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01-04.二人の想い

『シクシク。シクシク』


「もう。いい加減泣き止んでよ。

 というかそれ、本当に泣いてるの?」


『うぅ……汚された……もうお嫁に行けない……』


「はいはい。

 私が貰ってあげるから。

 というか、他の何処にも嫁に出すつもりなんて無いし。

 エリクはずっと私のだし」


 薬瓶わたしを握りしめる少女。


 私はかつて幼かった少女と共に地上へと這い上がった。

それからたった二人でこの過酷な世界を生き抜いてきた。


 少女に両親や故郷は存在しない。


 かつて少女は捨てられたのだ。

まるでゴミのように。

地下深くへと通ずる穴の中に。


 少女は頑丈だった。

生まれつき、とても頑丈だった。

擦り傷や痣程度は普通に出来るものの、どうやっても深い傷だけは負わなかった。


 深い穴に落とされ、その勢いで私のいた階層の天井をぶち抜いても、少女自身は骨の一つも折れてはいなかった。




 少女を捨てた者達は、封じたつもりだったのだろう。

どうやっても這い上がってくる事の出来ない深い穴底でなら、仕留めることは叶わずとも、少女を留め置けると信じたのだろう。


 けれど少女は強かった。

体の頑強さもさる事ながら、何よりその心が強かった。

暗闇の中、食べる物も飲む物も手に入らない中、光って喋る薬瓶だけを共にして、ひたすら出口を探して歩き続けた。


 その間、決して私を口にしようとはしなかった。

飲水代わりにはなっただろうに。

どれだけ飢えても封を開ける事すらしなかった。


 私は何度も何度も囁いた。

何百年と暗い地の底に封じられていた私は、自分でも信じられない程に身勝手な畜生と成り果てていた。

幼子を利用して、自分だけがその場所を抜け出そうと必死だった。


 早く飲まれて楽になりたかった。

私が消えた後、幼子が一人でその地を彷徨う事になると気が付いていながらも、見て見ぬふりをした。


 気付かぬふりをして、誘惑を囁き続けた。

喉の乾きに苦しみながらも気丈に笑う幼子に、口にすれば乾きが癒えると囁き続けた。


 それでも少女は飲まなかった。

私を共ではなく、友と信じ、私の言葉は全て気遣いから来ているものだと頑なに信じ続けていた。

自己犠牲で自らを助けようとしてくれている、大切な友達なのだと信じて疑わなかった。


 きっと今も変わらないのだろう。

成長し、肉体は幼子から少女へと変化しても、その心根は変わっていないのだろう。


 私が何を言ったところで、この少女が私を口にする事などありえないのだ。


 私を母や友、時には相棒。

そして、愛しき存在と信じて疑っていないのだろう。




 だからもう。潮時だ。

これ以上はもう無理だ。


 私だって本当は離れがたいのだ。

出来る事ならこの子の生涯を見届けたい。

常に側で寄り添っていたい。

優しい言葉をかけてあげたい。

今までよく頑張ったねと褒めてあげたい。

抱きしめて、頭を撫でてあげたい。


 でもダメだ。

この子にはこの子の人生がある。

いい加減、私の事は忘れて真っ当な人として生きるべきだ。

この子がボッチなのは私のせいだ。

私が常に側にいるから、他人に興味を持てないのだ。

きっとそうに違いないのだ。



『……お前こそ、早く伴侶の一人も見つけたらどうだ。

 何時までも私なんぞに執着するでない』


「だから興味ないってば。

 エリクより素敵な人なんて存在するわけ無いじゃん」


『私は人ではない。

 そして私は女だ。

 どの道お前の伴侶にはなれんぞ』


「ああ!なるほど!

 それで男の人みたいな喋り方してたんだね!

 ふふ!エリクったら!

 最初からそのつもりだったんだね!」


『ちがわい!』


「大丈夫だって!

 私はエリクなら他の事は気にしないから!

 男の人でも、女の人でも、人間じゃなくても!」


『ダメだ!

 人間の伴侶を見つけよ!

 この際友でも構わん!

 いきなりボッチのお前に婚活は出来まいしな!』


「ふっふ~ん♪

 今は何言われても効かないもんね~♪」


『だから頬ずりするなと!

 まったく!デカくなったのはタッパと乳だけだな!

 何時まで経ってもガキの頃と何ら変わっておらん!』


「また胸の話?

 もしかして挟まりたいの?

 泣いて懇願するから嫌なんだと思ったけど、満更でもなかった?」


『ごめんなさい!止めて下さい!

 暗いのは嫌です!怖いんです!』


「ふふ。

 しかたないなぁ~。

 そこまで言うなら止めてあげよう♪」


『ぐぬぬ』


 そもそも何故この子は暗闇でも平気なのだ。

私と似たような経験をしたではないか。

期間の長短はともかく、あの暗闇を共に歩き続けたと言うのに何故なのだ。



「えへへ~。

 エリクは暖かいなぁ~。

 それに、エリクさえいればどこでも明るく照らしてくれるもんね~。

 エリクさえいれば、私は怖いもの無しだよ♪」


 再び頬ずりしながら、まるで私の内心を見透かしたような事を言う。



 ぐぬぬ。

なんだか面白くない。


 けれど同時に、少しだけ心地良くもある。

少女の肌の感触がではないぞ。決して。

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