07-09.スパルタ特訓
式場の設計図が完成するまで修行に専念する事になった。
「全然ダメ。やり直し」
「もう少し具体的に教えておくれ……」
「集中力が足りない。技術云々以前の問題」
ひどい……。
「今の銀花に必要なのはありのままを受け止める心よ。思考に頼る時点で間違っているの。ユーシャは何もおかしな事を言っていないわ」
なるほど……。
「手を伸ばして。ううん。身体の手じゃなくて。今からエリクの身体は切り離す。エリクを私達の心の中に閉じ込める。エリクは脱出を目指して。ただがむしゃらに手を伸ばして心の外へと突き出して。そうすれば本当の境界がわかるから。エリクが勝手に定めた紛い物じゃない、本当の心の形が理解出来る筈だよ。心の準備はいい?」
「う、うむ。やってくれ」
瞬間、視界が真っ白に染まった。
----------------------
ここが心の中か? まるでフーちゃんの構築する異界だ。一面真っ白で何も無い。ただ平らな地面だけが続いている。本当にここには境界があるのだろうか。とにかく歩いてみよう。壁を見つけて手を伸ばすのだ。どれだけ阻まれても本当の外側を見つけるまでは歩き続けるのだ。
……。
…………。
………………。
何も無い。どこまで行っても真っ白だ。そもそも紛い物の境界とやらも見つからない。ユーシャとゆーちゃんは今も見守ってくれているのだろうか。どうして声をかけてくれないのだろう。これも必要な事なのだろうか。
どれくらい歩いただろう。とっくに夕飯の時間は過ぎている気がする。この訓練はいつまで続くのか。休憩とかないのだろうか。こんな事を考えていたら叱られてしまうのだろうか。集中出来ていないから何も見つけられないのだろうか。実はいつでも手の届くところにあったりするのだろうか。
……果たしてこの修行に意味があるのだろうか。
『そういうところだよ。エリク』
あらユーシャ。久しぶり。
『まだ五分も経ってないし』
あら? 時間の流れが違ったりする?
『やる気無いならいつでもやめてあげるよ』
ごめんなさい。
『言ったでしょ。集中して。ごちゃごちゃ考えすぎ。近道なんて無いよ。自分の足で歩き続けて。頭空っぽにしてね』
はい……。
……。
…………。
………………。
……ユーシャぁ~。
『早すぎ』
だってぇ……。
『精根尽き果てて何も考えられなくなるまで続けて』
そんなぁ……。
『一度でも体験すれば済むから。今がどれだけ辛くても私を信じて歩き続けて』
……ユーシャもこんな事を?
『まさか』
えぇ……。
『これはエリクの為の特別メニュー。私の理論に間違いはない』
ほんとにぃ……?
『くどい。これ以上は話しかけたりしないから。私と会いたければ早く終わらせて。ギブアップも認めない』
そんなぁ……。
……。
…………ユーシャ? 本当に居ないの? ゆーちゃんも?
……。
…………。
………………ぐすん。
----------------------
あれからどれだけ経っただろう。
思考がまばらになってきた。
集中とは真逆だ。
本当に合っているのだろうか。
……。
…………。
………………
その後も歩いて歩いて歩き続けた。思考はとっくに散らばった。それでも終わりは見えてこない。紛い物の境界すら見当たらない。外への出口なんてどこにもない。魂だけの私には体力を使い果たして倒れる事すら出来はしない。ただただ孤独に苛まれながら前へ前へと足を進め続ける。
----------------------
「ダメね、これ」
「エリクには難しかったかなぁ……」
「そんな筈はないのだけどね。銀花は知っているんだもの」
「そろそろ回収しよっか」
「そうね。種は蒔けたわ」
「後何回かは繰り返すけど、本格的な修行は次回に持ち越しかな」
「ええ。きっと私達と離れれば気付ける筈よ」
「なんなら技術的な修行は必要ないかもね」
「そうね。銀花ならすぐよ。心の問題さえ乗り越えればあっという間に開花させる筈よ」
「その分私達が頑張ろっか」
「ええ。銀花が必要な時は引き出せるようにしてあげましょう」
「何があれば喜ぶかな」
「私達の分身なんてどうかしら?」
「それはありなの? 流石にパティ達が反対するでしょ?」
「もちろん内緒よ。心の奥から銀花の様子を見ているだけ」
「つまり監視用の人格だね」
「どうせなら皆との時間をどう過ごしていたのかも見たいものね♪」
「けどそれってエリクの為じゃないよね」
「こっそり助けてあげましょう」
「寝てる時だけ会えるようにしちゃう?」
「う~ん。実験が必要よね。皆の番を邪魔したいわけでもないし」
「そんな機会あるかな?」
「方法を考えてみましょう。どの道この修行も、あと何度かはやらないとだから」
「だね。決まり。それでいこう」




