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06-42.幕引き

 あれから数日。フランとオルドニェス、そして目覚めた第三王子の証言を取り纏めた事で事態の全貌が見えてきた。


 第三王子は憎しみからではなく、誇りと矜持を以って神を敵と定めていた。彼が生き残ろうとしたの最後まで戦い抜く為だったのだ。彼は国の暗部を切り取り、自らと共にフランの下に集うつもりだった。


 マカレナはその為に用意された生贄だ。フランに神の手掛かりを齎す貢物だった。彼はマカレナに対しても罪悪感を抱いていた。自分達の目的の為に利用された彼女を必要以上に傷付けたくはなかった。マカレナが姿を消した事で、自らを囮にする事を考えた。少なくとも彼自身はそう証言した。


 正直最後のは本当だったのか疑わしい。オルドニェスを庇っているだけにも聞こえる。オルドニェスが第三王子を刺したのは我々が現れる直前だ。いくらなんでもタイミングが良すぎる。しかし賭けにしては分が悪すぎた。そもそも第三王子の真の狙いを聞いた今となっては、彼が国を巻き込む作戦に同意したとは思えない。忠臣オルドニェスの考えを理解して自分が指示した事にしただけなのだろう。私はそう思う。



 しかしそんな彼らでもフランの考えは理解しきれていなかった。オルドニェスがやった方法ではフランが援軍を出す事はなかっただろう。藁にも縋る想いだったのだろうか。それとも、長き時を生きる竜の執念を考慮しきれていなかったのだろうか。


 何にせよ彼らの目論見は完全に潰えた。第三王子が忠臣達と共に生き延びる道もまた同様だ。既に関わった者達は全員捕縛されている。この件には近衛騎士と王宮魔術師達も動いた。本来陛下の持つそれらの戦力は圧倒的だった。抵抗らしい抵抗も許さずに終息させてしまった。そして捕らえられた者の中には陛下本人までもが含まれていた。



「てなわけでな。功労者であるお前達の自由は一先ず認めてやる。それが次の王である第二王子ニコライ殿下の望みだ」


「結局ニコライが継ぐ事になったのだな」


「元々殿下はそのつもりだったさ」


「第一王子はどうなるのだ?」


「罪には問われねえよ。代わりにこき使われるだろうがな」


 それがフラビアの件に関する罰なのだろうか。どのみち第一王子の派閥を纏める者は必要だ。第一王子ごとニコライの下につくのは理に適ってもいるのだろう。



「安心しろ。寝首を掻かれるなんてヘマはしねえよ」


 これからの近衛騎士団長ベルトラン国王ニコライの守護者だものな。



「第一王子には他に秘密は無かったのか?」


「そりゃあるさ。だがお前達に話す事じゃねえな」


「国を揺るがすものではないのだな?」


「だとしても関係ねえだろ」


「安心出来んだろうが。また勝手に調べてしまうかもしれんぞ?」


「次は斬る」


「ふっ。お前にそれが出来るかな」


「言ってろ。たく」


「なんだ? もう行くのか?」


「伝えるべき事は伝えた。デネリスの嬢ちゃんが卒業するまでだ。精々大人しく暮らしてくれよ」


「なんだ。リリィ達が卒業するまでかと思っていたぞ」


「ダメだ。二人は中退だ。これは決定事項だ」


「それは私達が神の眷属だからか?」


「そうだ。もうわかってんだろ。この国はお前達を受け入れねえ。全てが終わろうと憎しみを継ぐ者が居なくなろうと、それだけは覆らねえんだ」


「……わかった。約束は守ろう。今度こそ」


「すまねえな」


 きっと今度こそ私達が言葉を交わすのは最後なのだろう。彼の背を見送りながら何故だかそんな気がしていた。



 もしかしたらベルトランは最初から知っていたのかもしれない。彼や王がある頃を境に私達を遠ざけようとしていた理由も今なら理解できる。それでも彼らは私達を悪意に晒そうとはしなかった。平和に過ごすならと見守ってくれていた。


 陛下は私が神に敵対する者だから信用出来るなどと言っていたが、それも何かを誤魔化す為の方便だったのかもしれない。我々にはさぞかし複雑な想いを抱いていたのだろう。そんな事も知らずに我らは幾度も騒ぎを起こし続けていた。いずれ守りきれなくなる時がくると案じていたのだろう。



