07-14.悪辣な作戦
「行きたい行きたい行きたい行きたい行きたぁ~~い~!」
駄々っ子だ……。
どうして出発の直前になって……。今まで大人しくしてたのに。なんなら準備だって手伝ってくれてたのに。良い子だったのに。ノリノリだったのに。
いい歳した大人が全力で駄々こねる光景って、こう、なんというか、心に来るものがあるよね。しかも自分の娘の。
見た目はボンキュッポンな美女なのに……。
あかん泣きそう……。
見てられない……。
「勘弁してくれユーシャ。順番だ。次回はユーシャの番だ。だから今回は私とパティだけで行かせておくれ」
「わ~た~し~も~い~き~た~い~!」
えぇ……。
「気にしないで行ってきなさい。ユーシャの事は私達に任せておいて」
ゆーちゃん……頼む……。
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「よしよし。計画通りだね」
「やり過ぎよ。銀花ったら泣きそうだったわよ」
「ふふ♪ お陰で私のことが気がかりで堪らないね♪」
「パティに悪いじゃない」
「なにさ。折角の名演技なんだから褒めてくれたっていいじゃんさ。ユウコは共犯者なんだから」
「あそこまでやるなんて話してなかったじゃない」
「そうだっけ?」
「もう」
「それよりほら♪ 次の作戦だよ♪」
「まだ早いでしょ」
「今から始めちゃおうよ」
「ディアナとアウルムまで心配するわ」
「なら二人も巻き込んじゃおう」
「ディアナはともかくアウルムも?」
「今更でしょ。それに一人にしておけないし」
「あら。一応そういう心配は出来るのね」
「私をなんだと思ってるの?」
「私の大切な娘よ」
「つまりやっぱりやめたいと?」
「少し時間が欲しいわ」
「ダメ。気が変わった。二人で始めるよ」
「……焦らしすぎたかしら」
「意図的だったんだね。ショックだよ」
「悪かったわ」
「謝らなくていいよ。責任は取ってもらうから」
「目的が変わっているわ。あなたが口説きたいのは私じゃなくて銀花でしょ」
「変わってないよ。ユウコだってエリクの一部だもん。ほらいくよ。往生際悪くゴネるのはやめてよね」
「あなたねぇ……」
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「またなの?」
「うむ……」
「もう。意地が悪いわねぇ……」
大海原に繰り出し、とうに私達の住む島も見えなくなった頃、それは突然に始まった。
最初は夜な夜な。そのうち日中も。今では不定期に。殆ど四六時中。
ユーシャとゆーちゃんの幸せな感情が伝わってくる。ただそれだけなら何の問題も無かった。けれどその種類が問題だった。二人で、時にはディアナとアウルムも交えて。
身体を交えながら、その際に起こる感情の変化を直接流し込んできているのだ。時には実況を交える事さえある。けれどこちらの話は一切聞いてくれない。一方的に情事の様子を流し込んでくる。感情だけでなく快楽そのものすらも。
ノイローゼになりそう。
パティとの日々に集中しきれない。
正直怒りすら湧いてくる。ユーシャとゆーちゃんを嫌いになりそうだなんて思ったのは始めてだ。
もちろん二人の目的はわかってる。べつに当てつけのつもりだけで、こんなことをしているわけではない筈だ。
これを防ぐには私自身で制御するしかない。つまり魂の掌握が必要だ。二人の感情をシャットアウトするしかない。二人はその切っ掛けを用意しているつもりだ。嫌がらせをして私を本気にさせようとしているのだ。最初から私を怒らせるつもりでやっているのだ。まったく。
「エリク。私を眷属にして頂戴」
「……それは結婚式のメインイベントだろ」
「ディアナまで加担しているなら遠慮は要らないわ。たまには本気の喧嘩だってするべきなのよ。私達は」
「……手を貸してくれるのか」
「当然でしょ。私だって怒っているのよ。このタイミングで仕掛けてくるだなんて意地が悪すぎるわ」
そう言うパティ自身も結婚式の件には加担していたがな。今更言わんけど。唯一の味方だし。
「……わかった。力を貸しておくれ、パティ」
「ええ♪」
「しかし決して無理はするな。下手をすれば奴らはパティにも送り込んでくるぞ。眷属になるとはそういう事だ。私だけでなく二人の掌中にも収まるのだ」
「承知しているわ。大丈夫。私を信じて。必ず方法を見つけてみせる。エリクの心を守って見せるわ」
「ありがとう、パティ」
私はパティに魔力を流し込んだ。




