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01-58.導きorお節介

「ディアナとパティの仲直りを手伝って」


「なんだ。やらせたい事とはそれだけか。

 普通に頼めばよかろうに」


「だけなわけないでしょ。

 それにこれはパティの分だもん。

 私の分はまだ何も頼んでないよ」


 私、普段から大抵のお願いは聞いてあげてるよ?

わざわざ脅して従わせなくたってよくない?



「まあよい。好きにせよ。

 それで、仲直りだと?そんな必要があるのか?

 パティが勝手に顔を合わせづらくなっとるだけで、別に喧嘩何ぞしとらんだろうが」


「私もそう思う。

 でもパティ、自分じゃどうにもできないみたい」


「だそうだが?

 パティ、お主も黙っとらんで自分の考えを話してみよ」


 珍しく口数が少ない。

ユーシャと立場が逆転してしまったかのようだ。



「……どうしよう」


 スイッチでも切れたのだろうか。

先程フラビアの前では余裕そうにしていたのに。

また真っ青な顔で沈んでしまった。



「どうもこうも、二つに一つだろうが。

 無かった事にしてもらうのか、全て明かすのか。

 それ以外に選択肢なんぞ存在せんだろうが」


「でも……」


「私としては、全て明かしてしまうべきだと思うがな。

 お主はこれから先の未来をディアナとも共に歩んでいくつもりなのだろう?

 であれば、負い目なんぞ早々に払拭してしまうべきだ。そんなものを抱え込んでおっても碌な事にはならんぞ。既にディアナも回復に向かっておるのだ。正体を明かすための条件は満たされたと考えても問題はあるまい?」


「わかってるのよ……私だって……」


 覚悟が決まらんのか。

まあ仕方あるまい。こればかりはな。



「よしわかった。

 ならばダブルデートだ」


「ダブルデート?

 四人でって事?」


「うむ。

 私とユーシャ、パティとディアナで、だ。

 要は四人で買い物に行こうってだけの話しだがな。

 私の服の件もあるし丁度良かろう」


 フラビアの分はユーシャを参考に作ってもらおう。

背丈は違うが、それ以外は似たようなものだしな。

あらかじめフラビアの採寸も済ませておけば問題あるまい。



「それに今すぐというわけにもいかぬ。

 もう数日は様子見だ。ディアナの体調次第だ。

 その間は聞かなかった事にしてもらうがよい。

 これは今だけだ。すぐに明かすのだ。

 そう心に決めて、区切りを付けるのだ」


 先延ばしというか、心の準備をする時間も必要だろう。

それも期限が決まっていれば、余計な不安も無くなる筈だ。



「移動も殆どが馬車になろう。

 しかし、ただの馬車ではディアナには辛かろう?

 お主はジュリちゃんに協力を仰いで、快適なデートの準備に勤しむが良い。諸々の準備が整うまで、ディアナの事は私とユーシャに任せおけ」


 何なら車椅子とかも作っておくと良いかも?

少しその辺の案出しもしてやるとするか。


 サスペンションってどんな仕組みだっけ?

流石に今から馬車に組み込むのは難しいかな?


 精々手すりを付けるとか、クッションがずり落ちないようにするとか、出来るのはそれくらいだろうか。


 クッションは以前ユーシャがプレゼントした物がある。

あれなら負担も殆どないかもしれない。



「……わかった。やるわ。私」


 パティが決意に満ち溢れた顔で頷いた。

少々大げさ過ぎる気もするが、楽しいイベントにはなりそうだ。これはこれで良しとしよう。



「エリク、私もパティ手伝う」


「良いのか?

