07-10.心の壁
「エリクはまだ拗ねているのね」
「……なんて言い草だ」
「いらっしゃい♪」
のそのそ。
「ふふ♪」
ディアナの撫で方が一番上手。
「……ディアナが一人なのは珍しいな」
「う~ん。ふふ♪ ユーシャはユウコに取られちゃった♪」
今も作戦会議中か……私のことなんか放っておいて……。
「もう。そんな顔しないの。二人はエリクの為に頑張ってるんだから」
「わかっているさ……」
「ちなみにパティはアウルムと一緒よ♪」
「……本気なのか?」
「何の話かしら?」
「融合の件だ」
「え? ああ。しないわよ、そんな事」
「そうか……それはよかった。三人が巨大スライムになってしまうんじゃないかと不安だったのだ」
「そんなのエリク以外に出来るわけないでしょ」
「そうか……そうだな……」
「逆に考えてみたらどうかしら?」
「?」
「エリクの修行の話よ。自分の中からユーシャとユウコを切り離そうって考えてしまうから上手くいかないのよ」
「そんな事は考えておらんぞ?」
「ううん。エリクが失敗するとしたらそうとしか考えられないもの。エリクは少し遠回りをしてしまっているの」
「……そうかもしれんな」
切り離す……。
……そうだな。その通りだ。私は怖いのだ。再びゆーちゃんが私の心に溶けてしまうのが。前世のあの経験がトラウマになっているのだ。
もう一度、今度はゆーちゃんだけでなく、ユーシャにまで会えなくなるかもしれないと不安なのだ。どうしても。
だから心の中に仮初の境界を作ってしまうのだろう。私は二人を繋ぎ止めるどころか、自らの意思で切り離そうとしていたのだ。それではユーシャの言う心の全てを我がものとして扱うなんて事が出来る筈もない。
「逆……か……」
「そう。ソラとアウルムには出来たでしょう? 心と身体の違いはあるかもだけど、二人のことは受け入れられたじゃない。あれと同じ事をしてみればいいと思うの。ユーシャとユウコを受け入れるの。別人だとか自分の一部だとか考える必要はないわ。ただ心を明け渡すの。信頼して委ねるの。それならエリクは得意でしょ?」
「……うん」
ソラの時はともかく、アウルムと融合したあの時は私の意思で身体を動かしていた。決して全てをアウルム任せにしていたわけじゃない。これと同じだ。先ずは私が受け入れる。二人の領域を使うのはその後の話だ。
「ありがとう、ディアナ。少しわかった気がする」
「ふふ♪ お役に立てて嬉しいわ♪」
『流石は私のディアナ。賢いね』
ディアナは私のだ。もうユーシャには返してやらん。
『ならユウコは貰っておくね』
待て! それはダメだろ!
『あら。すっかり立ち直ったようね。気付きもあったようだし今からもう一度修行してみる?』
……やっぱゆーちゃんはあげる。
『なによそれ』
私にはディアナがいれば十分だ。意地悪ゆーちゃんはユーシャに貰われちゃえばいいんだ。
『とっくに私のもの。言われるまでもなく』
『また変な線引してるじゃない。ディアナにも受け入れろって言われたばかりでしょ?』
……今だけだもん。あとでちゃんと仲直りするもん。
『私は別に喧嘩なんかしてるつもりないのだけど?』
『エリクは覚悟が足りないよ。私達と本当の意味で一つになる覚悟が固まってないんだよ』
……そうだな。皆の言う通りだ。
『理解できたなら改善して』
……もう少しこう……なんというかだな。
『ユーシャは楽しみなのよ。待ち切れないの』
……うん。わかってる。
『全然わかってない。だから早くわかるようになって。私の全てを掌握して。私はいつだってエリクに委ねられるんだから。私はエリクの所有物だよ。道具だよ。魂の器じゃなくてただの容れ物だよ。最初からエリクの為に生み出されたエリクの一部なんだよ』
ユーシャ……。
『ユーシャも大概愛が重いわよね』
『ユウコだけは張り合えるでしょ』
『そうね♪ ふふ♪ その自信はあるわ♪』
……むしろ二人こそ壁作ってない? 私を特別扱いしすぎてない?
『『……盲点だった』』
えぇ……。
『いえ。ユーシャが銀花に強い執着を抱いているのはわかっているのよ』
『私も。ユウコがエリクを想い続けてるのはわかってる』
『その想いが強すぎるのかしら? 実は銀花の望みを汲み取って私達の方から壁を作っていた? それこそ私達の無意識の望みとも合致した? そう考えれば辻褄が合うかしら?』
『考えてみたら今のエリクが私達にすら破れない壁なんて作れる筈がないもんね。心は一つなんだから私達の方から壁を壊したってよかったんだし』
『少し調べてみましょう』
『待ってて、エリク』
……行ってしまった。
「内緒話は終わったかしら?」
「……すまん」
「二人はなんて?」
「もう少し作戦会議を続けるようだ」
「そっか。ふふ♪ ならもう暫く二人でいられるわね♪」
「そうだな」




