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01-52.光明

「遅くなってごめんね、ディアナ。

 今朝の調子はいかが?」


「絶好調よ。パティ」


 本当に体調が良さそうだ。

ついでに機嫌も。なんだかスッキリした顔をしている。

話し合うのはこれからなのに。



「それでは診察を始めよう」


 私がディアナの側に寄ると、ディアナは慣れた調子で腕を出してくれた。


 私はディアナの腕に魔力を流し込み、少しずつ全身へと広げていく。


 パティとも繰り返してわかった事だが、やはり魔力は流せば流す程馴染むようだ。ディアナにも最初の頃よりだいぶ通しやすくなっている。今では特にくすぐったがる事もなく受け入れている。



「うむ。昨日と代わり無いな。

 この調子ならば心配もあるまい」


 今日明日にでも急変するという事も無いだろう。

体の隅々まで、それこそ頭までも確認したのだ。

なんならレントゲンとかより確実に違いを読み取れる。

見極める為の知識が足りているかどうかはともかくだが。

そこは私が精進するしかあるまい。



「ふふ。ありがとう。お医者様♪

 お陰様で最近は特に快調よ♪」


 本当にな。ここ数日は咳き込む所すら見ていない。

昨晩も随分と興奮させてしまったというのにだ。



「でもね。私、なんだか物足りないの。

 エリクが魔力を抜いちゃった後、無性に寂しくなるの」


「わかるわ!

 やっぱあるわよね!そういう感覚!」


「依存性でもあるのか?

 いかんな。それは調査してみなければなるまい」


「「もう!そうじゃないでしょ!」」


 息ぴったりだな。

仲直りなんぞ必要無かったか?



「ならば何だと言うのだ。

 何かしら変化があるのなら、徹底的に詰めておくべきだ。

 これは遊びでは無いのだぞ?」


「そうね。悪かったわ。

 エリクの立場ならそう考えるのは当然よね」


「他人事みたいに言うでない。

 パティは気持ちも立場も同じであろう」


 ともすれば私以上に強い想いがあるはずだ。



「ごめんなさい。燥ぎすぎたよね。

 違うの。そうおかしな話しじゃなくてね。これを言うのは少し照れくさいのだけど、エリクが魔力を流してくれると、エリク自身が私の中に入ってきてるみたいに感じるの」


「まあ、あながち間違いでは無いがな。

 私は魔力と水分と謎の成分の塊だ。

 大部分を占める魔力を流し込んでいるのだ。

 これは私自身が入り込むのとも同義であろう」


 私の感覚が侵食された物体にまで延長されるのは、それが原因なのだろう。


 そもそもの話、パティ達が認識している魔力と私の魔力は、厳密に言えば別のものなのかもしれんな。


 だとするなら、このままディアナの全身に魔力を流す時間を増やせば、わたしの成分も流れ込む可能性があるのではなかろうか。


 診察を始めてから体調が日に日に良くなっているようにすら見えるのは、それが理由なのでは?


 いくらエリクサーに病そのものを治す効能が存在せずとも、弱った体を補う事は出来るのだ。

もし常にエリクサーに浸らせた状態で過ごせるなら、十分な効果が期待できるはずだ。


 もしかすると、通常の運動や食事等と言った方法で体を強くする事も出来るやもしれん。常時エリクサーが体を癒やし続けるなら、多少の無理も効くはずだ。これは試してみる価値がある。



「パティ、すまんが早急に一つ試してみたい事が出来た。

 話しが終わったらすぐに合流してくれ」


「先にやりましょう」


 私の態度から、パティは何かに気付いたようだ。

真剣な表情で提案してきた。



「いや、検証そのものには恐らく時間を掛ける必要がある。

 例の話が終わってからで構わん」


「わかったわ。

 部屋で待っていて」


「あら、エリクは見届けてくれないの?」


「まあな。

 パティが気恥ずかしいそうだ。

 代わりはメイド長に頼んである」


「もう。余計な事言わないでよ」


「ふふ。パティったら」


「ではな、二人とも。

 それにメイド長。後は頼んだぞ。

 さあユーシャ、帰るぞ」


 相変わらずユーシャはディアナの前ではカチコチだ。

未だに最初の失敗が尾を引いているのだろうか。


 ユーシャに【侵食】と【傀儡】を使って体を動かし、一礼させてからディアナの部屋を後にした。



「ありがとう」


 廊下で二人きりになると、ユーシャが小さく呟いた。



「何の礼だ?」


「体動かしてくれて」


「むしろそこは勝手な事をするなと怒る場面では?」


「なんで?」


 またこの子は……。



「今回だけだぞ」


「うん。頑張る」


 何時も決意だけはいっちょ前なのだがな。



「さっき言ってたのって、私じゃ無理なの?」


「ああ、うむ。おそらくな。

 パティの体で確かめるべきだな。これは」


 ユーシャではいくつか問題があるのだ。


 先ず実験方法としては指先にでも小さな切り傷を作ってみて、そこに集中的に魔力を流してみる必要があるだろう。


 それで傷の治りが早くなれば成功だ。

そうなれば、次の実験をしてみる必要があるだろう。


 魔力を流しながら運動させてみるのだ。

持久走のような事をさせれば手っ取り早かろう。

こちらはメイド長にも付き合ってもらおう。

パティとディアナ程ではないが、メイド長も十分私の魔力に馴染んでいる。実験結果は確認できるはずだ。


 これでもし体力の消耗が抑えられるなら仮説は正しい事になる。後はディアナに魔力を流し込んで軽い運動からさせていくのだ。食事のメニューも考え直さねばいかんだろうな。少しずつ、体作り用のものにシフトしていく必要がある。メイド長に頼んで専属コックとも話をさせてもらおう。



 ただし、そう上手くいくとは限らない。

それはユーシャの問題とも関係がある。


 ユーシャの体は元々特殊なのだ。

しかも私の側に居続けた事で、既に魔力が自然と染み込んでもいたようだ。ユーシャの傷の治る速度は人より多少速いとは思うのだが、とてもエリクサーに浸かっているような速度とは思えない。少なくとも、傷ついた瞬間に傷が癒えるような事はない。


 問題はこれが流し込まれている魔力の量に関係しているのか、それともエリクサーであろうとも使い続ければ耐性のようなものが出来てしまうかだ。


 薬物である以上、乱用すれば効き辛くなる可能性もある。

ユーシャは既にその段階に至ってしまっているのかもしれない。


 そもそも傷の治りの速さが元々の体質によるものなのか、私由来のものなのかすらもわからぬのだ。比較対象としては不適切だ。


 その点元の体質に大きな違いはあれど、血の繋がりのあるパティとディアナであれば都合が良いと思われる。


 それに二人は私が魔力を流し始めたのも同時期だ。

パティの方が量は多いだろうが、まだ始めてからそう時間は経っていない。ユーシャと比べれば尚の事だ。


 最悪、エルミラとフラビアの二人もモルモットにしてしまおう。特にフラビアは都合も良かろう。この世界のポーションだって、あの火傷痕は治しきれまい。もし私がそれを取り除けるなら、フラビアも同意してくれるのではなかろうか。



「また考え込んでる」


「すまん。ついな。

 この気付きは重大な変化を齎すかもしれんのでな」


 ユーシャはユーシャで試しておく必要もあるだろう。

緊急時に使える手札かどうか把握しておかねば。

これはパティの受け売りだがな。



「そっか。

 良かった。

 ディアナ、治ると良いね」


「うむ!」

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