表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
403/405

06-48.決着

「しぶとい!!」


「こっちのセリフだぁ!!」


 酷い泥試合だ。結局こうなってしまった。既に周囲の者達は倒れ伏している。残すは騎士団長ベルトランただ一人だ。なのに責めきれない。これはいったいどうしたことか。



「おい! 魔王!! ここまでしといて殺意の欠片もねぇってのはいったいどういう事だ!!」


 そこなんだよなぁ。責めきれない理由もそこなのだろう。ベルトランは本気なのだ。本気で私を亡き者にしようと剣を振っているのだ。その意思の差が力の差を埋めてしまっているのだ。真に問題なのは神器などではない。私の甘さが原因なのだ。それはわかっているのだが……。



 だからと言ってだ。命の奪い合いなんて出来るものか? 相手は友人だぞ? 別に憎んでいるわけでもない。そもそも殺してしまっては意味が無い。私の目的はあくまで認めさせる事だ。ベルトランだってそれはわかっている筈だ。しかしこやつは納得せんのだ。私が本気でない事を理由に意固地になっておるのだ。今まで以上に本気で粘っておるのだ。


 困ったものだ。どうすれば膝を付かせられる? まいったと言わせるにはどうすればいい? 簡単だ。剣を奪って拘束すればいい。それはわかっている。わかっているのに手が届かない。後一手が詰めきれない。困った。本当に困った。



「くそっ! 斬っても斬ってもキリがねえ!!」


 スライムだからな。切断には強いのだ。そもそもベルトラン以外に私のスライムボディを斬り裂ける者なんぞおらんのだが。普通は身に纏った魔力障壁を破れんからな。



「この私が抱擁してやろうと言うのだ! 大人しくしろ!」


「ふっざけんな! 誰がスライムなんかで喜ぶか!」


「ふん! 所詮お前の愛はその程度だったのだな!」


「とっくに冷めたわ! んなもん!」


「天下の騎士団長が狭量なものだな! 見損なったぞ!」


「ぬかせ!!」


 仕方ない。賭けにはなるが最後の手段だ。



「頼むぞ! 姉さんズ!」


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 違った。七天魔神だった。今更だけど魔王の配下が魔神でいいの? 上下関係逆じゃね? 即興で名付けたからなぁ。


 まいっか。姉さん達の方が強いのは事実だし。ベルトランと同じだ。私が倒されないからといってすんなり勝てるとも限らんのだ。姉さんズなら普通に突破する手段もありそうだし。私もまだまだだな。修行は続けねばな。



 私は魔力を変換してスライムボディを膨張させ、謁見の間を覆い尽くしていく。ベルトラン以外は姉さん達が守ってくれている。心置きなく押し潰してやろう。こちらの身も多少は削られるだろうし、この程度でやつが膝を付くとは思えないけど、酸欠で意識を奪う事は出来る筈だ。


 奴も下手に剣は振れない筈だ。姉さん達が障壁でベルトランの部下達や王宮魔術師達を守っているのだ。やつならそれに気付いているだろう。そして近衛騎士が王を置いて逃げられる筈もない。これで詰みだ。



「喜べ! 勇者よ! 我が抱擁を以ってこの戦いに終止符を打とう!」


「いらねえつったろうがぁ!! ふっざけんなよ! 俺は認めねえぞ! 絶対に勝つ! いつか必ず! 絶対に!!!」


 騎士団長ベルトランは最後に負け惜しみのような事を喚いてからスライムの肉体に飲み込まれていった。



「さて、ニコライ。いや。新しき人の王よ。どうする? まだやるかね?」


「無論だ」


 ニコライがようやく口を開いた。全身に闘気を漲らせて立ち上がった。



「ならば貴様も押し潰してやろう。光栄に思え」


 拳を振りかざして飛びかかってきたニコライもスライムボディに飲み込まれていった。




----------------------




「さて。話をする気はあるか?」


 私は玉座に腰掛け、縛られたニコライとベルトランを見下ろした。今この部屋には我々とこの二人以外には誰もいない。他の近衛騎士や王宮魔術師、その他の兵士達は全員叩き出した後だ。



