07-73.没収
扉が開いた。
十年暮らした家に別れを告げ、私たちは箱庭の外へと踏み出した。
「わ♪ みんな成長しましたね♪ ふふ♪ 綺麗ですね♪ パティ♪ 十年ぶりですね♪ 私はついさっき小さなパティを送り出したところですが♪」
レティが言いながら飛びついてきた。真っ先に私とパティを抱きしめてくれた。
「会いたかった……会いたかったわ……レティ……」
あらま。泣き出しちゃった。
「ふふ♪ どうしちゃったんですか♪ パティ♪ こんなに大きくなったのに♪」
レティお姉ちゃんにパティを任せ、私は他のメンバーに向き直る。
「どうするの? この後またディアナと籠もるのかしら?」
リタが問いかけてきた。私が否と言えば一番に立候補するつもりなのだろう。
「悪いが少し休ませてくれ。それから話をしよう。いくつか問題が起きた。この箱庭の改修も必要だ」
「あら。そうなのね……まさかやめるとか言わないわね?」
鋭いなぁ。
「「ギンカ!! 誰ですかその子たちは!!」」
ネル姉さんとルベドが飛びついてきた。早速、私の中に住まう新たな家族の存在に気付いたようだ。
「その話もしよう。箱庭の問題とも無関係ではないのでな」
ダンジョンが独りでに成長してしまうかもしれん。早く動かねば。
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「遅かったか……」
いや、そうだよね。そりゃそうなるよね。
「今はね~♪ 時間を同期させているわ~♪」
「ありがとう。母さん」
とは言え手遅れだがな。
やはり色々と想定漏れが多いな。今回のは輪をかけて厄介な問題だが。
「どうしましょう。これ」
どうしようなぁ~。
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この箱庭は元々、中に誰も入っていない状況で扉が閉まっていると時間が止まる仕組みだった。
逆に言えば、中に誰か一人でも入っているなら、時間は経過する。それも現実世界とは比較にならない速さで。
私たちが箱庭を出て、扉を閉めるまでのほんの一瞬。
おそらくその一瞬で数万年が経過したのだろう。
扉が開いている間は時間が止まる仕組みも付けておくべきだった。片手落ちだな。
まあ何があったかと言うとだ。
その一瞬の間にダンジョンが生まれたのだろう。そしておそらくダンジョンからフィリアスが抜け出したのだ。自らを産み出したダンジョンのコアを掌握して。オトヒメと同じように。しかしオトヒメと違ってダンジョンの中に引き籠もり続けることはしなかったのだ。
箱は内部に存在する生命体に反応して、時間凍結を行わなかった。その結果、母さんが箱庭の仕組みを書き換えるまでに、数万年どころでない時間が経過してしまった。
箱庭世界を覗いて驚いた。フィリアスたちだけの楽園が誕生していたからだ。
元来がダンジョンボスである彼女らには、寿命が存在していない。未だ真のフィリアスに至っていない者であっても、十分な力を身につけるだけの時間は存在した。
その結果、誰もいない地上世界をダンジョンで覆い尽くし、自らの楽園を築き上げた一人のフィリアスが現れた。
彼女はその後に生まれた他のダンジョンを全て制圧し、自らのダンジョンコアにその力を注ぎ込み続けた。そうして世界を自らの子たるフィリアスたちで覆い尽くしたのだ。
「マズいわね。私たちでは誰も太刀打ちできないわよ。あんなの」
ゆーちゃんの言う通りだ。彼女は数億の時を生きた紛うこと無き怪物だ。なんなら母さんだって危ないかもしれない。
「テミスちゃ~ん♪ え~取り込み中~? 先約~? え~こっちもピンチなのよ~♪ ね~お願い♪ 来て~♪」
母さんはテミス叔母様に投げることにしたようだ。
「今から来てくれるって~♪ あ~♪ 来たわ~♪」
ほんとだ。一瞬で現れた。
「おい。状況を説明しろ。手短にだぞ」
だいぶ急いでいるようだ。どこかに出かける直前だったのかもしれない。
「かくかくしかじか~」
「……(# ゜Д゜)」
ごめんなさい……ガクブル……。
「仕方がない。こんなところで切りたい札ではなかったのだが。エーテル! 大至急だ! 先方に手土産を用意しろ! トリスメギストスの取説だ! この箱は我が預かろう!!」
あ、預かってくれるんだ。
『もったいない』
なくないよ。私たちの手には負えないでしょ。どう考えても。




