07-70.それでも
エリクが本気の怒りを向けてくる。
私を地面に貼り付けにして、冷たい目で見下ろしている。
抗えと言いながら私の抵抗を潰してくる。一つ一つ徹底的に。ねちっこく。いやらしく。まるで私の心を折ることが目的みたいに。
無性に腹が立つ。腹が立つ。腹が立つ。
エリクは勝手だ。私はここまでされるようなことなんてしていない。理不尽だ。エリクの気まぐれでどうしてこんな目にあわなくちゃいけないんだ。
『……』
なに? 何か言いたいことがあるなら言ってみなよ。
『……立て。マスター』
はぁ!? 何言ってるの!? それが出来ないから困ってるんじゃん! カグヤまで私を馬鹿にするの!?
『立ち上がることだけを考えろ。マスター。今は戦いの最中だ』
なにが戦いだ!! こんなの! こんなのただの弱いもの虐めでしょ!!
『弱者だから仕方がないと? 守るべき者を見捨てて這いつくばるのか?』
「ふざけんな!!」
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「ふざけんな!!」
ユーシャが吠えた。
これは何に対する怒りなのだろう。
願わくば自らの不甲斐なさを嘆いたものであってほしい。
「ふっざけんな! ふざけんなふざけんなふざけんなぁ!!! ふっざけんなよ!!!!」
ユーシャ……。
「放せ!! 放せよ! 放してよ! エリク!!!」
……はぁ。
「もういい!! 私戦わない!! クルスなんぐっ……」
バカ者が。
『まかせて』
……良いのか?
『けじめ』
『つける』
『じぶんで』
……すまんな。
意識を失ったユーシャを連れて、クルスが転移した。
「ユーシャ……」
「ゆーちゃんは失望させてくれるなよ」
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銀花が見ている。
銀花の考えていることがわからない。筈はない。
わかってる。私に足りないものがなんなのかなんて。
『そんなことないわ!!』
サクヤ……。
『ユウコはいっぱい頑張ったわ!! 今も頑張ってるわ! ちょっと慣れてないからなによ!! ビビったって仕方ないじゃない!! 大好きな銀花から嫌われたら怖くて当然じゃない!! 大切なコルピスが何も言ってくれなきゃ! 不安になるに決まってるじゃない!!』
……ありがとう。サクヤ。
『大丈夫! ユウコには私が付いてるわ!!』
「うん!!」
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「驚いたな」
ゆーちゃんが先に至るとは。
『かつてぇ、"神々が創造せしめし編纂機"と繋がっていたマスターにはぁ、十分な可能性があった筈なのですがぁ』
退場させてしまったものな。
『クルスは戻るつもりやもしれませんねぇ~』
優しい子だ。未だに見捨てないでいてくれるとは。
『けりとばしてた~♪』
好きなだけぶっとばせばいい。ユーシャのためだ。
「銀花!!」
ついにゆーちゃんが拘束を振りほどいた。
「そしてコルピス!!」
まだまだだな。戦闘中に呑気なものだ。
「なっ!? ちょっ!? くっ! 待ちなさい! よっ! 今大切な話を!」
「馬鹿者が!!」
「っ!? 馬鹿ですって!?」
攻撃をギリギリでやり過ごしながら声を張り上げ続けるゆーちゃん。
「同じ失敗を繰り返すつもりか!!」
「わかったわよ!! やってやるわよ!!」
などと言いつつまっすぐ突っ込んでくる。
「へぶっ!?」
ダメだな。全然なっておらん。
ゆーちゃんには戦いの才能自体ないのだな。
「きゃっ!?」
どれだけ心を燃やしたって。
「くっ!?」
誰より俯瞰することが上手くたって。
「がっ!?」
頭が良くてその上勘が良くたって。
「このっ!!」
それでも致命的に足りないものがある。
「なんでよ!!!」
相手を傷つける勇気も。自分が傷を負う勇気も。
「銀花ぁ!!!」
まったく以って足りていない。
「少しは!」
がむしゃらに突っ込んで来るくせに、目を閉じてしまう臆病者は、戦いに向いていない。
「もう!!」
「ダメだな。全然ダメだ。それではコルピスを守れない」
「っ!!」
「諦めろ。ゆーちゃん。私はお前にコルピスを任せるつもりはない」
「いい気になって!!」
「そうだな。人それぞれ得手不得手はある。ゆーちゃんの得意分野が争いでなかっただけ。ただそれだけの話だ」
むしろこれは誇ってもよいことだな。人としては。
「フィリアスは争いの道具なんかじゃないわ!!」
「よくぞそんな綺麗事が吐けたものだ」
今まさにサクヤを利用しておるではないか。
「あなたこそ!! 自分の土俵で踏ん反り返っているだけじゃない!!」
「当然だ。自分の得意分野で大切な者を守る。敵を自らの土俵に引きずりこむ。そんなのは当たり前の話だ」
「何が大切な者よ!! コルピスは私のよ!!」
「コルピス本人がそう思っておらんではないか」
「それでも!!」
「くどい。これ以上喋るな。勝ったら聞いてやる」
話は終わりだ。チャンスもな。
そろそろ決着をつけるとしよう。




