06-44.慌ただしい日々
「どうする? ゆーちゃん」
「自分で考えなさい」
「なんで機嫌悪いの?」
「呆れてるだけよ。第一王子にも言われたでしょ。銀花は、いえ。今回は皆もよね。あなた達は一貫性が無さすぎるわ。もう少し自分の意思を持ったらどう? 回りから言われた事にばかり振り回されてどうするのよ」
うぐぅ……。
「騎士団長に言われたから出ていくと決め、ディアナのお父様に説得されたからやっぱり残りたくなって。そんな簡単に覆る事なら私の意見なんて必要無い筈よ」
やっぱり機嫌悪い……。
「私はともかくパティ達は仕方がないでしょ。あの子達は普段ならこういう時にブレたりしないよ」
そもそもユーシャとディアナはブレたとも違うと思う。ただ舵取りを私とパティに委ねてくれているだけだ。いつも通りに。
「そうね。普段出来ている事が出来なくなっている。あの子達にとってはそれだけ大きな悩み事なの。元々ブレッブレの銀花とは違ってね」
「もう。そんなトゲトゲしなくてもいいじゃん。ゆーちゃんだけは私の味方でいてよ」
「もちろん味方よ。だから心を鬼にして嫌味を言ってるんじゃない」
「もう少し優しく諭して」
「ダメよ。あなた私に対してはとことん甘えるんだから」
「ゆーちゃんだけなんだから良いでしょ」
「最近私に甘えすぎよ。ネルお姉ちゃんがイジケるわよ」
『残念気付くのが遅かったね。もうイジケてるよ』
『イジケてません!』
ごめん……。
『イジケてないですってば。ギンカがユウコにばかり甘えようがなんの問題もありません。私はギンカの物です。ギンカを支えるのが私の役目です。ギンカが求めてくれた時に役に立てれば、後はただ側に居るだけなのです。それが私の幸せなのです。ユウコに甘える幼子のようなギンカを愛おしくすら思っています。そんな姿を眺めるだけでも幸せなのです。私はそう気付いたのです。私はもうブレる事はありません』
これは……どっちだ?
『一種の開き直りだね。本当はもっと』
『キトリ!』
ごめん……。二人も出てきて。顔を見て話そう。二人にも相談に乗ってほしいんだ。私はブレブレかもしれないけど、それでも最後には自分の意思で決めてみせるから。
「もちろんです!」
「案出しくらいなら喜んで力を貸すよ。本当は言いたい事いっぱいあったんだから」
「あら。私以外の知恵を借りるのね」
「本当にイジケてたのはゆーちゃんの方だったんだね」
「気付かないのですか? 今回ギンカはユウコに頼りませんでした。本当はもっと早く相談してほしかったのです」
「ダメだよ、ネルちゃん。安易なネタバレは」
「お姉ちゃんズは引っ込んでなさい。銀花には私だけで十分よ」
「ユウコも大概じゃないですか」
「自分で突っぱねといてだもんね。ブレッブレだ」
「こういうのはブレとは言わないの! 折角私が気を遣ったのにお姉ちゃん達が刺してきたんじゃない! 気が変わって当然でしょ!」
「喧嘩しないで……」
早まったかしら?
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私達は悩み続けた。一先ず方々への挨拶や撤退の準備を進めつつ、暇をみつけては思考に時間を割いた。
そうこうしている内に戴冠式が行われる事になった。これは極限られた者だけが参加する簡易的なものだ。もう暫く時間を置いてから戦勝記念と合わせて大々的な式典も行われる予定らしい。
カルモナド王国は大忙しだ。以前目にしたセビーリアの領都のように、楽しげな様子の人々が慌ただしく動き回っている。戦勝の報告と合わせて発表したのは良い戦略だな。おかげで王の交代劇もポジティブに受け入れられたようだ。
「バルデム家への報告はどうするべきか」
未だ結論は出ていない。国外退去の勧告に従うのか、それとも何か他の道を見つけ出すのか。戴冠式の直前には公爵閣下も王都を訪れる筈だ。その際にまた話し合う機会もあるだろう。上手くすればニコライとの謁見も叶うかもしれない。
バルデム家への報告はその後でも構わないだろう。当初はそう考えていた。セビーリア領に王都の現状と式典への参加要請が届くのはまだもう少しだけ先の話しだ。それまでは猶予がある筈だ。と。
しかしバルデム家の者達は薄情に思うかもしれない。私達に特別な移動手段がある事はわかっているのだ。前々から相談してほしいと思うかもしれない。公爵閣下のように力になろうとしてくれるかもしれない。
とは言えタイミングはどうするべきか。セビーリア領は未だ大忙しだろう。そろそろ領都でお祭りが行われている頃かもしれない。その後は王都に軍の一部を引き連れて上がってくる筈だ。その前には話をしておくべきだろう。
シルビアとの約束もある。少人数でこっそりと様子を見に行ってこようか。
「むぅ。二人でって約束したのに。秘密って言ったのに」
「すまん……」
「ダリア先生の話聞いたよ」
「……シルヴィの眷属化は承認されておらん」
「もちろん可決済み♪」
「何故私に知らされておらんのだ?」
「いいから♪ お願い♪ 先生♪」
まったく……。
「やった♪」
「シル姉さんも仲間入りやね♪」
「「いえ~い♪」」
仲良し。
「そろそろ私もどうかしら?」
「もうここまで来たら眷属じゃない方が特別じゃない?」
「それもそうね」
姉さんズを除けば殆ど眷属にしちゃったものね。
「主様」
「ミカゲは特別だ」
「騙されませんよ!」
もういっか。
「エリクさん♪」
「クーちゃん様♪」
「二人はダメだ」
「なんでよー!」
「あんまりです!」
「もう少し成長してからだ。私は年上が好みなんだ」
「も~仕方ないな~♪」
「そういうお話ならば♪」
よかった。納得してくれて。
「それじゃあ全員でお祭りに参加しましょう♪ 問題がなければ少人数でご挨拶に伺いましょう♪」
どうしてそうなった。




