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01-57.交渉

「フラビアが目を覚ましました」


 ディアナと勉強をしていると、メイド長が現れた。



「よりによって今か……。

 パティとユーシャは少々外しておるのだ」


 しかもパティが本調子ではないと言うのに。



「存じています。

 既に二人は向かわれました。

 どうぞ、エリク様も。

 お嬢様の事は私にお任せ下さい」


「お主は良いのか?」


「例の件を先に済ませて頂いた方が話も早いでしょう」


「うむ。そうだな。

 ディアナ、悪いが席を外すぞ。何時戻ってこれるかはわからぬが、早めに戻れるようにしよう。くれぐれも無理はするでないぞ?」


「ええ。行ってらっしゃい。

 大人しくベットに戻っておくわ」


「うむ。それがよい。ではな」


 メイド長にディアナを託し、フラビアが療養兼収監されている部屋へと向かった。


 部屋の前には既にパティとユーシャが立っていた。

どうやら私を待っていてくれたようだ。



「エリク、来たわね」


「うむ。

 パティも問題無さそうだな。

 では行くか」


「くれぐれも用心して。

 ユーシャもね」


「うん!」


 パティがユーシャの手を握ってから、扉を開け放った。



「……」


 フラビアはベットに寝たままボーっとしているようだ。

意識が戻ったという話しだったが、何だか生気の感じられない眼だ。全身包帯でグルグル巻きなのを差し引いても、先日とはまるで別人だ。



「調子は如何かな?」


「……」


 反応がない。

とは言え、聞こえていないわけでもなさそうだ。



「早速だが私は交渉に来たのだ。

 いくつか頼みを聞いてほしい。

 約束してくれるならその傷を治してやろう」


「……治るの?」


 なんとなくそんな気はしていたけれど、フラビアが気力を失っているのは、やはり火傷が原因のようだ。

自らの容姿に自信がありそうだったからな。

それだけ失望も大きかったのだろう。



「うむ。今ならまだな。

 右手を見てみろ」


 フラビアが寝ている間に検証は済ませてある。

右手だけは綺麗なものだ。当然包帯も巻かれてはいない。

完治しきって痕として定着する前の今ならば、一切の痕を残さず消しさる事も可能なはずだ。



「お願い。なんでもするから」


 右手を見たフラビアは涙まじりにそう言った。



「その言葉、違えるなよ」


 私はフラビアの全身に強く魔力を流し込んだ。


 フラビアには慣らしなんぞしていない。

きっと魔力抵抗の影響で、全身がむず痒さとやらに襲われているのだろう。今にも暴れだしそうな様子だ。



「抵抗するな。

 身を委ねろ」


 まあ言ったところで従うのも難しかろう。

こやつからすれば、魔力を流し込まれるなど始めてなのだ。

仕方あるまい。力尽くで強引に抑え込んでしまおう。


 フラビアの全身を飲み込むように、膨大な魔力で強引に包みこんでいく。



「くっ!」


 フラビアは苦しそうにうめき声を上げるも、抵抗らしい抵抗もせずに、段々と魔力を受け入れ始めた。



「あっぅ……」


「こんなところか。

 パティ、包帯を取ってみてくれ」


「ええ。わかったわ」


 服と包帯が取り除かれ、フラビアの全身が段々と露になっていく。



「なんだ。

 普通にしていれば中々の美人ではないか。

 あれは服のセンスがいかんな。

 ついでにイメチェンしてみてはどうだ?」


「!?」


「ちょっとエリク。

 なにナンパしてんのよ。

 フラビア、はい、鏡。

 これで確認してみなさい。

 もうどこにも傷跡なんて残ってないわ」


「……ひっぐ」


 鏡を手に取ったフラビアは、嗚咽を漏らして泣き始めた。

パティは再び服を着せ直し、優しく肩を抱いて慰めた。



「パティこそ甘過ぎはせんか?

 そやつは敵だぞ?」


「約束したでしょ。

 これからやってもらう事があるんだから。

 ならもう敵じゃないでしょ」


 それは流石に極端すぎんか?



「……ぐす……なにすればいい?」


「落ち着いてからで構わん。

 今は約束してくれただけで十分だ。

 暫し休んでおれ」


「……お人形さん、お名前は?」


「名はエリク。

 人形ではない。妖精族だ」


「妖精さん……ほんとにいたんだ……」


「秘密だぞ」


「うん……えへへ……。

 ありがと。妖精さん」


 秘密だと言っておろうに。

この屋敷内ならともかく、王子の下でまで喧伝されては困るのだ。フラビアには戻ってもらわねばならぬのだし。



「それと、エルミラは無事だ。

 だから安心して休んでいろ」


「うん。それは聞いた。

 エルミラちゃんとも会いたいなぁ……」


「大人しくしておれば叶えてやろう」


「妖精さんも来てくれる?」


「ああ。頼み事があると言ったろう?

