表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/364

01-51.騒動の原因

 襲撃者騒動から一夜明けて、何事もなく朝は訪れた。

用心して一晩警戒を続けていたが、特に追撃も無かったようだ。他に仲間はいなかったのだろう。


 先ずはメイド長と合流しよう。

既にエルミラの尋問は済んでいるだろう。

結果を聞かねばならん。


 一応二人目の襲撃者の容態も聞いておかねばな。

まさか話しが出来る状態とも思えんが、何を仕出かすかもわからんのだ。用心しておこう。


 後はディアナとの約束を果たしに行かねば。

今日の診察の時間は開始を遅らせてもらうとしよう。

時間も長めに取らねばな。ディアナの方で手配してくれてはいるだろうが、一応メイド長に会った時にでも伝えておかねばな。


 他にはあっただろうか。

私の体の素材集めはまだ行けそうにないな。

今の状況でパティにこの屋敷を抜けられるのは困る。

この件はパティと相談しておこう。


 何時もの図書館での調査と治療方法の研究はその辺りが済んでからだな。本来やるべき事が後回しになるのは申し訳無いが、今回ばかりは仕方あるまい。遅れた分はより頑張って取り戻すとしよう。


 今日は一段と忙しくなるな。

そろそろ二人を起こして行動を始めよう。




----------------------




「エルミラは素直に吐きました。

 もう一人の襲撃者、フラビアが破れた事を知り、抵抗は無駄だと判断したようです」


 あのカラフル女はフラビアというのか。

エルミラはフラビアの力を信頼していたのだろう。

頼みの綱が敢え無く敗れ去った事で、心が折れてしまったのかもしれんな。



「フラビアの容態は?」


「一命は取り留めました。

 ですが意識が戻るのはまだ随分先になるかと」


 無理もない。酷い火傷だった。

あれで生きている事の方が驚いたくらいだ。

至近距離で数千度はあろう火球の爆発に巻き込まれたのだ。

魔力壁を知らなかったとはいえ、随分と無謀な事をしたものだ。



「エルミラは何て?」


「第三王子殿下の関与は確実かと。

 目を付けた理由も最初に言っていた通りです。

 国境の検問の際にユーシャの存在が知られたようです。

 第三王子殿下以外にも目を付けた者達がいるはずです」


 なん……だと……。



「まあそうよね。考えてみれば当然の話だわ。

 この国、特に王族は昔から魔術師を積極的に迎え入れるようにしているから」


 ああ、そうか。

パティは常人の百倍の魔力を持つと言っていた。

おそらく王家の一族は代々魔力の多い者をその血に取り込んできたのであろう。所謂サラブレットというやつだな。あってたっけ?


 まあ、あれだ。

ユーシャは目を付けられていたのだ。

第三王子の伴侶、いや、平民の小娘など伴侶とは呼ぶまいな。ただ子を産ませるだけの存在として見出したのだろう。


 検問で拘束されなかったのは運が良かった。

本来なら、あの場で強制的に王族の下まで連れて行かれていてもおかしくはなかった。


 おそらくここの領主の管轄だから、何事もなく通してくれたのだろう。善良な兵達は一旅人の人生をいきなり奪うなど、良しとはしなかったのだろう。


 これは恩として受け取っておくべきかもしれんな。

何れ返せる時が来ると良いのだが。

ディアナの治療を益々頑張らねばな。



「それであっさり喋ったわけか。

 この国の者達はある意味常識として知っていたのだな」


 特段隠すような理由でもなかったのだ。

私がこの国の事を禄に知らぬと判断し、勿体つけて秘密を明かすように話しただけだったのだろう。



「いえ、それはそれです。

 単にあの者が未熟なだけです」


「そうよ。

 密命だったのは間違いないもの。確かに国は魔力を持つ者を重宝してはいるけど、大っぴらに徴収しているわけではないわ。例え王族であろうとも、自分の管轄でもない地域から勝手に強奪していいわけがないの。

 それに想像つくからって、ペラペラ喋って良いわけないでしょ。主の許可なく存在を明かすなんて論外よ。全部我が身可愛さに決まってるわ」


 それはそう。



「第三王子はもしや人手不足なのか?」


 あのバカ二人に任せるほどだ。

単に我々を重要視していなかった可能性もあるが。



「どうかしら。

 あれって人望は無いけど権力だけはあるタイプなのよ。

 将来傀儡にする気満々の太鼓持ち共が勝手に優秀な人員を用意する事もないわけじゃないわ。

 よっぽど無能が差配したのか、或いは自ら動いて裏ギルドにでも足元見られたとかかしら」


「恐らく裏ギルドの関与は間違いないかと。

 現在事実関係を調査中ですが、エルミラ自身はそう供述しています」


「裏ギルド?」


「あ~。

 まあ、教えておきましょうか」


 なんだか渋々だ。ついうっかり口が滑ったのだろうか。

あまりユーシャには聞かせたくなかったか?

