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01-06.メイド修行開始

「ふんすっ!」


『何を鼻息荒くしておる』


「違うよ!気合い入れてるの!

 もう!エリクは黙ってて!

 見つかったらマズイって言ったのはエリクでしょ!」


『あ!おい!こら!

 あんまり押し込むな!

 半分出す約束だろうが!』


「無理だよ!

 半分も出したら目立っちゃう!

 いいから大人しくしてて!」


 私を胸の谷間に押し込みながら、どうにかメイド服に着替える少女。


 どうやらメイド服は普通なようだ。

大きく胸の開いたデザインとかでもないらしい。

お陰で外の様子が薄っすらとしか見えん。

まあ、この子の体が無闇に晒されず何よりではあるが。


 いやしかし、まだ安心は出来ん。

メイド服にも拘りのあるタイプかもしれん。

敵は肌なぞ見飽きる程食い散らかしているだろうしな。

敢えて隠す事で興奮するタイプなのかもしれん。



『おい。これもサイズが合っていないぞ。

 お前の乳で押し潰されそうだ』


「仕方ないでしょ!

 私に合うのこれしかなかったんだから!」


 まったく。

多少は成長したかと思ったが、タッパもまだまだだな。

というか、身長に対して胸がデカすぎるのだ。

栄養が全部こっちに回っているのではなかろうか。



「何か今、失礼な事考えた?」


『これ以上話しかけるな。

 独り言ばかりの危ないやつだと思われるぞ』


「もう!エリクのバカ!」


 何故私が罵倒されねばならんのだ。


 着替え終わった少女は、一度自身の頬をピシャリと両手で挟んでから、充てがわれた部屋の扉を開けて廊下に出た。


 扉の脇で待機していたメイド長を名乗る妙齢の女性が、少女の全身をまるで品定めでもするかのように眺めてきた。



「ふむ。

 サイズが合っていないようですね。

 仕方ありません。本日はそれで我慢して下さい。

 明日までには仕立て直させましょう」


 それだけ言って背を向けて歩き出すメイド長。



『ほれ』


 何をボーっとしておる。

はよついて行け。



「あ!」


「何か?」


「……」


「行きますよ」


 今度は声をかけてから歩き出した。


 どうやら少女が喋らない事は事前に承知していたようだ。

ここまで一切言葉らしい言葉を喋っていないにもかかわらず、特段気にした様子も無いまま対応してくれている。


 しかし、着替えている間の少女は小声で話をしていたとはいえ、少しくらいは聞こえていた可能性もある。


 依頼人が何を目論んでいるのかもわからないのだ。

この態度にも何かの意味があるのかもしれない。



「先ずは掃除から始めます。

 経験はございますか?」


 目的地に着くなり、少女を振り返って単刀直入に問いかけてきた。



「(ふるふる)」


 首を横に振る少女。



「では見ていて下さい」


 それだけ言って自らハタキを持ち掃除を始めるメイド長。

背の高い家具から順に、手際よく埃を払い落としていく。



「こちらを。

 同じようにやってみて下さい」


 そのままメイド長は少女に掃除の仕方を教え始めた。

無口で不器用な少女に声を荒げる事もなく、根気よく丁寧に教え続けていた。




 まさか本気でメイドとして育てるつもりなのか?

果たして本当にそんな事があるのか?

誰にも馴染めず、一人寂しく中の下レベルの冒険者を続ける少女に救いの手を差し伸べたとでも言うのか?


 私の知る限り、少女が以前誰かを救ったなんて話もない。

そして少女の事で私が知らない事なんて存在しない。


 ここの領主貴族と少女には何の接点も無いはずだ。

縁もゆかりも無い、その日暮らしの冒険者に手を差し伸べる理由など存在しないはずだ。


 どこかで噂でも聞きつけたのだろうか。

慈善事業のつもりだろうか。


 いや、それこそおかしな話だ。

まがりなりにも、ギリギリとは言え、自活出来ている冒険者よりも、他に手を差し伸べるべき相手はいるはずだ。


 この町にだって孤児院くらいはあるだろう。

それなりに大きな町なのだ。

もしかしたら、浮浪児だっているかもしれない。


 ここは良い町だとは思うが、どうやっても手の届かない部分くらいあるはずだ。


 そもそも、少女はこの町に来たばかりだ。

精々一月、二月程度しか経っていない。

目を付けた理由がどうしてもわからない。

たまたま町で見かけて一目惚れでもしたと言うのだろうか。


 それとも、元々冒険者の依頼制度を利用して良からぬ事でも繰り返していたのだろうか。


 冒険者は、その名の通りに旅をしている者が多い。

ある日突然居なくなっても、誰も気にしない可能性が高い。


 容姿の良い女性冒険者を誘い込もうと、元から張っていたのかもしれない。

今回たまたま、少女が網にかかっただけなのかもしれない。


 いや、かもしれないなどではない。

その可能性が最も高いと言い切れるだろう。


 この少女の実績などパッとしないものばかりだ。

精々、身の丈にあった低ランクの魔物を狩る程度だ。


 逆に容姿は抜群だ。

何時も町ではフードを目深に被って俯きがちだから気付かれないかもしれないが、親の贔屓目に見ても、いや、見ずともこの娘の器量が良いのは間違いない。


 この娘が狙われる理由には十分な根拠があるのだ。

きっと受付嬢の中にでも敵の手の者が紛れていたのだろう。

貴族家と直接関わっていなくとも、斡旋すれば小銭稼ぎにでもなったのかもしれない。


 少女の容貌ならばお貴族様の眼鏡に叶うと見抜いたのだろう。


 きっとそうに違いない。

そうとしか考えられない。



「ふむ。悪くないですね。

 あまり器用とは言えませんが、真摯なのは良い事です」


「!」


 メイド長の不意打ちに、少女はわかりやすく狼狽えた。


 ……?

まさか本当にそんな裏は無いの?


 というか、この娘ったら何よその反応。

私が褒めても調子に乗るだけなのに。

何で満更でもなさそうなのよ。

私が昨日言ったことを忘れてしまったのかしら。

もっと警戒してほしいものだわ。



「失礼。邪魔をしてしまいましたね。

 続けて下さい」


 そう言って掃除を再開するメイド長。

少女の反応に微笑む事も、逆に気を悪くする事も無かった。


 というか、何故メイド長自らなのだろう。

このお屋敷、それなりに大きいはずなのだが。


 人の気配もそれなりにある。

この部屋には我々だけだが、屋敷内には他の先輩メイド達も多数存在しているはずだ。


 やはり依頼と関係があるのだろうか。


 もしやこのメイド長、腕に自信があるのだろうか。

身元もわからぬ冒険者を屋敷に入れるのだ。

それなり警戒して当然だ。


 もしくは逆に、ただのメイドと油断させて襲いかかってくる気かもしれない。


 用心せねば。少女に代わって私がしっかりせねば。

一夜漬けの急造魔術がどの程度役立つかはわからぬが、何としても少女の身はこの私が守ってみせよう。

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