「結局王位を欲するか」


「いったい何を聞いていたのだ。私の目的は仲直りだぞ?」


 私がそんな事をするわけなかろうに。ニコライはいったい何を考えているのやら。



「ふっざけんな! やり過ぎなんだよ! 毎回毎回よぉ!」


 ベルトランからは剣を取り上げてある。姉さんズが厳重に術で縛ってくれているから身動き一つ取れはしない。



「私は自重しない事にした。私は私と愛する者達の為に全力を尽くす事にした。私は私のやりたいようにやらせてもらおう。神とは、魔王とはそういうものだ。そう理解したのだ」


「出てけ! お前らの居場所はねえ! 傍迷惑な事言ってんじゃねえ!」


「ならば次は勝て。またいずれチャンスをやろう」


「今すぐ再戦だ!」


「年一だ。その程度は相手をしてやろう」


「長すぎだ!」


「それ以上私を振り向かせたくば魅力的な口説き文句でも用意しておくことだな」


「誰が口説くか!!」


「いい加減お前は黙れ。お前こそ王を差し置いていつまで駄々をこねているつもりだ。騎士団長の面目が潰れるぞ」


 こやつさては私の真の目論見に気付いているな? やはり侮れん男だ。我が終生のライバルに相応しい。私の方がずっと長生きするけど。こやつの子孫には期待が持てるな。いずれ本当に私を越えて見せるかもしれん。



「思いっきり踏み潰した後じゃねえか! 散々踏み躙ったばっかじゃねえか! 今も踏んづけてる最中じゃねえか!!」


 しかしいい加減しつこいな。そんな大声で叫んでいては廊下に放り出した部下達にも聞こえてしまうぞ。もうよい。口枷も追加してやろう。



「むがっ!?」


 よし。これで静かになったな。



「人の王よ。お前に物申したい者がおるのだ。お祖母様。どうぞ此方へ。約束通り王を引きずり下ろしました」


「う、うむ。ご苦労」


 なんかちょっと引いてない? 気の所為?



「王よ。頭上から失礼」


 あら。意外と礼儀正しい。



「色々と言いたい事はあったが既に婿殿が十分暴れてしまったのでな。程々で済ませよう」


 お婿さん? 私女の子だよ?



「我が孫娘を追い出すなんぞとよくも口に出来たものだ。この恥知らずめ。我と娘に散々世話になった事を忘れたか」


 娘? もしかしてパティのお母さん? それともディアナの方?



「……でなければ我が父と弟に示しが付かぬのだ」


「ふむ。奴こそ私に頭を垂れるべきであったか」


「辺境伯ごときが図に乗るな」


「なんだと?」


「何も知らぬ分際で今更何をしに来た。妖精王までけしかけおって。例え妖精王には及ばずとも貴様のしでかした事は見逃されんぞ」


「ふむ。ならばやはり取るか」


「我を殺せ。さすれば国が手に入る。貴様が取ると言うなら異論は無い」


「よかろう。私が介錯してやる。首を出せ」


「お祖母様。どうかご容赦を」


「……そうか。うむ。婿殿がそう言うのであれば仕方ない」


 今本気で悩んでなかった? 物騒なお祖母様だなぁ……。



「何故だ、妖精王」


「今の我は魔王だ。神の身勝手で生まれた悪の象徴だ」


「……我らに復讐を忘れるなと?」


 よしよし。ニコライもようやく気付いたな。



「そうだ。私が全て受け止めてやろう。いくらでもぶつけてくるがいい。私はいつまででもこの国に寄り添い続けよう。真に呪縛から解き放たれるその時まで、決して見捨てぬと誓おうぞ」


「……意味があるとは思えんぞ」


「意味はあるさ。意味を産む為に私は選んだのだ。これは今まで犠牲となってきた全ての者達に報いる唯一の道だ」


「ふざけるな。貴様らに背負わせん為に追放したのだ。我が妹達を巻き込むな」


「諦めろ。それは過保護な兄の傲慢だ。お前の妹は自ら首を突っ込み続けるぞ。愛する者達の為に。愚かな兄を見捨てぬ為に。お前達の望みは決して叶いはせんのだ」


「貴様が叶えろ! 我らは託したのだ!」


「聞けぬ。私は妹達の望みをこそ叶える事にしたのだ」


「……愚か者共め」


「否定はせん」


 すまんな。お前達も付き合っておくれ。私達の我儘に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