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01-48.見てきたもの

「あら、エリク。

 来てくれたのね。嬉しいわ」


 案の定、ディアナはまだ起きていた。

外の様子が気になるらしく、窓の方を見ていたようだ。

私がノックするとすぐに返事をしてくれた。



「もう来ないって言っていたのに。

 ユーシャの側を離れてもよかったの?」


『今日は特別だ。

 心配をかけてしまったのではないかと、ユーシャ達が不安がってな』


「あら。ふふ。

 エリクは気にしてくれなかったの?」


『うむ。

 お主ならば必要もあるまい』


「またそんな事言って。ふふ」


 なんだか上機嫌だ。

不安がっていないのは良いことだな。



『パティもユーシャも大事無い。

 既に部屋に戻って休んでいる。

 私はそれを伝えに来ただけだ。

 来たばかりで悪いが、御暇させてもらおう。

 これで用も済んだでな』


「ダメよ。

 このままじゃ気になって眠れないわ。

 何があったのかちゃんと説明して」


 引き止められてしまった。

流石に大雑把すぎたか。



『残念ながら未だ調査中の部分も多いのだ。

 我々も把握していない。明日にでも改めて話をしよう』


「ダ~メ♪

 わかる事だけで良いから。

 ちゃんとお話しましょう?

 最近は朝の診察以外で来てくれないじゃない」


 やむを得ぬか……。



『ユーシャが狙われた』


「え!?」


 あ、やべ。話選び間違えた。

早く帰ると約束したからって、話を急ぎすぎたか。



『既に襲撃者は捕縛済みだ。

 心配するな。パティは強い』


「パティが?そうなの?

 あの子、全然自分の事教えてくれないの。

 代わりに聞かせてくれる?」


『ダメだ。

 それはパティの判断するべき事だ』


「あら。

 エリクったら私よりパティの肩を持つのね」


『仕方あるまい。

 あれは私とユーシャの伴侶だ』


「え?」


 いかんな。つい口が軽くなってしまった。



「どういう事?

 やっぱりちゃんと聞かせてよ。

 そんなの気になっちゃうわ」


『パティの事はパティと話せ。

 そう出来るよう、誘導くらいはしてやるとも』


「エリクにとってどういう存在かだけでいいから教えて」


『どうと言われてもな……。

 まあ、あれだ。

 ユーシャを託す相手と認めたのだ。

 ディアナには振られてしまったからな』


「まあ!そんな言い方は無いわ!

