07-15.着信拒否
私達は船の上で心の研究に勤しんだ。
パスを通じて互いの魂を探り合い、時には攻防すら交えて制御する術を学んでいった。
「なかなか上手くいかんなぁ」
「眷属化のコツは覚えていたんだから大丈夫よ。きっとコツさえ掴めばすぐに出来るようになるわ」
『まったくあれだけ言ったのにまだ勘違いしてるんだね』
『パティに頼ったのは間違いよ。そういう技術的な問題ではないと言っているでしょう』
『ハロー♪ パティ♪ そっちはどうかしら♪ 旅行は楽しめているかしら?』
『まぁすたー♪』
「「……」」
『無視はダメだよ。よくないよ』
『そうよ。大人げないわよ』
『声を聞かせて頂戴。私達だって寂しいのよ』
『まぁすたー……』
「「……」」
暫く沈黙を続けると四人の声は鳴り止んだ。
「続けよう」
「そうね」
私はただひたすらにパティの事だけを考え続けた。それ以外の全てを心から排除し続けた。パティも同じだ。互いに相手の事だけを意識し続けた。広大な海の真ん中でただ一心に心を繋ぎ続けた。
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あれからどれだけの月日が経っただろう。
私達は人間らしい生活も放棄して魔力だけに頼る生活を続けた。船を動かす事もせず、食料や水を確保する事もない。船内の一室に閉じこもり、衣服も身に付けずに抱き合って、心の触れ合いだけに時間を注ぎ込み続けてきた。
「これが神の力なのね」
パティは別の何かに目覚めたようだ。よっぽど才能があったのだろう。心の掌握より先に私の中に眠る異なる力を操り始めた。
「少しもらうわね」
次第にパティ自身もその力を身に纏うようになった。神の力は魔力の上位に位置するものであるようだ。
パティはまず私の仮初の魂を包みこんだ。
続いて本体と繋がる、へその緒のように伸びたパスを輪っかで縛るイメージで、通信量に制限を施した。
「成功ね。何も聞こえなくなったわ」
遂に外部からの干渉を完璧に遮断する事に成功した。正確にはボリュームを下げているだけなのだが、ともかく認識できないレベルまで雑音を絞る事に成功した。
「ここには私とパティだけだ」
「もう少し続けましょう」
「それから旅を始めよう」
「迎え撃つ準備をしましょう」
「敵は全て撃ち落とそう」
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「エリク!! エリクはどこ!?」
久々の雑音だ。耳も塞いでおくべきだったか。
「こっちよユーシャ! 船を見つけたわ!!」
補足された。随分と必死な声だ。
「敵が来たわ。行きましょう」
「奴らにはお帰り願おう。容赦は要らん」
二人で神の力を練り上げた。
以前母さんが使っていたのを参考に球体を生み出し、船ごと囲って空へと浮かび上がった。
私達は二人の敵影に向かって無数の光の矢を放った。
「なにこれ!? なんで!? なんでよ!!!」
「ちょっと! どこへ行くつもり!? ごめんなさい! 謝るから! ねえ銀花! パティ! お願い! 出てきて! 話をさせて!! ねえ! 二人とも!!」
追いすがる二人は船に触れる事すら出来はしない。姉さん達ですら破れない障壁だ。あの二人だけで破れる筈もない。そもそも矢の雨を抜ける事すら出来はしない。
私達は球体を操って船を飛ばし続けた。誰もいないどこか遠くを目指して旅を続けた。いつしか誰かが呼びかける声は聞こえなくなっていた。
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「平和ね~」
「そうだな~」
「そろそろ許してあげる?」
「ダメだ。今回はもう会わん。十年のリミットギリギリまで帰る気はない」
「流石にやりすぎよ。もう十分反省したと思うわよ」
「どうだかな」
「あれから追ってこなくなったじゃない」
「その前に何十回と付き纏っておったろうが。奴らは何が悪いのかすら理解しておらんのだ」
「そんな事ないわよ。いつも繋がっていた筈のエリクが感じられないから心細くてたまらないだけ。エリクだってそうなる筈だったでしょ?」
「お陰様で吹っ切れた」
「本当に三百年以上も会わなくて大丈夫?」
「心配要らん。今の私ならばな。奴らにも反省が必要だ。私は甘やかしすぎていた」
「怒りなんてそう長い間続くものじゃないわよ。それに私とだって会えなくなるんだからね」
「……ならもう少しだ。後一年は待たせておくとしよう」
「そんな事したらまたしつこく付き纏ってくるわよ。後悔して反省を示している今がチャンスだと思うけど」
「……パティは甘すぎる」
「ふふ♪ 結局自力では二人を御しきれなかったエリクも相当じゃないかしら?」
「今なら出来るさ。神の力の扱い方にもだいぶ慣れてきた」
外から制御するという少々強引な方法ではあるけれど。
「いいえ。それは私がいるからよ。エリクだけでは扱いきれないわ。やっぱりあなた達は三人揃ってこそなのよ」
「パティがおかしいだけだ。普通は人間に扱えるものではないはずだ」
「そうかもしれないわね。けどやっぱり今ここにあるエリクの魂は三分の一から更に伸ばした一部だもの。いくら中央世界の人達が特別だからって流石に無理があるのよ」
「元々三つの魂が混ざって産まれたのが今の私達だ。容量は元々常人の三倍以上ある筈なのだ」
「ならエリク自身の問題ね。きっとエリクは心の多くをあの子達の中に残してきてしまったのよ。まさに心残りってやつね♪ だから大した影響力を持てないのよ。エリクはやっぱり優しすぎるのね」
「今の私は冷酷か? 心の繋がりを絞り、持ち出した三分の一にも満たない小さな心しか存在せぬのだと?」
「かもしれないわね。大切な感情は早々に帰ってしまったのかも。或いはあの子達が心配で最初から側を離れられなかったのかもしれないわ」
「私のパティを思う気持ちが三分の一にも満たないなんて話があるものか」
「そうかしら? 私とあの子達だけで考えても四つか五つに分けられてしまうのよ? 他にも家族や伴侶はいっぱいいるんですもの。だいたい五分の一と考えれば十分多いと言えるのではないかしら」
「……そうか。私は全身全霊でパティだけを愛せていたわけではないのだな」
「まあ、今ここにいるエリクが私だけのエリクである事は間違いないわね」
「本当に返してしまうのか?」
「別に混ざったりしないでしょ。大丈夫よ。私は十分に満足したわ」
「パティは優しすぎる」
「ふふ♪ それはどうかしら♪ 単に寂しくなってきただけかもしれないわよ♪」
「もう一度チャンスをおくれ。私一人でパティを満足させてみせる。帰るのはそれからにしよう」
「あら♪ ふふ♪ いいわよ♪ そういう話なら乗ってあげるわ♪ もう少しだけ二人きりを楽しむとしましょう♪」
「うむ」




