07-72.宿題
「……エリク」
「おはよう。ユーシャ」
「……っ!? なんでっ!?」
自身の中に潜り込んだクルスの存在に気付いたのだろう。ユーシャの顔が一瞬で恐怖に染まった。
「取って! 取ってよ! エリク!!」
「やめろ」
「なん……で……そんな……顔……するの……」
「これ以上失望させないでおくれ。ユーシャ」
ユーシャを抱きしめて耳元で囁いた。ユーシャの身体が一度だけビクリと跳ね、そのままガタガタと震えだした。
「ごめ……なさ……い……」
「謝る相手が違うだろう」
ユーシャは私の言葉に反応を示すこともなく、私の腕の中で震えながら謝り続けていた。
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「銀花」
「ゆーちゃんは流石だね」
目に力が戻っている。サクヤとも話を済ませたのだろう。
「惜しかったよ。もう少し頑張ろうね」
「……私強くなるわ」
「うん。今度は私が手を貸すよ。コルピスは渡せないけど」
「自分の力で取り戻す……いえ、振り向かせてみせるわ」
「その意気だ♪ 信じてるよ♪ 応援は出来ないけどね♪」
「ええ。ありがとう」
頑張れ。ゆーちゃん。
「……ところでユーシャは?」
「クルスが連れてっちゃった」
「……大丈夫なの?」
流石にもう、蹴り飛ばしてはいないと思うよ。
「カグヤもいるし大丈夫でしょ。それよりサクヤの様子を確認させてくれる? フィリアスネットにも繋がないとだし」
「……遠慮しておくわ」
「ダメ」
オトヒメ。やっちゃって。
『はいぃ♪ 御主人様ぁ♪』
「もう……」
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「エリク」
「おかえり、ユーシャ」
けっこうな長丁場だったね。
「……」
ユーシャが無言で倒れ込んできた。
「おっと。大丈夫か? 随分消耗しているな」
いったい何をしてきたんだか。
『ただいま』
おかえり、クルス。
クルスが私の中に移ってきた。
もういいのか?
『だいじょぶ』
『まいにち』
『すこしずつ』
『きながに』
『しつける』
そうだな。クルスもずっとユーシャの下にいては疲れてしまうものな。
『うん』
『けど』
『だいじょぶ』
うむ。任せるぞ。
「エリクぅ……」
どうやらユーシャも少しは立ち直っているようだ。これは本当にただの疲労なのだろう。
「うむ。私はここにいるぞ。ユーシャ」
お疲れ様。これで本当に仲直りだ。ユーシャの方は納得いかんかもしれんがな。まあ、甘えてる内に忘れるだろう。
「帰ろうか」
「……うん」
もう残りは少ないけれど。皆で仲良く過ごすとしよう。
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「エリク! クルスをどうにかしてよ!!」
まったく。ユーシャも懲りんものだな。まだあれから数日しか経っておらんだろうが。その立ち直りの早さを褒めてやるべきなのだろうか。
「このままじゃ私おかしくなっちゃう!」
「クルスはユーシャが産み出した子だ」
だから向き合え。逃げずに受け止めろ。
「だけど!」
「聞く気はない。私はいつも通りに甘やかしてやる。だからクルスの件は自分で乗り越えろ」
役割分担だ。クルスには酷な事……でもないか。毎日楽しそうに調教の成果を報告してくれてるし。
「もう!!」
ああ。行ってしまった。ちょっと残念。でろでろに甘やかしてやってもよかったのだが。
『ただいま』
おかえり。
『お邪魔する』
あら? カグヤまで? いらっしゃい。どしたん?
『色々勉強させていただこうかと』
ユーシャを守るためか。頑張れカグヤ。私はカグヤのことも応援しているぞ。
「エリク!! エリク!!!」
ブチギレたユーシャが戻ってきた。
「カグヤまで取るなんてどういうつもりなの!?」
「自分の意思で来たのだ。私は何も言っとらんぞ」
「いいから返して!!」
案外カグヤも逃げてきたのかもな。そのままこっちに居着くのも時間の問題かもしれんな。
「ユーシャ。落ち着け、ユーシャ」
深呼吸の一つでもしてみるがいい。冷静になってみろ。
「大丈夫だ。二人はここにいる。自分の言葉で語りかけてみろ。落ち着いてな」
私は自身の胸を指し示した。
「っ!!」
ユーシャが頭から抱きついてきた。この子も情緒が安定せんな。
「良い子だ。ユーシャ。そのままでいい。何か言いたくなったら口を開けばいい。きっと二人は聞いてくれるさ」
自分の思い通りにならない相手と付き合う方法を知るというのも、とても大切なことなのだ。それを乗り越えることが出来たなら、きっとお前はより良く成長出来るだろう。
いっぱい考えろ。寝る間も惜しん悩み抜け。自分で連れ戻す言葉を見つけ出すんだ。お前になら出来るさ。私が……私たちがついているのだから。だからどうか逃げ出さずにいておくれ。頑張れ。ユーシャ。