 私はユーシャを受け入れると言ったじゃない!」


『すまぬ。意地悪が過ぎたな。

 謝る。だからそう興奮するな。体に障るぞ』


「別に良いわ。事実だものね。

 私はユーシャとは生きられないもの」


『違う。そういう意味ではない』


「別に良いってば。

 エリクが意地悪なのは私だって知っているもの」


『悪かった。本当に。

 だが勘違いするな。

 お前は生きられる。これからもずっと。

 私達はその手段を必ず見つけ出す。

 だからお前ももう少しだけ心を開いておくれ。

 壁を取っ払って、私達に本当の心を見せておくれ。

 私が言っているのはそういう事だ。

 パティがディアナに全てを明かさぬのは、お前のそういう所を気遣っているからだ』


 ディアナは父とメイド長以外にはどこか一線引いている。

私もパティもユーシャですらも、それはとっくに気付いている。



「……無理よ」


 結局ディアナも諦めてしまっているのだろう。

自ら死を望むような真似はしないし、ギリギリまで長く生き延びようとはするだろう。そういう意味では決して諦めたりはしないのだろう。


 しかし、健康な肉体を得られるとは信じていないのだ。

外に出て走り回れる自分の姿を想像出来ぬのだ。


 私達とディアナでは根本的に目指しているものが違うのだろう。



『無理な事などありはしない。

 我々を信じろ。私もディアナを信じている。

 ディアナなら何れ必ず立ち上がれると。

 私達はその助けになれると。

 そう信じているのだ』


「……うん」


『今日はもう寝なさい。

 明日にでも話をする時間を用意する。

 その時パティとも語り合うと良い。

 あれがディアナの事をどう思っているのか、全て暴き出してみせるといい。私達もその手伝いくらいはしてやるさ』


「無茶ばっかり。

 いきなりそんな事出来るわけ無いじゃない」


『ならば一つネタバラシをしてやろう。

 パティは私とユーシャを恋人と認識しておるが、パティのお主に対する想いはそれにすら引けを取らぬ強さだ。

 あの子は本気でディアナを治すつもりでいるのだ。

 先ずはそれだけを信じてみると良い』


「……そんな事わかってるわ。私だって」


『そうか』


「パティは毎年この時期になるとうちに来るの」


『うむ。学生だからな。

 長期休みの時くらいしかチャンスがないのであろう』


 パティは休みで学園を追い出されたから仕方なく帰郷しているように言っていたが、それも本心ではないのだろう。

はなっから、ディアナの為にここを訪れるのだ。


 きっと毎年欠かさずだ。

長期休みの殆どをディアナの治療に費やすのだろう。

この屋敷内の書物の全てに目を通し、その上で図書館の医術関連の書物をも読破しているのだ。


 そんなの、今回の帰郷だけで済むはずがない。

何年も何年も繰り返してきたのだろう。



「最初は嬉しかった。

 同じ年頃の子が来てくれて」


 そこで友達になれていれば、こうも拗れる事は無かったのだろう。



「けれどパティは、あまりこの部屋には来てくれないの。

 私の事を友達だって嬉しそうに言ってくれるのに、友達らしくお話してくれた事なんて殆ど無かったの」


 様子見は欠かさなかったのだろうが、多忙なパティはディアナの側にいる事よりも、治療方法を探す事に専念していたのだろう。



「知ってるの。パティが何をしていたのかは。

 メイド達が、それにメアリが教えてくれたもの。

 お父様もハッキリとは言ってくれなかったけど、それとなくは」


 皆、パティの事も見ていられなかったのかもしれない。

事情を知るメイド長や領主様ならば尚更だ。



「けど私はそんな事にも気付かなかった。

 勝手に失望して、勝手に壁を作って。

 そんな態度を取った事を謝る事すらしなかった。

 何も言ってくれないからそう出来ないんだって思ってた」


 素直でないのはお互い様だ。

パティにだって問題はある。

きっとメイド長はそれを何度も咎めてきたはずだ。

けれど一度として聞き入れなかったから今があるのだろう。



「今更どの面下げて話し合えって言うの?

 何年もこんな私のために頑張り続けてくれた恩人に、私は何をどう報いれば良いの?」


『くだらんな』


「……」


『本気でそんな事もわからぬのか?

 ならば私はお主を買いかぶりすぎていたようだ。

 いや、すまない。お主はまだまだ子供なのだものな。

 それもベットの上から出る事も出来ない世間知らずの箱入り娘だ。考えてみれば当然の話よな』


「なんで……」


『酷い事を言うのかと?

 これはパティの分の仕返しだ。

 お主がパティにしてきた事への報いだ。

 パティにも問題はある。それは認めよう。

 だがな。それでも尚、お主の考えは目に余るのだ。

 どうしてあの子を信じてあげられない?

 お主はパティの事を知っているのだろう?

 あの子がやってきた事を聞いていたのだろう?

 ならば何故信じてやれないのだ?

 せめてそのフリだけでもしてあげられなかったのか?

 その気も無い者の為にあの子は頑張り続けていたのだぞ?

 可愛そうだとは思わなかったのか?

 自身の負い目などかなぐり捨てて、応えてやろうとは思わなかったのか?』


「……」


『理由になど拘るな。

 パティにどんな思惑があろうとも、あの子がこれまでやってきた事は覆らないはずだ。そう確信出来るだけのものをあの子は示してきたはずだ。だから信じろ。心を開け。必要なのはそれだけだ。負い目だとか残される者への気遣いだとかは必要ない。パティが必ずお前を救い出してくれる。ただそれだけを信じろ。それがあの子の想いに報いるという事だ』


「……うん」


『……すまぬな。

 やはり少しばかり意地悪が過ぎた。

 これは決してお前だけの問題ではないのだから』


「……勝手な事ばっかり。どうしてそこで謝るのかしら。

 やっぱりエリクは意地悪だわ」


『許せ。小心者なのだ。

 私はディアナに嫌われたくなどないのだ』


「それはどうして?」


『……友達だからだ』


「エリクは凄いのね」


『お主は臆病すぎだ。

 嫌われるのが怖いからそもそも友達にならなければ良いなど、極端過ぎるであろう』


「そんな事言ってないわ」


『もう少し素直になるべきだな。

 お主もパティも』


「もう。お説教はお終いよ。

 それより、パティとエリク達の事を聞かせて。

 明日、頑張ってみるから。

 その為のキッカケが欲しいの。

 協力してくれるのよね?」


 すぐ戻ると約束したのだが……。

仕方あるまい。乗りかかった船だ。



『少しだけだぞ』

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