とは言え、今後関わる可能性もあるでな。

知っておくに越したことはあるまい。



「裏ギルドっていうのは俗称でね。

 冒険者ギルドのパチモンみたいなものよ。

 それがまあ、裏の世界にはいくつも存在するのよ。

 それら纏めて裏ギルドって呼んでるわけ。

 要は暗殺者だとか、盗賊団だとかに渡りを付けられるような連中なのよ」


「何故そんな連中を使ったのだ?

 手駒くらいいるはずでは?」


 何せ第三王子なんだし。

いくら人望ないからって、ゼロって事は無いだろう。



「さあ?そこまでは知らないわ。

 大方、叔父様の領地に手を出すのを腰巾着共が嫌がったんでしょうね。叔父様って影響力大きいから。一度でも睨まれれば第三王子の派閥だからってただじゃ済まないもの。あのバカ王子が守れるとも思えないし」


 何時になく辛辣だ……。

パティは第三王子を毛嫌いしているようだ。



「もしくは他の兄様、姉様達が既に牽制していたのかも。

 あれは自分の獲物だから余計なことはするなよって。

 そんな状況で隠れて手を出すには、裏ギルドの連中は都合が良かったのでしょうよ」


 それはそれで洒落にならんな。

他のもっと優秀な者達が、ユーシャを奪おうと備えているやもしれんのだ。


 今回最速で動いたのが第三王子だったというだけの話だ。

これはうかうかしてられんな。



「この屋敷に滞在する限り、お二人の安全は保証致します。

 我らが主はそのように仰せです」


「叔父様なら心配は要らないわ。

 ここはある意味そういう子達の避難所でもあるのだし」


「パティ、余計な事は」


「ごめんなさい。失言だったわね」


 何だ?

これは聞き返さぬ方が良いのか?



「とは言え、武力でこられてはどうにもなるまい」


 実際、誰一人フラビアの侵入を止められなかったのだ。



「あれはデタラメだもの。仕方ないわ。

 いえ、仕方ないでは済まないのだけども」


「面目ありません」


「あなたはメイド長よ。

 あなたが謝る事ではないわ」


 そうだよ!

何でメイド長が武力のトップみたいな雰囲気出してるの!?

おかしくない!?今更だけど!!



「そもそも敵を招き入れたのは私達だもの。

 謝罪すべきはこちらの方よ」


「そのように他人行儀な物言いはお控え下さい。

 主が悲しまれます」


「それはそれよ。

 叔父様にも後で謝らないと」


「引く気はないのですね。

 ならば私も"お嬢様"とお呼び致します」


「もう。メアリの意地悪」


 パティはこの家の当主の義理の娘でもあるのだものな。

母を喪って転がり込んだというのも事実ではあるだろうし。



「メイド長、パティの件で相談があるのだが」


「お聞きしましょう」


「昨晩パティが約束してくれたのだ。

 ディアナに本当の事を話すと」


「まあ!素晴らしい!

 流石はエリク様です!」


 メイド長のこんな嬉しそうな顔始めてみた。



「端折らないで。

 話すのは私の活動についてよ。

 義理の姉妹だとか、従姉妹だとかは言わないわよ」


「今はそれだけでも十分でございます。

 よくぞ決心して下さいました」


 パティの手を握って再び嬉しそうに微笑むメイド長。

パティは照れくさそうだ。



「それでだな。

 この後ディアナの診察に行った後、我々は席を外そうと思う。メイド長が代わりに立会人となってはくれぬか?

 二人が仲直りする大切な場だ。お主以上に相応しい者などおるまい」


「よろしいのですか?」


「我らがいては話しづらい事もあろう」


 私はともかく、ユーシャの前では気恥ずかしかろう。



「別にそんな事無いわよ。

 ……でもありがとう」


 なんか可愛いな。

もっと見てみたい。こういうパティ。



「それでは作戦開始だ。

 行くぞ。皆のもの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