何時までも倒しきれていないのは私のせいなのだろう。



「エリク!!」


 だからこの結果も当然のことだった。

爆炎を突っ切って現れたフラビアの燃え盛る両の手が、私の腹に巻き付いた。油断した。迷いで身体が動かなかった。手と頭から突っ込んできたフラビアに胴を固定され、完全に捕らわれてしまった。呪いの魔力が私を取り込もうと全身に巻き付いてくる。同じように、炎もまた私を焼き尽くそうと纏わりついてくる。私はフラビアと呪いと魔力と炎から逃れようと身を捩るも、この状況からではもはや逃れようもなかった。



「フラビア!

 お主まで死ぬ気か!!」


「「いっしょぉにぃ~~~~~~!!!!」」


「ふざけるな!!

 誰が心中になど付き合うか!!」


「「エェリィクぅ~~~!!!!」」


「目を覚ませ!!

 フラビア!そして人形よ!

 私は逃げはせん!望みがあるなら言葉で告げよ!

 話くらいは聞いてやる!!」


「「よぉうぅせぇ~さ~ん~~~~~!!!」」


 フラビアの放つ呪いに負けまいと、私も魔力を流し返して応戦する。


 そうだ!むしろこれはチャンスだ!

力比べといこうじゃないか!


 呪いと浄化、互いの魔力と魔力。どちらが上か比べよう。

心配せずとも炎で焼け死ぬ事はない。私の身体は頑丈だ。

フラビアの身体も纏った魔力が防いでいる。たとえ魔力が尽きても、その瞬間に私の魔力が流れ込む。どんな火傷も痕すら残さず消し去ってみせよう。


 私は肉体での抵抗を放棄して、魔力だけに集中する。

ひたすらにフラビアの身体に魔力を流そうと叩きつける。

呪いを追い出し、浄化し、人形を成仏させてやろう。

世話になった例だ。私がこの手で送ってやろう。


「悪かったな。人形の亡霊よ。薄情にも放置してしまって。しかしお主も短気すぎだ。別に私はお主を捨てようとしていたわけではないのだぞ?」


 魔力と一緒に言葉を送る。

少しでも心をこじ開けて抵抗を緩めさせようと試みる。



「新しい身体に嫉妬しておったのかもしれんが、もう少しくらい広い心で見守ってほしかったものだ。そうすれば側には置いてやったものを。何かあった時のスペアのボディとして使ってやったものを。今からでも遅くはない。心を入れ替えて私の下に戻ってこい。私もお主を尊重しよう。一つの意思ある存在として受け入れよう。どうだ?良い話だろう?でなければ、このまま成仏させてやるしかなくなるのだぞ?」


「「エ、リ、ク~~」」


 おや?

少し勢いが弱まった?

私の想いが伝わったのか?



「フラビア。

 約束を破って悪かった。もっと早く会いに行ってやるべきだったな。お主を放置したのは私の落ち度だ。そこは素直に謝罪しよう。しかし、脱走はいかんぞ。お主は囚われの身なのだ。周りに迷惑をかけてはいかん。それでは解放など出来んではないか。もし私と親しくなりたいと言うのなら、真っ当な手段で近付いてくるがいい。私は逃げも隠れもせん。お主の想いを正面から聞いてやろう。受け入れるかどうかは別の話だがな。そこはお主の頑張り次第だ。だがまあ、私が好ましいと思う手段でくる事を勧めるぞ。あれだ。私は良い子が好きなのだ。だから悪い子にはお仕置きだ。私がお主の性根を叩き直してやろう。戻ってこい。フラビア」



「「妖精さん……」」


 今度はハッキリと口にしたな。

それに表情も随分と穏やかなものになってきた。

もう一押しすればいけそうか?

しかしどんな言葉をかけてやれば……。



「まあつまり、あれだ。

 私にはお前達が必要だ。

 どうか力を貸しておくれ」


 私の言葉に、フラビアの表情が笑みに変わる。

もはやあの醜く歪んだ顔はどこにもない。

どうやら完全に戻ってきたようだ。



「わかってくれたか?」


「「妖精エリクさん!

 だぁ~い好き!!」」


「な!?」


 フラビアが更に腕に力を込めた。

フラビアの呪いの魔力も勢いを増し、私の魔力を押し返し始めた。



「おい!

 何をする気だ!?」


「「私の♪

 私の妖精エリクさん♪」」


 ダメだ!こやつ何も聞いとらん!?

単にまともな思考を取り戻しただけだ!

マズい!このままでは飲み込まれる!?

奴ら二人がかりなのだ!完全に意気投合してしまったのだ!

二つの意思が一つに融合しつつあるのだ!



「パティ!!」


 思わず助けを求めてしまう。

けれど、それは悪手だった。



「「こっちを見てよ!!妖精エリクさん!!!」」


 更に侵食が勢いを増していく、遂に私の胴から魔力が流れ込み始めた。魔力を流された箇所に抑えきれないくすぐったさのような、もどかしさのようなものが生じる。これが魔力抵抗か。不快感が大きすぎて魔力操作に集中出来ない。このままだと力尽くで埋め尽くされる!?