 私はディアナの下を離れられんのだぞ?」


 屋敷の中で十数分目を離す程度ならともかく、何時間も側を離れるのは不可能だ。ユーシャがパティについてジュリちゃんの店まで出向いてしまえば、私達は正真正銘離れ離れになるのだ。私達はいまだかつて、そこまで離れた事は無いのだ。正直不安で堪らない。しかし、ユーシャはそうでもないようだ。



「うん。大丈夫。

 パティいるから」


「そうか……。

 デートの方は良いのか?」


 言っておいてなんだが、ディアナの件は色々デリケートだからな。パティを独占したいユーシャにとっては、複雑な問題なのだ。



「うん。今回だけ。

 パティが元気になるのに必要だもん」


「やはりディアナの事を認めたわけではないのだな」


「ディアナは好き。

 けどそれとこれとは別。

 パティは私の。誰にもあげたくない」


 結局そういう感じに落ち着いたのだな。

正妻云々の事で悩んでいたが、それはそれと割り切る事にしたのだろう。


 パティもユーシャの気持ちを知った上で不満を言う事もなく、ユーシャにディアナを認めさせようとしているようだ。



「パティ。ユーシャの事は頼んだぞ」


「任せて!

 絶対に傷一つ付けるもんですか!」


「お主が傷つけるものいかんぞ」


「エリクの見てないとこでやらないってば!」


「見てる所でもダメだ!

 お父上に結婚を認められるまでは許さんぞ!」


「それじゃあ一年伸びちゃうじゃない!

 最初は私の卒業とユーシャの成人でって言ってたのに!」


「お主がディアナまで巻き込んだのだろうが。

 嫌ならば三人で駆け落ちだ。そこまでの覚悟を示したのなら、私も譲歩してやるのはやぶさかでもない」


「くっ!

 私がそっちを選べるわけないって知ってるくせに!」


「浮気者め。

 やはりお主にユーシャは渡せんな」


 まだ。



「よく言うわ!

 エリクだって誰彼構わず口説いてるじゃない!」


「何を言う?

 私はユーシャ一筋だ」


「嘘つき!私の事も好きって言ってくれたのに!

 さっきだってフラビア口説いてたじゃない!」


「口説いてなどおらん。

 敵を懐柔する以上の意味はない。

 あやつは容姿に拘りがあるとみた。

 だから服の話を振っただけだ」


「否定してたじゃない!

 懐柔したいなら褒めなさいよ!」


「褒めただろうが。

 容姿は良いと。より伸ばす手段も提示した」


「……本気なの?

 それ、本気で言ってるの?」


「なんだ?

 喧嘩を売っているようにでも見えたのか?

 それとも力尽くで従えさせようと?

