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01-54.交渉と報酬

「もうよい。十分わかった。

 そろそろ終いにしよう」


 パティはずっと走り続けていた。

先程の全力疾走と変わらない速度で、我武者羅に延々とだ。

とうにパティの限界は超えていたはずだ。

しかし、未だ息一つ乱してはいない。


 これ以上は必要あるまい。十分確認は済んだ。

やはり私が魔力を流せば、エリクサーの効力も生じている。

そう結論付けて問題あるまい。


 継続的な検証はもう少し計画を立ててからだ。

これ以上は思いつきを確認するより、現状でわかった事を纏めるべきだ。メイド長の意見も聞いておきたい。



「やるべき事は単純よ。

 ディアナに魔力を流して運動させる。

 この回復効率なら十分実現可能なプランよ!」


「当然それだけでは完治には至らん。

 ただそれでも、大きな影響はあるだろう。

 もしかすると、何れ自らの力で病を克服するやもしれん」


 ただ、この方法には他にも懸念がある。

異常な回復速度のメカニズムを把握できない事には、寿命を縮めているという可能性が付き纏ってしまうのだ。


 まあ、流石にエリクサーにそんなデメリットがあるとは思えないが……。


 ただそもそも、"エリクサー"とは私が勝手に呼んでいるだけで、女神は"万能回復薬"としか呼称していないのだ。私の想像しているものとは別物な可能性も捨てきれない。



 それに例え健康な肉体を得ても、新陳代謝が高まる事でかえって病の進行が進むかもしれない。

そもそも病の詳細もわかってはいないのだ。


 恐らく一度始めれば付きっきりで見守る必要がある。

場合によっては一生側に付いている必要もあるかもしれん。

手を出すならば、それくらいの覚悟は持つべきだ。



 そして、これはあくまで時間稼ぎと割り切ろう。

やはり病の完治には別の何かが必要だ。


 ディアナ自身が病への抵抗力を身に着けられれば望ましいが、それ以外の手段も探しておくべきだ。例の聖女の使ったとされる女神の落とし物とやらも、見つけ出す必要がありそうだ。



「なるほどね。

 そうね。エリクの懸念も尤もだわ」


 パティにも考えを伝えると素直に納得してくれた。

少しは冷静になってくれたようだ。



「ならディアナも加えましょう!」


「何にだ?」


「恋人によ!

 エリクはディアナと離れられないんでしょ?」


 ダメだ。全然冷静じゃなかった。



「馬鹿を言うのはよせ。

 ユーシャが怖くないのか?」


「パぁ~ティぃ~?」


 時既に遅かった。もうブチギレてる。



「ごめんなさい!

 調子に乗りましたぁ!!」


 判断が速い!



「……そういうのはダメだと思う。

 ちゃんとディアナと相談して決めなきゃ」


 ユーシャはパティの両頬を抓んでコネコネしながら、そう告げた。どうやらこの状況で浮気はダメだと強くは言えなかったようだ。ユーシャなりに気を遣った言葉なのだろう。


 パティはユーシャを抱きしめて大げさに頬ずりを始めた。

ユーシャの気持ちに気付いて、取り敢えずこの場を誤魔化すことにしたようだ。



「パティ」


 丁度そこにメイド長が現れた。

この妙な空気を流すのには丁度良い。

ナイスタイミングだ。メイド長。



「どうしたの?」


「昨晩の件で」


「ああ、忘れてたわ。

 そうよね。叔父様もエリクと話したいって言っていたものね。ごめんなさい。今から行くわ」


「そちらはよろしいのですか?」


「ええ。丁度キリが良かったの。

 後で相談したい事があるわ」


「畏まりました」


 メイド長を先頭に、今度は領主様の下へと向かった。

昨晩の件で色々話しがあるのだろう。

こちらとしても伝えるべき事がある。

むしろこちらから面会を申し入れるべきだったな。

これは申し訳ない事をしてしまった。




「やあ!エリク殿!

 お呼び立てしてすまない!

 早速だがディアナから話は聞かせてもらった!

 パトリシアとディアナの為に一肌脱いでくれたそうだな!」


 あれ?そっち?

なんかテンション高くない?



「なんとお礼を言っていいものか!

 本当に感謝している!」


 深々と頭を下げる領主様。

恐れ多すぎる……。



「どうか頭をお上げくださいませ。

 私はただ大切な友の為にお節介を焼いたにすぎません。

 むしろ出過ぎた真似をしたのではないかと懸念していた程です。ですからそう言って頂けて安心致しました」


「出過ぎた真似などとんでもない。

 正直な話、私にとって長年の悩みのタネでもあったのだ」


「ご心労をおかけして申し訳ございません。叔父様」


「うむ。そうか、そう呼ぶという事は……。

 この短期間で随分と心を開いたものだ。

 ああ。うむ……失礼」


 目を潤ませて視線を逸らす領主様。

感極まって言葉に詰まってしまったようだ。



「叔父様。お伝えしたい事がございます」


「なんだい、パトリシア?

 何でも言ってみたまえ」


 未だ目端に涙を滲ませたまま、微笑みながら問いかけた。



「私パトリシアは、このエリク、ユーシャ両名と交際を始めました。どうかお認め頂けますでしょうか」


 おい!

いきなりぶっこむな!

まさか報酬のつもりか!?



「……?」


 領主様は一瞬キョトンとしてから、少し考えて、もう一度キョトンとして、疑問符を浮かべながらパティに視線を送った。



「すまない。もう一度言ってもらえるか?」


「私はエリクとユーシャを伴侶に迎えたいと考えています。

 叔父様にも祝福して頂ければ幸いでございます」


 何で!?