 良い子にしてればまた来てやるさ」


「うん♪」


 まるで幼子を相手にしているようだ。


 実は見た目より幼いのか?

いや、初対面の印象があれだっただけで、今のフラビアはパティともそう離れていないように見える。パティより肉付きは良いが、化粧の落ちた顔は少女と言っても差し支えない。



「やはりお主、今の方が良いな。

 ついでにパティに服でも見立て貰ってはどうだ?」


 いやまあ、殆どいつも学生服しか着ていないパティに、センスがあるのかは疑問だが。



「ねえ、エリク。

 あなた自分の格好を忘れているの?」


 黒ゴスですが何か?



「これは私の趣味ではない。

 単にこれ一着しか持っておらんのだ」


「ならエリクのも作りましょう。

 ジュリちゃん、腕は良いけど趣味はファンシー過ぎるのよね。でも大丈夫。他が作れないわけじゃないから」


 結局ジュリちゃんに頼むの?

ならもっと早くお願いしておけばよかった。

まあ、忙しすぎて会いに行く時間がなかったのだけど。


 パティはたまに一人で行ってるようだ。

最近は素材収集も始めているからな。

納品でもしているのだろう。

どうやら休暇中に全てを集め終えたいようだ。


 確かにそうでなければ間に合わんな。

来年度からは、私もディアナの付き人として学園に通わねばならんのだ。


 どうやらパティはディアナの一つ上の学年らしい。

しかもこやつ、あの多忙さで首席まで取っているそうだ。

本当に万能だなこの姫様は。


 いや、それはともかく。

ユーシャはパティの付き人を務める事になるので、私とユーシャは離れ離れになってしまうのだ。


 正直不安で堪らない。

今からでも計画の見直しを検討したいくらいだ。

やはりパティに留年してもらうべきなのでは?

どうにかしてお父上を説得するか?


 しかしそれだと、今度はディアナがパティを超える必要が出てくる。当然首席は学年に一人だ。どう考えても無謀過ぎる。唯でさえ高いハードルが更に跳ね上がってしまう。


 何せパティのやつ、満点以上しか取ったことが無いなどと宣っているのだ。以上ってなんだ?上があるのか?百点満点で百二十点取ってるのか?


 何にせよ、フカシという事はあるまいて。

パティの事だ。本当にそれだけの点数を取っているのだろう。でなければ、禄に勉強の経験も無い箱入りお嬢様をいきなり首席にするなど不可能だ。お父上も一笑に付していただろう。



「エリク」


「ああ、うむ。スマン。考え事をしていた。

 そろそろ御暇しよう。フラビア、しつこいようだがくれぐれも大人しく寝ているのだぞ。お前の体が損なわれれば私にとっても損失だ。恩を感じているならば、そう理解して休養に努めよ。良いな?」


「えへへ♪うん♪」


 うむ。素直な良い笑顔だ。

逆ギレされるかとも思ったが、どうやら本気で恩と思ってくれているらしい。

まあ、また冷静になったらどうなるかはわからんがな。

念の為、用心は欠かさぬようにせねばなるまい。



「エリク」


「エリク」


「何だ二人とも?

 何を怒っている?」


 二人は無言で私を連れて退室した。



「ねえ、エリク」


「なんだ、ユーシャ?」


「エリクは胸が大きければ誰でも良いの?」


「何を言っておるのだ?

 意味がわからんぞ?」


「ねえ、エリク」


「いや、違うぞパティ。

 私は決して巨乳好きと言うわけでは」


「へぇ~?

 本当に~?

 本当は私に思う所があるんじゃないの?」


「待て!勘違いするな!

 私はなんならパティの体が一番好みだ!」


「エ・リ・ク~?」


「違うぞ!いや!違わないが!

 何にせよ一番大切なのはユーシャだ!

 それは間違いない!」


「ちょっと、この浮気者どうしてくれようかしら」


「シメる」


「そうね。そうしましょう。

 丁度今、手元に良いものがあるわ」


「待て!待つんだ!おい!

 こら!薬瓶を近づけるな!

 何だその袋は!?は!?まさかあれが!?

 あれが完成していたのか!?

 ダメだって!暗いのは怖いんだってばぁ!

 謝るから!何でもするからぁ!それだけは止めてよぉ!」


「何でも?」


「何でもって言ったわね」


 は!?しまった!?



「仕方ない」


「そうね。仕方がないわ。

 それに、流石に可愛そうだものね。

 一切の光が差し込まない暗闇に閉じ込めるのは」


 脅されてる!?

撤回したら閉じ込められる!?



「さあ、行きましょう、エリク。

 先ずはメアリに報告してからね」


「早く行く。

 エリクにやらせたい事、いっぱいある」


 いっぱい!?

一つじゃないの!?

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