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01-44.初めての尋問

「またけったいな土産物を。

 屋敷ではなく兵舎の方へ運んで下さい」



 領主邸まで帰り着くと、敷地内に入る前に門番に止められた。流石のパティでも不審者同伴を見逃されるわけではないようだ。そりゃそうだ。


 少し待っているとメイド長が迎えに来てくれた。



「尋問したいの。部屋を貸して頂戴」


「はぁ……まったく。

 少しはご自身の立場を考えて発言して頂きたいものです。

 仕方ありません。私も付き添いましょう」


「ありがと♪」


 姫様で領主の姪御さんが自ら不審者の尋問するとか意味わからんものな。メイド長が愚痴りたくなるのもわかる。

苦労しておるな……。



「エリク様。後ほど話しがございます。

 もう少し保護者としての自覚を持って頂かねば困ります」


「うむ……面目ない……」


 ちょっと納得いかないけど、言いたい事はわかる。

これは確かに私が悪い。それは間違いない。



 メイド長の案内で留置所の隣にあるいかめしい感じの部屋に案内された。私達が以前通された部屋とは別物だ。そもそもあれは留置所の中でも貴人向け?みたいな特殊な部屋だったのだろうけども。


 今回のはもう完全に容疑者を厳しく問い詰める為って感じの部屋だ。要するに取調室ってやつだな。カツ丼とか出てきそう。



 メイド長はパティを下がらせてから手早く黒尽くめの女を椅子に縛り付け、全ての暗器を取り除き、口の中まで念入りに確認してから、何やら薬を飲ませて意識を取り戻させた。



「エリクが聞いてみる?」


「ああ。そうしよう」


 その方が良かろう。

あまりユーシャにパティのそういう所は見せたくないからな。なんなら席を外して欲しい所だが、流石にユーシャも納得はすまい。



「お前はあの瓶の正体を知っているのか?」


「……」


 襲撃者は当然のように口を閉ざしている。

視線を床に向け、まるで隙を伺っているようにも、諦めているようにも見える。


 少し試してみよう。

私に取り調べの経験など無いが何事も経験だ。


 魔力手を伸ばし、襲撃者の頭を掴んでこちらを向かせた。普通に驚きの表情浮かべる襲撃者。

魔力手の事は把握していないようだ。

どころか、魔力視も持っていないらしい。

そもそも魔術師ではないのだろう。


 それにしても面倒くさいな。襲撃者って呼称。

何か他に呼び方無いかな。



「もう一度聞く。

 お前はあの瓶の正体を知っているのか?」


「……」


 少し小馬鹿にするような笑みを浮かべた。

私が素人だと気付いたのだろう。



「お前、名前はなんと言うのだ?

 私はエリクだ。既に知っているかもしれんがな」


「……言うわけ無いだろう。バカか貴様は」


 ようやく口を開いてくれた。



「バカはお前の方だ。

 私だけだぞ?こんなに優しく聞いてくれるのは。私が諦めればお前に待っているのは拷問だ。どうせ話す事になるなら、今のうちに口を割っておくのが利口だと思うがな」


「……」


 尚も薄ら笑いを浮かべ続けている。

どうやら話すつもりは無いようだ。



「なあ、本当にそれが賢いやり方だと思うのか?

 お前が余裕を見せれば、それだけ背後にいる者の正体を明かしているようなものなのだぞ?」


「……」


 わかりやすく笑みを消す襲撃者。

適当にカマをかけてみたけど、案外通じたのだろうか。


 でも実際、そうそう選択肢は多くないのだ。

幾らここの領主がお人好しでも、賓客と遇する我らを襲う者がいるとなれば、相応の対応が必要だ。

当然その際には苛烈な手段も辞さないだろう。

今回は姪である姫まで巻き込まれているのだ。尚の事だろう。


 それくらいこの襲撃者だってわかっているはずだ。

ユーシャとメイド長が身に纏うメイド服を見れば、ここがどこかは気付けるはずなのだから。


 パティや客人云々の事は知らずとも、領主を敵に回している事くらいはわかるはずだ。


 そんな状況で余裕を崩そうともしないのだ。

となれば、選択肢も精々三つ程度に絞られる。


 一つは、拷問を恐れていない場合。

一つは、領主が黒幕の場合。

一つは、領主に圧力をかけられるような存在が黒幕の場合。



 一つ目の場合なら正直お手上げだ。

拷問されようが、命を奪われようが、秘密を守る事の方が大切なのだと強い意思で乗り越えられるなら、はなっから素人の駆け引きなど通用しない。その場合は専門家に任せよう。



 二つ目の場合は面倒だ。

このまま私達がこの襲撃者から目を離せば、メイド長なり他の誰かなりが解放してしまうかもしれない。


 けれど逆に、目を離しさえしなければ何処かで誰かがボロを出すかもしれない。これはある意味チャンスでもある。



 三つ目の場合は手を引こう。

敵は私達が関わるべき相手ではないという事だ。

国境に近い大都市を治める領主に圧力をかけられるような相手だ。それはもう、国の中枢か王族くらいしかあり得まい。



 これら以外の可能性はあるだろうか。


 領主の敷地内に難なく侵入して囚われた仲間を救い出してしまうような、強力な味方がいる場合か。


 これも面倒だ。

どの道この者からは目を離すべきではないな。



「悪いが長期戦に付き合っている余裕は無いのだ。

 口を割るつもりが無いと言うのなら、後は専門家に託すとしよう」


「お任せを。

 全て吐き出せてみせましょう」


 メイド長がやるの?

ノウハウあるの?



「待て!」


 少しだけ慌てたように声を張り上げる襲撃者。



「何だ?

 名前を教えてくれる気になったか?

 それとも付け狙う理由の方か?」


「……取引をしよう」


「話にならん。

 名も知らぬ者と契約を交わすわけがなかろう。

 ではな、名無しの襲撃者よ。

 精々命までは失われぬようにと祈っておこう」


「エルミラだ!

 私の名だ!これでどうだ!」


「エルミラよ。

 お主は命乞いをしたいと言うのだな?」


「ああそうだ!

 全て話す!だから命だけは助けてくれ!」


 これは本当の事を話すとも思えんな。

どう見ても追い詰められて諦めている者の顔ではない。



「それは内容次第だな。

 話してみよ」


「先に約束しろ!」


「それに何の意味がある?

 悪いが私に決定権は無い。ただそう働きかけるだけだ。

 だがまあ、今のところ被害にあったのは私達だけだ。お前の態度次第では、私が許すと言えばそれで済むかもしれん。

 お前に出来るのは私に良い印象を与える事だけだ。私が真剣にお前の命だけは救ってやろうと考えるように誘導する事だけだ。意味はわかるな?これ以上手を煩わせるなら、私はこの場を去るだけだ」


「くっ……」


 悔しそうな表情を浮かべるエルミラ。

これは演技だろうか。本心だろうか。

私にはわからない。


 だからまあ、本当に信用する事など出来はしない。

この者が何を話そうとも。パティもメイド長も見逃しはしないだろう。例え私がこの者の言葉を信じたとしても、結局は尋問にかけられるのだろう。エルミラもそれは察しているはずだ。


 さて、その上でこの者はどう出るかな?

時間を稼ぐための話し合いでもするのかもしれない。


 別にそれならそれで構わない。

今この場には恐らくこの領主邸内で最強の戦力が揃っている。

迎え撃つにはむしろ都合が良い。



「私は……」

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