06-54.四つの過去
ミカゲの前にスノウが現れたキッカケは上層部の指示だった。
ミカゲは所属する裏ギルドの落ちこぼれだった。任務達成率驚愕の零パーセント。だというのに何故だか切り捨てられる事もなく所属を許され続けていた。
「「「なんで?」」」
「さあ? 今観ていただいた通り私視点ではなんとも……」
人探しとかは得意だから? けどその上で全部失敗してたんでしょ? やらかしグセは確かにあるけど……。
これもっと昔の記憶から掘り下げた方がよくない?
『後にしましょう。今回はスノウが優先です』
それもそうね。気になるけど。
しゃあない。気を取り直して続きを観ていこう。
いつも通り任務を失敗したある日、突如としてスノウと組むよう辞令がくだされた。遂に自分も年貢の納め時か、自分はこの少女にどこか暗闇で始末されるのかと諦めかけたミカゲだったが、予想に反して内容は本当にただの子守だった。
それからは、まるで世間知らずのお嬢様のように物を知らないスノウを甲斐甲斐しく世話する日々が始まった。特段他の任務は与えられていなかったが、ミカゲにとってはかつて無い程に多忙で充実した日々だった。
当時のスノウは半ば赤ん坊のようなものだった。身体が大きく力も強い。記憶が無いだけで頭の良さは健在だった。ミカゲは終始振り回されっぱなしだった。それでも必死に世話を焼き続けていた。
後が無いからという気持ちも無くはない。けれど決してそれだけではなかった。気の乗らない裏稼業に比べればスノウとの二人暮らしは遥かに性に合ったものだった。
スノウも段々とミカゲに心を開いていった。ミカゲを母や姉のように慕い、時には妹やペットのように可愛がった。
「ラビ姉さ……。あんだけお世話になっておいてさ……」
リリィが頭を抱えている。スノウの妹として思う所があるのだろう。まあけど、そう言ってあげないで。スノウの状況が状況だしさ。何よりミカゲ本人が気にしてないからさ。
もちろんリリィだって最初はスノウの変わり果てた姿には心を痛めていた。けれどミカゲを小馬鹿にするようなスノウの態度に段々と恥ずかしさを感じてしまったようだ。
ミカゲの育て方が少々甘かったのもあるが、そもそもスノウはミカゲの手に追えるような子ではなかった。その力も頭脳も明確に上なのだ。なんなら実年齢もスノウの方が上だ。
幼児退行したスノウが我儘な子供のように振る舞ってしまったのも致し方のない事だったのだろう。ある意味、それだけミカゲに心を許していた証でもある。
今の落ち着いたスノウは私達との戦いで記憶を失ってからのものだ。こうして見比べてみるとどのスノウも別人なのかもしれない。
時には優しいお姉ちゃん。
時には悪戯好きなやんちゃっ子。
時には甘えん坊の我儘娘。
時には物静かな働き者。
どのスノウも似ている所はあまり見つけられなかった。けれどそれが悪い事だとは思わない。もちろん変えられてしまった事に憤りを感じる気持ちはあるのだが、今現在のスノウを否定しようとは思えない。私達にとってかけがえのない存在である事は間違いないのだ。
けどこれは私だけの考えかもしれない。再びスノウが記憶を失った時、私は私のよく知るスノウに帰ってきてほしいと願うだろう。それはミカゲやダリアにとっても同じ事だ。自分達がよく知るスノウに再会したい気持ちは持ち続けている筈なのだ。
「スノウはどう思う?」
「……よくわからない」
そうだな。いっぺんに沢山の思い出を詰め込まれてしまったものな。
「改めて受け取った思い出をよくよく見返してみるといい。我らはお前の家族だ。皆がお前を愛している。例え思い出が消えてしまったのだとしても、それはきっと変わらない」
「……うん」
「よかったね。ラビ姉。いっぱい家族が出来て」
「うん」
「私も好きですよ。今のあなたも」
「うん」
「ボクにとってのお姉ちゃんは今のお姉ちゃんかな。今も昔も変わらない優しいお姉ちゃんだけどね」
「うん」
「主様。感謝致します。再びフラビアとエルミラとしての思い出を共有する事が叶いました」
「もう戻っても良いのだぞ?」
「御冗談を。今の私はミカゲです。エルミラはあの日死にました。フラビアと共に」
「そうか」
「主様が生まれ変わらせてくれました。後ろ暗い過去から切り離してくださったのです。私にスノウの隣で生き続ける権利をくださいました。感謝しております。心の底から」
「なればこそだな。次はミカゲの過去に決着を付けるとするか」
「御心のままに」
「だがまあ、追々だな。今日の所はこの辺で切り上げるとしようか。随分と遅い時間だ」
「はい。主様」
「エリクさん」
「なんだ、スノウ」
「もう少しだけ……」
「うむ。良いぞ。いくらでも付き合おう。気が済むまでな」
「ありがとう……」
「もちろん私も付き合うよ! 悩みがあるなら何でも聞くからね! ラビ姉!」
「ダメです。リリィさんは就寝してください」
「おうぼーよ! ダリア先生もう先生じゃないじゃん!」
「くっ!」
「こらリリィ」
さっき過去のスノウの態度に呆れておったろうに。まったく。似たもの姉妹だな。ふふ♪