「結局何も変わらなかったわね」


「あら。パティがそんな言い方をするなんて」


「ディアナは違うって言いたいの?」


「変わったよ。誰が犠牲になったとか、誰が勝ったとかは関係ない。パティは知るべき事を知れたでしょ」


「まだよ。ユーシャ。私はまだ満足なんてしてないわ」


「ダメよ。後は知る必要が無い事よ。パティはここまで」


「なんでそんな冷たい事言うのよ。私はただ」


「次はお父さんを助けるの? 誰も望んでいないのに?」


「そんな言い方!」


「わかっているでしょ、パティ。ユーシャの言う通りよ」


「わかんないわよ……なんでそんな事言うのよ……」


「誰かが責任を負わなければいけない。そんなの当たり前の事でしょう?」


「だからって……こんな……」


「信じましょう。きっと正しい裁きが降るはずよ」


「……そうよ。まだ」


「パティ」


「エリクまで止めるの!?」


「もう終わったんだ。我々に出来る事は全てやった。後はこの国の者達に任せよう」


「まだよ! だってまだ生きてるもの! 皆まだ!」


「パティ。すまんな。全て私のせいだ」


「ちがっ!」


「パティがどうしてもと言うのなら……城に帰るがいい」


「なっ!?」


「私の下を離れれば」


「嫌に決まってるでしょ!? どうしてそんな事言うのよ!?」


「パティは私の伴侶だ。私は神の娘だ。神はこの国の仇だ。だから私の下にいる限りパティが口を出す事は許されない。それでも尚国を憂うならば私を捨てて行くしかない。当然の帰結だ。これまでは国王の慈悲で見逃されていたに過ぎん。新しき王は残り一年弱の滞在を許した。これ以上の慈悲は引き出せん。私にはそのつもりも無い。だからだ。パティ」


「……私の為なら何でもしてくれるんじゃなかったの?」


「パティがそれだけを望むのならば力を貸そう。二つに一つだ。前王ちちを救い、公爵閣下ちちとの約束を違えるか。公爵閣下ちちとの約束を守り、前王ちちを見捨てるか。我々にはもう後がない。選べるのはどちらか一つだ」


「そんなの……」


「すまんな。パティ。本当にすまない。全て私のせいだ。私がパティと」


「違う! 違うわ! そんな事言わないで!」


「……ああ。……そうだな」


「二人とも悲観しすぎだよ。命までは奪われないよ」


「何故だ? ユーシャは何故そう思った?」


「ディアナ」


「はいはい♪ 簡単な話よ。全てが公にされたわけじゃないからよ」


「それはまだ」


「違うわ。"まだ"ではないわ。明かすつもりが無いのよ。だってそうでしょう? 折角エリク達がスピード解決してくれたのよ? 混乱は極力押さえるに決まってるじゃない」


「それでは誰も納得せんだろう」


 第二王子ニコライが力ずくで奪い取ったと思われるだけだ。理由が必要だ。



「だからこそよ。だからここで前王の命を奪うわけにはいかないの。ニコライお兄様は王の守護にあたっていたのよ。第三王子殿下の反乱を察してね。その活躍が認められて国王陛下はニコライお兄様を次の後継者として認めたの」


「……なるほど。そのような筋書きに収めるのか」


「そう。だからこそ第一王子殿下が従う理由づけにもなる。第三王子殿下の目論見の全てを公表するわけにもいかないでしょう? 国の暗部を徹底的に隠すと言うならこれ以外に話の持って行きようは無い筈よ」


「全てを晒す可能性だって」


「無いわ。それだけは絶対にありえない。そんな事をしてしまえば王家そのものが槍玉に上げられてしまうもの。それに話も大きくなり過ぎてしまう。それこそエリク達の頑張りが無駄になってしまうわ。今は陛下も捕らえられているかもしれないけど、それはあくまで軟禁されているというだけよ。別に牢に繋がれているわけではない筈よ。表向きにも捕縛されたなんて発表はしないでしょうね。いずれ準備が整ったら隠居を条件に解放されるわ。必ずね」


「「……」」


「だから第三王子の一派も片っ端から処刑されるなんて事には絶対にならないわ。それぞれの量刑に応じて罰が下されるでしょう。どれだけ時間が掛かっても、きっとニコライお兄様はやり遂げてくださる筈よ。だって彼が最も許せないのはスノウを害した者達なんですもの。関与した者達を正確に特定するまでは安易な幕引きなんて決して認めないわ」


 ……そうだな。ディアナの言う通りなのだろうな。



「それもこれもエリクが動いてくれたお陰よ。エリクが動いたのはパティの為よ。だから悲観する必要はないわ。パティはこの国を救ったの。既に役目は十分に果たしたわ。だからもう休みましょう。後の事はお兄様達に任せましょう」


「……うん」

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