 そんなわけがなかろう。厄介事を抱え込むのはごめんだ」


 フラビアとの接点は最低限に留めたい。

どの道、第三王子の下へ返すのだ。

妙な感心を向けられても困るだけだ。



「実際フラビアは喜んでおっただろうが。

 ああいう者は、何かしら自分自身にコンプレックスを抱いておるのだ。だから派手な物を好むのだ。好ましくない自分を隠そうとしていたのだ」


 フラビアの場合は体格と言った所か。

おそらくそれを心無いものに揶揄されてきたのだろう。

そうして培われた、ある種の自信の無さではなかろうか。

攻撃的な部分も似たような理由で後天的に備わったのではなかろうか。


 そうして本人は可愛らしいものが好きになったのに、自分自身は背も高く、肉付きもよいのだ。あれらを誤魔化す為に、濃い化粧と派手な服装で着飾っていたのだろう。



「私はそんな必要は無いのだと説いただけだ。

 あれは落ち着いた服装ならば紛うこと無き美人なのだ。

 それが本人の好みに反するのならば、好みの方を正してやれば良い。自分自身に自信が持てれば変わっていくだろう」


 だから先ずは褒めてやるのが一番だ。

フラビアのようなタイプにはな。



「勝手な事ばかり言うのね。

 エリク、あなたのそういう所、良くないと思うわ」


「何が悪いと言うのだ?」


「フラビアの事をよく知りもしないで一方的な事ばっかり。

 そんな事を繰り返していたら、何時か足元掬われるわよ」


「パティは私を嫌いになったか?」


「いいえ」


「ならば問題あるまい。

 パティにも随分と偉そうな事を言ってきたはずだものな」


「自覚あったの?」


「もちろんだ。

 別に私は自分を省みないわけじゃない。

 パティが怒る度に反省はしていたさ。

 けどな、それでも必要な事なのだ。

 誰だってパティのように強いわけではない。

 時には誰かに導かれたいと思うものだ。

 いや、パティもついさっきそうなったばかりだな」


 ディアナとの件で、身動きが取れなくなっていた。

いつものパティならこの程度の問題、即決していたはずだ。



「お主程の強さがあっても、それは避けられぬのだ。

 だからまあ、時には偉そうな事も言ってみせるさ」


 それが大人の務めだ。

若人達を導くには必要な事だ。



「私に対して怒りを抱くのも別に構わんのさ。

 怒りだって気を紛らわせるには十分だ。

 一度怒ってスッキリしてしまえばいい。

 それから冷静になった頭で、また話し合えば良い。

 パティになら嫌われないと信じている」


 これはズルい言い方かもしれんがな。

でもまあ、実際パティがその程度で私を真に嫌う事は無いだろう。



「フラビアになら別に嫌われても構わない。

 その時は私ではなく、パティの言葉が届けばそれでよい」


 誰かしらに心を開いてもらえればそれで構わない。

私達の目的は問題なく叶うはずだ



「エリク。違うわ。そういう事じゃないの。

 あなたは間違ってるわ」


「何がだ?」


「フラビアの事よ。

 あの子はエリクに依存してしまったの。

 これは貴方が勝手な事を言ったから。

 フラビアの事をよく知りもしないで」


「パティならわかると?」


「わかったのは結果だけ。

 私だってフラビアの事はよく知らないわ」


「何が言いたいのだ?」


「もしフラビアが貴方を狙ったらどうするの?

 独り占めしようとしてきたら?

 下手をすると味方にするどころか敵に回りかねないのよ?

 あなたはやりすぎたの。それも軽い気持ちで。真剣に相手に向き合う事もなく。

 そんな事を続けていれば、何時か惚れさせた娘達の誰かから背中を刺されるわよ?」


「フラビアが私に惚れ込んだと?

 パティはそう言いたいのか?」


「だからそう言ってるじゃない」


「私にそのようなつもりはない」


「例え裏切らなかったとしても、役目を果たしたフラビアが戻ってきたらどうする気?」


「どうもせん。

 私が関与する事はなかろうよ」


 例えここのメイドに再就職したって、私には関係ない。



「そういう所が良くないと言っているのよ。

 ちゃんと言葉の責任は取りなさい。

 自分にそのつもりが無かったとか関係ないわ」


「それこそ勝手な考えだと思うがな。

 フラビアがどう思っているかなんぞ、パティにだって正確には知り得まい」


「今はエリクの思慮不足について話しているのよ。

 自分は偉そうにあれこれ言うくせに、素直に聞く気はないわけ?」


「大げさだと言っておるのだ。パティの考えすぎだ。

 あの程度の事でいきなり惚れ込むわけはなかろう」


「そう思いたいのならせめて言動には気を遣いなさい。

 踏み込んで良いラインを予め決めておきなさい。

 勿論エリクだけで決めちゃダメよ。私達と相談してよ。

 エリクの言う通り、今なら間に合うかもしれないわ」


「お主はジュリちゃんの下へ行くのだろう?

 そんな余裕はないのではないか?」


 早くディアナと仲直りしたいだろうに。



「今すぐ話し合うわよ!」


「まあ待て。

 それは無理があるだろう。

 言動全てをすぐに変える事なんぞ出来はせんのだ。

 パティの言った事は真摯に受け止めよう。

 勝手にフラビアと会ったりもせぬ。

 それでこの件は一旦保留としよう」


「……なら次の面会はデート後よ」


「うむ。今度は余計な口は開かんよ。

 一先ずお主の好きなように計画を立ててみよ」


「そうね。台本を用意しておきましょう」


 大げさだな。

まあ、それで安心出来るならば付き合ってやるとしよう。

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エリク、いろいろ想定することができる頭の良さと自信満々な口調で騙されかけるけどたまにほんとポンコツ。
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