何で要求を繰り上げたの!?

何で段階すっ飛ばしたの!?

マジ何考えてんだこいつ!?



「……エリク殿」


「……事実でございます」


「……そうか」


 あかん。めっちゃ難しい顔で考えてる……。



「失礼だが、それは、その……妖精族の方は……」


 めっちゃ言葉濁しまくってる……大貴族の当主様が……。



「雌雄は人間と変わりません。

 その嗜好にも個体差があります。人間と同じく」


「うむ……」


 めっちゃ複雑そうだ……。

そりゃそうだ……。

むしろ即刻首を刎ねられなかっただけ温情だ……。



「叔父様。

 この件は私から無理を言って迫ったのです。

 エリク達に非はありません」


「そうか……」


 ダメだ。まだ戻ってこれそうにない。



「どうか、お認め下さいませ」


「……ならぬ」


「叔父様!」


「ならぬぞ、パトリシア。

 これは何も感情的な話ではないのだ。

 お前は陛下からお預かりした大切な娘だ。

 私には責任がある。親としてだけではない。

 こればかりは認めるわけにもいかんのだ」


「それは!」


 領主様の言葉にパティも反論できなかった。



「旦那様、昨晩の件ですが」


 メイド長が話の流れを無理やり切り替えた。

これは果たしてどっちに対する救いの手だったのだろうか。



「うむ。

 エリク殿。

 順序があべこべで申し訳ない。

 昨晩のご活躍も聞いている。

 重ね重ね感謝申し上げる。

 このご恩、なんとしてもお返しさせて頂こう」


「そちらも元はと言えば私共が招いた事。

 不用心にも賊を招き入れる結果となったこと、お詫び申し上げます」


「いや、それこそ貴殿が気にする事ではない。

 聞けば、狙われたのはユーシャだったとか。

 貴殿は我が家の使用人を守ってくださったのだ」


 これ以上は止めておこう……。

ユーシャと私の本当の関係は伝えていないのだし。



「お役に立てて何よりです」


「最近ではディアナの体調も随分と好転しているようだ。

 本当に何から何までありがたい」


「叔父様」


 パティが何やら思いついたようだ。



「どうか、ディアナを頂けないでしょうか」


 は?



「なんだと?」


 流石に領主様も声音が硬い。



「ディアナに試してみたい治療方法がございます。

 しかしながら、一度ひとたびそれを始めれば、エリクはディアナの下を離れられなくなります」


「待ちなさい、パティ。

 まだ検証が済んでいないわ。

 半端な事を言うものではないのよ」


 何故今この場でその話を持ち出した?



「その件とお前がディアナを欲する事にどう関係がある?」


「私とディアナの婚姻をお認め下さい。

 エリクとユーシャはその後で構いません」


 ディアナを正妻とするのか?

私達を側室か何かにして?

それならば領主様の面目も立つのか?

いや、どのみち同性……。



「ならぬ」


「もちろん、これはディアナの完治が条件です。

 ディアナ本人の望みに反して強制する事もありません」


「ダメだ。

 認められん」


「ディアナ本人からの願いであればお認め頂けますか?」


「パトリシア、いったいどうしてしまったと言うのだ?」


「お答えを。叔父様」


「ならぬ。

 ディアナでは陛下もお認めにはならん。

 病が完治しようがそれは変わらん。

 お前の望みは叶えられん」


 パティの父親、国王ってそこまで口出しするの?

パティが王族だから?血をバラ撒くのは問題があるとか?

何十人も側室作った王様がそれを気にするのか?

そもそも同性同士なら関係なくない?

だとすると血は関係ない?

あくまでパティ自身を王様が気にかけてるの?


 問題はそこじゃないんだけど、それはそれで気になる。

なんだか領主様の態度も妙だし。

あくまで、許可云々の話しかしていない。

自分の権限を超えるから許可が出来ないと言っているように聞こえる。感情的なものは一切合切切り分けて考えているのだろうか?



「ディアナの価値を示しましょう。

 来年度から学園に編入させ、首席を取らせましょう。

 私は新学期より休学し、ディアナをサポート致します。

 来年度まで、ディアナの治療と教育に専念致しましょう。

 ディアナが卒業時まで首席を継続できたなら、どうかその時は私とディアナの婚姻をお認め下さい」


「……認められぬ」


「叔父様」


「休学は認められぬ。

 手を貸すのは休暇中のみだ。

 その条件ならば容認しよう」


「ありがとう!叔父様!!」


 パティが跳ねるように領主様に抱きついた。

さっきまでの殊勝な態度が嘘のようだ。

しかも最初から休学が認められない事は織り込み済みだったのか。



「流石に無謀では?」


 来年度まで、当然あと一年もないのだ。

それまでにディアナの体質を改善し、遅れている勉強もしなければならない。


 けどあのお嬢様、勉強してるところなんて見たこと無いよ?

本当に首席とか取れるの?


 そもそも視力悪すぎて黒板とか見えなくない?

まあ眼鏡くらいあるか。この世界にも。



「それに私が常に側にいる必要があるのですよ?

 どうやって学園にまで付きそうのですか?」


「方法はあるわ!

 学園には従者を一人連れていけるの!」


 妖精族連れ歩くの?

それまでに例の私の体完成させる気?


 これは流石に領主様の前では聞けないけど。


 と言うか、学園って行っても大丈夫なの?

ユーシャ、王族から狙われてるんだよね?



「何にせよディアナと、そしてユーシャの説得が先ですね」


「あ……」


 また忘れてたの?

ユーシャもずっとこの場にいたのに?

私知らないよ?

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