06-47.魔王誕生
やはりベルトランの持つ神器は厄介だ。魔力壁や魔力手では相性が悪い。その尽くが容易く切り払われてしまう。当然対策も無いではないが、あまり無様な戦いは見せられない。下手な泥仕合では誰も納得しないだろう。私は圧倒的に勝たねばならん。余裕を示さねばならん。
とは言えだ。大見得を切ったはいいものの、今の私には中々厳しいのも現実だ。普段中からサポートしてくれるゆーちゃんや姉さんズが抜けている。私のスペックは著しく低下している。補う手段が必要だ。つまり今こそ秘策を使う時がきた。ふふ♪ 正直少し待ち望んでいたぞ♪ この時を♪
「やるぞ! アウルム!」
「◯!」
「魔物なんぞ! 出してんじゃねぇ!!」
激昂したベルトランの剣が私の胴を薙ぎ払った。
「なっ!? っんだ!! その身体はぁ!!」
「ふっ。流石のお前でもこれは斬れぬか」
「スライム化しやがったのか!?」
「そうだ。竜化は以前見ただろう。あれと同じだ」
「ふっざけんな! お前の力じゃねえだろうが!!」
ちょっと素のベルトランが出てきたな。
「何を戯けた事を。これもまた私の力だ」
竜化はソラに身体を明渡す事で制御していた。当然スライム化はアウルムの制御によるものだ。今の私に扱える術でもないからな。だがそれでも構うまい。私が使役する者達の参戦を認めたのは他ならぬベルトラン自身だ。そのような意図が無かったとはいえ、皆の前で私個人の戦力であると証言してくれたのだ。お祖母様もきっと納得してくださるだろう。
「さてどうする? 今の私に物理攻撃は通用せんぞ?」
ゴルドスライムはほぼ無敵の生物だ。極めて強力な氷結魔術以外の全ての物理・魔術的攻撃を受け付けない。それが私の莫大な魔力を蓄えている。今の私は姉さん達ですら倒し切れはしないだろう。
姉さん達に言われてからずっと考えていた。私の魔力量はたかが知れている。所詮は薬瓶。戦闘も想定されていたエーテルシリーズと比べれば出力は大きく見劣りする。
私は所詮無限に補充できるだけだ。私の魔力量の最大が百だとするなら、姉さん達の魔力量は百万だ。私ほどではないが自動回復もついている。だから消費量が千の術でも撃ち放題だ。当然一度に百しか使えない私では太刀打ち出来ない。どれだけ回復が早くとも追いつかない。自明の理だ。
だから私は考えた。パティが魔力電池を使うように、私も魔力を外に貯めておけば良いと。アウルムは私にとっての魔力電池だ。既に莫大な魔力が込められている。姉さん達とも真っ向から撃ち合える程に。
これが私の秘策だ。ゴルドスライムの不死性はその莫大な魔力によるものだ。魔力で物理も魔術も弾いてしまう。仮に損傷しても、その魔力を消費して瞬時に回復してしまう。核さえ破壊されなければどこを傷付けられようとダメージにはならない。ただ僅かばかりの魔力が消費されるだけだ。
しかもこの性質は私の魔力と極めて相性が良い。損傷を治すだけなら大した魔力は必要ない。私のエリクサーとしての魔力を使えば尚の事だ。例えベルトランに切り刻まれても、自動回復分だけで十分に賄えるだろう。
そしてスライム化した私のこの身体もまた魔力を蓄える事が出来る。つまりこの状態で戦う程に強くなっていくのだ。魔力回復をそのまま出力の強化にも回せるというわけだ。
「何が妖精王だ! てめぇが魔王じゃねえか!!」
まあ、うん。今の私は魔物の王みたいなものだしね。なにせアウルムは「ゴルド"キング"スライム」だし。うん。否定は出来ない。
「よかろう。これより我は魔王を名乗ろう。我はこの世界最後の魔王だ。我が配下にも"七天魔神"を名乗らせよう。我らを討ち倒せば神との因縁も潰えるだろう。そう誓おう」
ルベドとニタス姉さんには後で謝らんとな。
「人の勇者達よ! 我らを討ち果たすがいい! それが叶わねば我らは我らの望むがままに振る舞おう! 我が名はクシャナ! 魔王クシャナ! その名をしかと刻むがいい!」
妖精王エリクはお休みだ。この場の私は魔王クシャナだ。万が一妖精族と人族の争いに発展しても困るしな。まあそういう事言い出すと、公爵閣下にも何も相談せずこんな事しでかしちゃってどうすんのさって気持ちも無くはないけど。
「っ!! 騎士達よ! 魔王を討て!! 私に構うな!! 全力でこの痴れ者を討ち果たせ!! 我こそは勇者であると示すのだ!!!! かかれぇぇえええ!!!!!」
「「「「「「「「「うおぉおおお!!!」」」」」」」」」
なるほど。足りない手数を部下達との連携で補うのだな。考えたなベルトラン。私の力を削る唯一の方法に気付いたのか。流石だ。褒めてやりたい所だな。くっくっく!
「無駄だ!!」
騎士達の頭上から圧力が降り注ぐ。殆どの騎士がその場に倒れ伏した。僅かにでも抗えたのは二人だけだ。ベルトランは辛うじて立ち続け、副団長が膝を付いて堪えている。
「くっ!!」
ベルトランがゆっくりと剣を持ち上げていく。その切っ先が頭上を向いた瞬間、降り注いでいた重力が切り払われた。
「なるほど。術の効果であってもお構い無しか」
あの剣の能力は聞いていたが、まさか魔力を直接切り裂くだけに留まらず、魔力によって生み出された現象までもが消失するとはな。つくづく厄介な剣だ。あの剣の特性はただ両断するだけのものではないらしい。
「しかし酷いマッチポンプだ。神によって産み落とされた我が魔王を名乗り、勇者は神の拵えた剣を持って立ち向かう。せめてその剣は捨てるべきではないか?」
「ふざけるな! お前の言うこっちゃねえだろ!!」
ちょいちょい素が出てくるな。よっぽど余裕が無いと見える。まさか私達に協力する為に演じているなんてわけでもあるまいし。……ないよね? 本気でキレてるだけだよね?
あかん。余裕が出てくるとついつい余計な事を考えてしまうな。とっととケリを付けないと。いつまでも遊んでいる場合じゃないんだし。あんまり油断してると万が一って事もあり得るからね。相手はあのベルトランだ。全力を尽くそう。




