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01-55.我慢と代償

 部屋に戻るまでユーシャは一言も喋らなかった。


 まあ、これ自体はいつもの事なんだけども。

ただ今日に限っては、明らかな怒気をはらんでいる。

パティの勝手な計画に、ユーシャは怒り心頭なようだ。



「ごめんなさい」


「……何が?」


 ユーシャ怖い……。



「ユーシャに相談せず勝手に決めた事よ」


「必要なことなんでしょ?

 私がパティと結婚する為には」


 おや?

そこは理解していたのか。

珍しい。今日のユーシャは出来る子なのかもしれない。



「そうだけど、勢いで決める事じゃなかった。

 ちゃんとユーシャと相談して決める事だった。

 ごめんなさい。反省してます」


「……そう。ならいい」


 そう言ってユーシャはベットに倒れ込んでしまった。

このまま不貞寝するつもりらしい。



「ユーシャ」


「大丈夫。

 エリクは忙しいでしょ」


 確かに色々と計画は練らねばならんが……。

というか、まだ寝るにはだいぶ早い時間だし。

なんなら夕食もまだだ。


 とは言えだ。

まあ私が優先するべき相手は決まっているのだ。



「すまんな、パティ。

 計画を立てるのは明日にしよう」


 私はユーシャの腕の中に潜り込んだ。

ユーシャは跳ね除ける事はせず、私を抱きしめてくれた。



「……ユーシャ」


「パティはディアナと話す事があるでしょ。

 行ってきて良いよ」


「でも……」


「行ってきて」


「はい……」


 パティはトボトボと部屋を出ていった。

可愛そうだけど仕方あるまい。

今回ばかりはパティが悪い。



「……ごめんなさい」


 今度はユーシャが謝ってきた。

さっきまでの怒りはすっかり消え失せて、ユーシャまで落ち込んでしまっているようだ。



「何がだ?」


「……我儘言っちゃった」


「そうだったか?

 恋人の勝手を咎めるのは当然の事であろう。

 順番を間違えたのはパティの方だ」


「……エリクはどう思う?」


「あの計画の是非か?

 本音を言うなら論外だな。

 正直パティには身分を捨てて駆け落ちしてもらいたい」


「全部投げ出して?」


「当然ディアナの治療が済んでからだ。

 聖女の遺産を見つけ、完治させて、その後の話だ」


 手段は何でも良いが。



「ディアナ、寂しがる?」


「だろうな。折角パティと仲直り出来たのだ。

 今後はもっと仲良くなっていくだろう。

 相応に別れも辛くなるに決まっている」


「……そうだよね」


「だがな。パティには私のユーシャを与えるのだ。

 必要なら国や家族くらいは捨ててもらわねば困る」


「そんなの……」


「仕方がないのだ。

 パティは王族だ。

 自由を得るには代償が必要だ。

 こればかりは避けようがないのだ」


「……そう……なんだ」


「うむ。

 だからお前が気に病む事はない。

 全て私が差配しよう。

 ユーシャの幸せのためなら何でもしよう。

 だから安心しなさい。私に任せておきなさい」


「……ありがと」


「うむ」


「けど……ダメだよ」


「そうか」


「うん。だって私決めたもん。

 パティに相応しくなるって。

 パティの足を引っ張るのは違うもん」


「ならば貴族や王族にでもなってみるか?」


「なれるの?」


「……この国では無理であろうな。

 少なくとも絡め手の類は。

 既にユーシャは目を付けられてしまっておる」


「ならやっぱり逃げるしかないの?」


「どうだろうな。

 逆に上手く功績を上げれば、取り立てられるかもしれん。

 さすれば貴族になることも可能ではあるかもな。

 とは言え、王族との釣り合いを考えると到底足りんか。

 何処ぞの貴族家の養子にでも迎えてもらわねばならんかもな」


「よくわかんない」


「まあ、私も詳しくは知らん。

 なんとなくで話しているだけだ」


「ふふ。もう。エリクったら」


「ディアナが完治すれば領主様の助力も得られるやもな。

 パティにはああ言っていたが、私の望みならばどうだろうか。借りが返せるならばと尽力してくれる可能性もある」


「う~ん……なんかやだな」


「ディアナを利用するようでか?

 パティの案と大差あるまい」


「……そうだけどさ」


「何にせよ、現状では何もかもが絵空事だ。

 先ずは出来る事をやろう。

 積み重ねの先にこそ選択肢も生まれるのだ」


「我慢できるかな?」


「伴侶が自分を蔑ろにして怒りを感じるのは自然な事だ。

 だからと言って、感情のままに振る舞うのはマズいよな。

 それはユーシャもわかっている。

 だからそう問題もあるまいよ。

 お前はよく我慢した。

 私は認めるよ」


「うん……」


 ユーシャは更に腕に力を込めた。

結局そこからそう時間を置かず、静かな寝息が聞こえてきた。

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