01-64.告白
「最後にもう一つ大切な贈り物があるの。
少し早いけど、皆受け取ってくれると嬉しいわ」
パティが四つの指輪を取り出した。
「待て!
ユーシャとの話はどうなっとるんだ!?」
「エリク。大丈夫。
私が頼んだの。
今日にしようって」
ユーシャが?
しかし、ディアナの事は……。
「ディアナ」
「はい。ユーシャ」
「私ね。
パティに付いていきたいの」
な!?
「だからエリクをお願い。
私、ディアナになら任せられるよ。
ディアナの事、大好きだから」
ユー、シャ……。
うぅぅ……。
「ダメよ、ユーシャ。
その話は断ったでしょ」
「パティは黙ってて。
今はディアナと話してるの」
「それより、エリクを見てみなさい。
今にも泣き出しそうよ」
「泣いてなどおらん……。
私だって決めておったのだ。ユーシャが望むなら涙を飲んで送り出そうと。たった半年程度の辛抱だ。そこだけ耐えれば皆で学園に通えるのだろう?」
「え?
あれ?
言ってなかったかしら?
私、今最終学年よ?
今年度いっぱいで卒業よ?」
「なん……だと……」
「ディアナが学園に通うのも一年だけよ。
一年間首席を維持できれば、私達の結婚も認められるわ。
だからまあ、今から後一年半くらいね。
私達が結婚するまでに必要なのは。
そして私達が一緒に居られないのはね」
「一年半……無理だよぉ……そんなのぉ……」
「ほら。見なさい。
ユーシャはこんなエリクを置いていく気なの?」
「本当に離れ離れなのは半年だけでしょ。
どうせパティの事だから、一年間は側に潜り込むつもりでしょ」
「あら?
バレちゃった?
実はもう準備も済んでるの。
学園の近くに寮とは別で部屋を借りたから。
来年度からは正真正銘の四人暮らしよ♪」
「半年で人の住めぬ家になりそうだな」
「やっぱり私行ったほうが良いよね?」
「苦労をかけるな。ユーシャ」
「何よそれ!?
私に一人暮らしは出来ないって言いたいの!?」
「完全無欠な我らがパティにも唯一の欠点が存在するのだ」
「それ無欠って言わないんじゃない?」
それはそう。
パティのやつ、部屋が片付けられんのだ。
出したら出しっぱなし。脱ぎっぱなしなのだ。
何時もユーシャか私が片付けておるのだ。
本人は気にしてもおらんようだが。
「良かったじゃない。パティ。
ユーシャはとっても頼りになるわ♪」
「ディアナまで……。
でもダメ。私だってユーシャと一緒にいたいわ。
けれど半年も二人きりなんて我慢出来ないもの。
絶対にユーシャを襲ってしまうわ」
「「「……」」」
「何よ、その顔」
「呆れておるのだ。
まさかそのような理由で断っておったとは」
このピンク脳め。
いやまあ、年齢的には仕方が無いのかもしれんが。
むしろユーシャとディアナの方が幼すぎるのやもしれんが。
「仕方ないでしょ!
切実なのよ!こっちは!」
まあユーシャという可愛すぎる恋人がおるのだ。
その上でお預けを食らっておれば、無理もない話だがな。
「まあ、あれだ。
同情はしよう。
お主の忍耐を褒めもしよう。
だが我慢せよ。もう一年半、耐え抜いてみせよ。
お主の頑張りに期待しておる」
「鬼!悪魔!意地悪!」
そうは言ってもこればかりはな。
私はこの子達の恋人だが、保護者でもあるのだ。
こちらにも譲れぬものはある。
「新学期までにはもう数日あるのだ。
ユーシャの事は場を改めて話し合おう。
パティに付き添うか、変わらず私の下にいてくれるのか。
どちらの道を選ぼうと、私は応援しよう。
ユーシャの決断を尊重しよう」
「ありがと。エリク」
ユーシャが私の腕を抱きしめて寄りかかった。
きっと先程の言葉を告げるのにあらん限りの勇気を振り絞っておったのだろう。よく頑張った。成長したな。我が愛娘よ。そんな風に気持ちを込めながら、ユーシャの頭を撫でてあげた。
「ふふ♪」
可愛い。
私の娘。私の恋人。
やっぱりパティにあげないで独り占めしちゃおうかしら。
まあ冗談だけど。
「それで、ディアナ。
ユーシャの告白への返事はどうするのだ?」
「嬉しいわ!ユーシャ!
私も大好きよ!」
「うん。良かった」
にへらと笑みを零し、私の二の腕に額を押し付けて顔を隠すユーシャ。
そんなユーシャの姿に、皆からも笑みが溢れた。
「次は私の番ね。
ディアナ。聞いて欲しい事があるの」
暫くして、今度はパティがディアナの前に跪いた。
「聞かせて。パティ」
「うん。あのね」
パティは全てを話した。
自分の出自、ディアナとの関係。
今までどんな気持ちでディアナの側にいたのか。
これからどんな気持ちでディアナの側にいたいのか。
そんな内容を取り乱す事もなく、静かに語り終えた。
全てを聞き終えたディアナは、パティを抱き寄せた。
また涙を零しながら、言葉にならない何かを呟きながら、パティを抱きしめ続けていた。
「ふふ♪
また泣かされちゃった♪」
「でも嬉しそう」
「ええ。とっても」
ふふふと笑い合うディアナとユーシャ。
「エリク。
これで受け取ってくれる?」
「婚約指輪なのだな?」
「ええ、もちろん。
結婚指輪はまだ先よ」
「付けておって問題ないのか?
パティも、ディアナも。
国は?お父上は?
彼らは何か言ってこないのか?」
未だお父上との約束は果たされておらんのだ。
指輪を付けるのも問題があるのではないか?
特に学園などの人の目が多い場所では尚の事な。
「心配要らないわ。
こういうのは堂々としていれば良いのよ。
叔父様にも許可は頂いてるし」
あの御仁、パティにもとことん甘いようだ。
大貴族としての自分の立場もあるだろうに。
「ならば良いがな。
それで?
誰が誰に付けるのだ?」
「それは」
「もちろん」
「決まってるよ」
「「「エリク!付けて!」」」
「まあ良いがな。
ならば私のはユーシャだ」
「うん!」
「そこで即決されると流石に悔しいわね」
「仕方ないでしょ、パティ。
私も気持ちは同じだけど」
「いっそ私達は私達で付け合う?」
「それも良いわね。
エリクとユーシャに負けないくらい見せつけてあげましょう♪」
「ダメ。ならパティのは私が付ける。
ディアナはエリクに付けてもらって」
「ならユーシャは私に付けさせてくれる?」
「ダメだ。ユーシャは私のだ。
ディアナは……まああれだ。
今回はタイミングがな。
結婚指輪の時にはパティに付けるとよかろう」
「ぶ~ぶ~!!
仲間外れ反対~!」
「そうよ。流石にそれは可愛そうだわ。
ユーシャ。どっちか選んで。
私かエリク。どっちに付けたい?」
「エリク」
「くっ!またしても!」
「そりゃそうだろ。
むしろ何で聞いたのだ?」
まさか勝てると思ったのか?
ふっ。パティもまだまだだな。
いやまあ、ユーシャは私を置いてパティに付いて行く決断を示したばかりなのだが。
これはうかうかしておれんな。
私も傲らず精進しよう。
何時までもユーシャが一番に選んでくれるように。