「離れなっさい!!!」


 パティは敵の集中力を乱そうと、私ごと爆風で吹き飛ばした。フラビアは私諸共ゴロゴロと転がりながら、手放すまいとより強く抱きついてきた。しかし、一瞬意識が身体の方に向いた影響か、魔力を操る力に緩みが生じる。私はその隙を逃さずに侵食された魔力を追い出した。



「「邪魔!するなぁ!!」」


 フラビアがパティに向けて魔力手を放つ。



「余裕だな!!」


「「!?」」


 私はその隙を逃さずに、フラビアに向かってありったけの魔力を叩き込んだ。



「「くっ!ぐぁぎゃぁぁあああああ!!!」」


 魔力を流されたフラビアが苦痛にのたうち回った。

抵抗が一気に緩み、私の流す莫大な魔力がフラビアを飲み込んでいく。私の魔力がフラビアの全身に行き渡った呪いを浄化していく。どうやらそれが激痛となってフラビアを襲っているようだ。それだけ融合が進んでしまっていたのだろう。このまま流し続けてフラビアは耐えられるのだろうか。侵食越しに伝わってくる苦痛は想像を絶するものだ。これではフラビアの精神が持たないのでは……いや!今は迷っている場合ではない!せめて一瞬で終わらせよう!苦痛を最低限にするにはそれしかない!


 私は流し込む魔力の勢いを更に増やし、強引にフラビアの中に巣食った全てを押し流していく。苦痛にのたうち回るフラビアを見下ろしながら、ただひたすらに魔力を流し込み続けた。



「……」


 フラビアは意識を失って動きを止めた。

強引に魔力を流しすぎたせいか、フラビアの中には魔力抵抗を感じない。まるでユーシャに魔力を流しているかのようだ。同じく人形の気配と呪いの力も消え去ったようだ。果たしてこれで完全に成仏したのだろうか。



「終わったわね」


「ああ。おそらくな」


「まだ気になる?」


「こやつは無事に目覚めるのだろうか」


 それに少し消化不良だ。

やはりあの人形とはちゃんと話をしてみたかった。

世話になったというのも本心なのだ。

このような別れになろうとは思わなんだ。



「どうかしらね。

 私も呪いの事は専門外なの」


「興味を惹かれなかったのか?」


「ええ、まあ。

 でも今後は違うわ。

 エリクの身体にはもっと凄いのだって潜んでるんだし」


「いっそ今のうちに浄化してみるか?」


 そもそも何故人形は浄化されていなかったのだろう。

今まで何度も魔力を流してきたのだ。

その間に消え去っていてもおかしくなかっただろうに。

普通に流しただけでは抑え込む事しか出来ないのだろうか。

力尽くで洗い流すぐらいしないと、浄化にまでは至らないのだろうか。



「まだ止めておきましょう。

 いくつか気になる事もあるから」


 それもそうだな。

フラビアが意識を失い、呪いが完全に消え去っても、あの人形が再び姿を現す事は無かった。


 これはフラビアと融合してしまったせいだろうか。

フラビアの服装も変わってはいない。私と同じ、人形の着ていた黒ゴス姿だ。ところどころ焼け焦げてもいるが、一応原型を保っている。どうやら呪いやら魔力やらで一時的に具現化していたものでもないらしい。いったいどういう仕組なのやらだ。


 何にせよ、無茶をすれば折角作り上げたばかりの新しい身体も壊れかねない。唯でさえいきなりの戦闘で随分手荒に扱ってしまったのだ。早速ジュリちゃんの出張メンテの世話になりそうだ。まだ何の武装も使ってないのに。残念ながらそんな余裕はなかった。痺れブレスもまだ身体を起動したばかりで蓄積が足りていなかったし。半端に吐き出しても散らされるのがオチだっただろう。何せパティの魔術すら通さぬ相手なのだ。今回は相性が悪かった。

 とにかく浄化も色々調べてからにするべきだ。私がこの身体を離れない限りは暴走する事も無いのだろうし。



「そう言えば奴らはどうなったのだ?」


 パティが相手をしていた筈の三体の人形が見当たらない。

制御を失ってどこかに落ちているのだろうか。

綺麗だった庭はすっかり荒れ果てて、そこら中穴だらけだ。

これではパッと見で見つけられないのも無理はない。



「全部燃やしちゃったわ。

 ジュリちゃんには悪いことをしたわね」


「よくあの防御を破れたな」


「エリクのお陰よ。

 フラビアの本体がそっちに集中したから、制御がおろそかになってたみたい」


 なるほどな。



「今度ジュリちゃんに新しい人形を用立ててもらうか」


「真似してみるの?

 良いと思うわ。

 差し詰め【人形遣い】ってところかしら?」


「そのまんまではないか」


「わかりやすい方が良いでしょ」


「それもそうだな」


 わけのわからない事は懲り懲りだ。

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