06-53.失われた過去
「退学は撤回してもらえたのね」
「うむ。ベルトランがニコライを説得してくれたのでな」
まあ、また一悶着はあったんだけども。ベルトランの時と似たようなやり取りをしただけだから説明は省くがな。
「お疲れ様。いえ。ここから始まるんだったわね」
「うむ。長い戦いになるぞ。心して挑むとしよう」
これからまた忙しくなるな。
----------------------
「エリクさん。部屋の掃除終わったよ」
「うむ。ごくろう。いつもありがとう。スノウ」
「ううん。これが私の仕事だから」
「……そうだな」
「どうかした?」
「いいや。スノウも変わったと思ってな」
「それって前の私に戻ってるって事かな?」
「さあどうだろうな。私は以前のスノウの事は詳しく知らんのだ。ダリアかミカゲにでも聞いてみてはどうだ?」
実妹であるリリィはまだ小さかったから大して覚えてはおらんかもしれんな。
「エリクさんも一緒になら」
「うむ。いいぞ。今から少し話そうか」
「呼んでくる。エリクさんの部屋でいい?」
「うむ。先に行って待っていよう」
「了解」
スノウと別れて魔王城の自室に戻った。毎日スノウが掃除してくれる綺麗な部屋だ。たまにミカゲやメアリも手を加えてくれるけれど、だいたいはスノウが担当してくれている。お陰でいつでも快適だ。私にとってスノウは、とっくになくてはならない存在だ。
だからというわけではないけれど、スノウの事で私に出来る事は何でもしてやりたい。失われた過去についてはもう少しだけ出来る事もあるのではなかろうか。そんな風に思わずにはいられない。
「リリィとファムも来てくれたか」
「当然♪」
「もちろん。だってお姉ちゃんの事だもん。ボク達だって無関係とは言えないでしょ♪ クーちゃん♪」
そうだったな。上手くやれているようで何よりだ。
この場には私とスノウ以外に、ミカゲ、ダリア、リリィ、ファムの四人が集まってくれた。いずれもスノウと縁深い者達だ。全員の記憶を寄り集めれば以前のスノウについても詳しく知る事が出来るだろう。
「最初はファムだな。出会いは二人が小さな幼子の頃か」
二人は三つ違いの幼馴染だ。スノウが五つ、ファムが二つの頃に両家の縁で知り合ったのだ。
「その頃の事は覚えていないから記憶を覗いてみてよ。なんならそのままお姉ちゃんにあげちゃって構わないよ」
「頼む。ネル姉さん」
『はい。お任せください』
ネル姉さんがファムの中から取り出した記憶を観せてくれた。
この頃の二人はまるで天使のようだった。スノウは少々やんちゃではあるが、ファムを本当の妹のように可愛がっている。この映像私も欲しい。姉さんに残しておいてもらおう。
「どうする? スノウ? この記憶を貰っておくか?」
「……うん。そうする」
これも変化だな。少し前のスノウならば迷わず断っていただろう。過去を思い出す事を忌避してすらいたものな。
「次はリリィだ。リリィが生まれたのはスノウが九歳の時だな。これも記憶を抜き出して構わんか?」
「もっちろん♪ 私も見てみたい♪」
今度は少しだけ大きくなったスノウの姿が映し出された。少女らしく可愛らしい姿だ。ファムの時と同じく、生まれたばかりの妹を心底可愛がっている。
しかしこの頃は勉学や剣術の修行で忙しかったらしい。しかもファムの父であるアンヘル卿に魔術まで教わっていたようだ。
スノウの強力な魔術にはアンヘル家秘伝の錬成術要素まで含まれていたのだな。どうりでパティ相手に善戦出来たわけだ。元々の素養も高かったが、並々ならぬ英才教育と努力の賜物でもあったのだ。
そしてこの技術だけは記憶を失っても尚、身体に深く刻み込まれたままだった。スノウがこれまで無事に生きてこられたのもこの日々あってのものだったのだろう。
「次はダリアだな。スノウが十二の時に学園に入学し、寮へと移り住んだ。その頃から一つ上の学年に在籍していたダリアとも友人関係を築いていったのだな」
「ええ。私も記憶を提供しましょう。しかしこの場で観るのは遠慮して頂きたいのですが……」
所謂黒歴史ってやつだな。二人とも相当やんちゃしていたそうだし。
「だがダメだ。観よう」
「「そうこなくっちゃ♪」」
「酷い……」
何が酷いだ。二人の過去の方がよっぽど酷いものだった。
どこが少々のやんちゃだ。よくこれで退学にならなかったものだ。理事長の娘と名門アルバラード家の娘だからと特別扱いされていたのだな。学園の運営方針についても疑いを抱かざるをえんな。これは。
「ラビ姉すっごいワルじゃん♪」
「うわ~。ボクの聞いてた噂なんて全然可愛いものだったんだね~」
「私は教師失格です……」
ごめん。悪いけど否定できないや……。
まあでも、よくぞ更生したものだ。このやんちゃっ子が。私達も大概人の事は言えんがな。
「最後はミカゲだな。スノウが卒業し行方を眩ませた後、そのどれだけ後かはわからぬが、一度目の記憶喪失の後はお前が共に居てくれた」
「スノウは私にとってかけがえのない相棒です」
「うむ。覗かせてもらうぞ」
「はい。主様」




