06-67.神罰
「あっ! テミスちゃ~ん♪ うん♪ そうそう~♪ その件でね~♪ 今から来れる~? え~来てよ~♪ お願い! ね? 来れるわよね~? じゃあね~♪ 待ってるわ~♪」
かっる!? というか神様もスマホ使うの!? なんか普通に電話掛けだしたよ!?
「なによ。そういうのあるならもっと早く出してくれたらよかったのに」
そういう問題!?
「あはは~♪ ごめんね~♪」
母さんは胸の谷間にスマホをしまった。……ように見えただけで、実際はどこか異空間にでも消えたのだろうか。あんなゆるゆるな服で挟んでおける筈もあるまいし。
「テミスちゃん怒るのよ~」
気軽に電話かけるとって? 問題は内容の方だと思うよ?
「エーテル! 来てやったぞ! エーテル!!」
はっやっ!? 案の定ブチギレていらっしゃる!?
「いらっしゃ~い♪ 会いたかったよ~♪」
「ええい! ひっつくな! お前はまたそんな格好で!」
「テミスちゃん!」
「久しいな! フーちゃん! よしよし! 相変わらずの可愛いさだな!」
「ね~! 聞いてよテミスちゃ~ん!」
「おおう。なんだ? またエーテルに虐められたか?」
「そーなんだよー! ママったらねー!」
「あっ! 待って!」
「フーちゃんの事まーた閉じ込めたの~!」
「なんだと!?」
「やばっ!」
「おいエーテル!! いったいどういう事だ!?」
「ごめんなさ~い~!」
「お前というやつは!! 待て! 逃げるな馬鹿者!!」
なんか追いかけっこが始まった。というかフーちゃん、実は根に持ってたんだ。だからって何もこのタイミングで告げ口しなくても。テミス叔母様はフーちゃんがお気に入りなのだな。私達も仲良くなれるだろうか。
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「おい。こいつらは誰だ? 報告にあがっとらんぞ?」
やばい。うっかりしていた。私とゆーちゃんの立場は色々と危ういんだった。
「お前達中央世界の出身だな? まったく。人間を囲うとはどういうつもりだ。少しは大人しくなったかと思えばまたこれだ。やはり油断も隙もないな」
あれ? なんか違うこと気にしてる?
「だがまあ、今回だけは多めに見てやろう。まさかエーテルが家族を持つとはな。これもフーちゃんのおかげだな」
「ふっふ~ん♪」
あまっ!? テミス叔母様甘々じゃん!?
「叔母だと? お前はエーテルの妾ではないのか?」
心を読まれた!?
「は、はい。娘です……」
「ふむ。まあその方がらしいと言えばらしいか」
たしかに母さんがハーレムを築く所は想像できない。
「だろうな。興味はあっても手を出す勇気は無いからな」
え? そっち?
「ちょっと~! テミスちゃーん!」
「そうか。娘の前だったな。あまり野暮なことは言うまい」
よかった……。認めて頂けたみたい……。
「ギンちゃんはね~♪ フーちゃんの妹で持ち主でお嫁さんなのだ♪」
「なんだと!?」
しまった!
「おい貴様!」
「はっ! はい!!」
「説明しろ! 頭から全てだ! 関係を詳らかにせよ!」
サーイエッサー!!
かくかくしかじか。
ルベドの記憶世界でフーちゃんと初めて出会った所から、今までの出来事のほぼ全てを説明した。随分長い話となったが、テミス叔母様は最後まで根気よく耳を傾けてくれた。
「ふむ」
難しい顔で何やら考え込んでいる。どのみち心を読まれてしまうのだからと、母さんの犯した罪も全て洗いざらい話してしまったのはマズかっただろうか……。
「そこは心配要らん。この世界でエーテルが何を為そうが我らが咎める事はない」
あら。
「銀花にわかりやすく言うのであれば、神が人間に試練を与える事は罪ではないからだ」
なるほど……。母さんが魔王を生み出そうが、世界中の人間を呪おうが、それ自体は神々の間で問題視される事なんて無いわけか。
「しかしお前達も気にしている通り、召喚システムの悪用は罪だ。魔王云々はどうでもいい。必要もないのに中央世界の資源を横取りした事実は罰せられるべき事柄だ」
資源、か……。やっぱり人間は世界を動かす為の歯車でしかないんだね。
「その通りだ。我らは世界の管理者であって人の守護者ではない。人間との付き合い方は各自の裁量に委ねられている。故に、中には人々の救済を生き甲斐とする者もいる。だが多数派ではない。よってエーテルの罪状に含まれる事はない」
なるほど。母さんが追放されたのも、人間に手を出したからってわけではないのか。あくまで実験の内容がマズかっただけで。人間を神様にするような試みだった筈だもんね。それは咎められて当然か。
「如何にも。神はよっぽどの事が無ければ他の神を罰したりなんぞせん」
そのよっぽどと言うのは、他の神様の領分を侵した時なんだね。
「ふむ。理解が早いな。その通りだ。故に此度の罪状は二つだ。一つはトリスメギストスの無断使用。もう一つは銀花と結心の存在と、二人を介した魔力リソースの窃盗だ」
やっぱり私達の件も……。
「だがお前達には情状酌量の余地もある。神々ですら手を焼いた問題児を更生させようという試みは、手放しで絶賛されるべき事柄だ。何より神は寛大だ。既に反省している者を咎める程暇でもない」
よかった……。
「二つ目については我がこの場で沙汰を言い渡そう。結心。お前と中央世界の繋がりを切り離す。具体的にはあの世界からお前の痕跡を完全に抹消する。未だお前を想う者達は一人残らずお前の存在を忘れ去るだろう。この刑の執行を以って罪は精算されるものとする。よいな?」
「……はい。お願いします。テミス様」
ゆーちゃん……。
「うむ。よろしい。よくぞ頷いた。結心も我を叔母と呼ぶがいい。我が親族として認めよう」
「ありがとうございます。テミス叔母様」
「うむ。もう一方については沙汰を待て。この場で我が判決を下すわけにはいかぬ。事実関係の確認も必要だ」
「テミスちゃん」
「そんな顔をするな、フーちゃん。大丈夫だ。我に任せておけ」
「ありがとう♪」
「ただしくれぐれも、今後は使用するでないぞ。システムの中身がわからぬからといって、稼働している事に気付けぬわけでもないのだ」
「あの。その件についてなのですが」
「うむ。そうだな、ルベド。マグナの行方は我が調べよう。お前達が利用せずとも、あやつが利用を続けているのであれば意味がない。上手くすれば……」
マグナ姉さんに押し付けちゃうの? どのみち追放後にエーテルシリーズを生み出してるんだから無理があるんじゃ……。
「ともかく今後二度とトリスメギストスは使うな。わかったな、エーテル。娘達の想いを無碍にすれば我が許さんぞ」
「ええ。ありがとう、テミスちゃん」
「うむ。ではな」
叔母様は一瞬で姿を消してしまった。お礼やお別れの挨拶をする間も無かった。
「次にいらした時は、目一杯おもてなしをさせて頂きましょう」
そうだね。ゆーちゃ……うん? あれ? ゆーちゃん?




