06-41.もう一人の復讐者
オルドニェスが目指していたのは、カルモナド王国内にある、とあるダンジョンだった。彼は迷わず単身で飛び込んでいった。
『ダンジョンの中までは覗けません!』
「承知した! 私とソラで行く!」
ダンジョン前まで転移した後、ソラに抱えられてオルドニェスの追跡を開始した。
「主よ! 女神の手がかりを掴みました!」
ダンジョンの最奥に辿り着いた彼が私から奪った魔力を差し出したのは、一匹の竜だった。真っ白な体色の美しい飛竜だ。そのサイズは竜王と比べても見劣りしない。
『愚か者め! つけられおったな!!』
「!?」
「まさかこのような場所に隠れておったとはな。フランよ」
『女神の人形め……』
「っ!? お母さんなの!?」
『おのれ女神よ! 我が娘までも差し向けるかぁ!!』
マズいな。何か誤解を与えてしまったようだ。
「フランちゃん!」
『なっ!? かっ母様だと!?』
私の身体からフーちゃんが飛び出すと竜后フランは明らかな動揺を見せた。
『封印が解かれたのか!? まさか自力で脱出を!?』
「ギンちゃん達が助けてくれたの♪ 会いたかったぜ♪ フランちゃん♪」
『くっ! しかし我は!』
鼻先に抱きつくフーちゃんを振り払おうとしている。先程のオルドニェスの言葉と合わせて考えるなら、彼女のやろうとしていた事にもなんとなくの想像はつく。
「竜后フラン。お主の目的は神への復讐だな?」
『そうだ! 故に我は!』
「話を聞いてくれ。もうその必要は無いのだ。シスカも無事だ。これ以上魔王は生まれない。人の呪いも直に解かれるだろう。全て終わったのだ。お主も家族の下へと帰るがいい」
『なん……だと……』
きっと彼女は聖女シスカの跡を継ごうとしたのだろう。母であるフーちゃんが女神によって封じられた事で、彼女自身にも神を恨む理由があったのだろう。
「妖精王!!! なんなのだ貴様はぁぁああ!!!」
そうだな。今回ばかりはブチギレたくなるのもわかるぞ。私としても出来過ぎだと思うからな。
「大人しくしてて」
「うっ!」
キトリがオルドニェスの意識を刈り取った。まだ聞きたい事はあったが、目当てが彼女であったなら後はこちらで話を聞けば済む。こやつを城に放り込んで我々はシスカの下へ向かうとしよう。
「後はお任せを。どうぞこのまま向かってください」
ネル姉さんも出てきて、鏡の神器を向けてくれた。
「頼む。キトリはそやつを送り届けてくれ」
「うん。承知したよ」
私、ソラ、フーちゃん、フランで鏡の神器を潜り、アニムスさんの下へと向かった。
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「約束を果たしてくださったのですね」
「シスカ! 本当だったのか!?」
竜后フランが人化して駆け寄った。ソラとはあまり似ていない。そもそもソラって父親似だものな。
「久しいですね。フラン」
「なんでまだ生きてる!?」
「ご挨拶ですね。正直私もわかりません」
「本当に何があったんだ……」
「私は敗れました。代わりに我らの宿願は果たされました」
「……まさか女神が自ら改心したとでも言うのか?」
「似たようなものですね。自滅したのです。自らの娘達に叱られたのです」
「なんなんだそれは……」
「本当に馬鹿げた話です。我らの覚悟など知りもしません」
「お母さん……」
「ああ……ティルラ……ごめんなさい……」
泣きそうな顔のソラを目にしたフランは屈んで娘を抱き締めた。諸々の疑問を放り出してでも今すべき事にようやく気付いたようだ。
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ソラが落ち着き、フランに詳しい経緯を説明した後、ようやくフランは話を始めた。
「我は人の群れを組織した」
オルドニェスは幹部の一人に過ぎないらしい。彼は神の情報を齎す事でフランに軍を差し向けさせようとした。
あのダンジョンはフランの支配下にあるようで、人だけでなく魔物達をも自由に操れるようだ。彼女は二百年近い時をかけてダンジョン内に少しずつ戦力を集めていた。その間にカルモナド王国の中枢にも少しずつ情報を流していたのだろう。
とはいえだ。たかが二百年だ。到底神に届き得る程じゃない。フランにとってもあの男の行動は想定外だったのだ。あくまで地下に潜って密かに力を蓄えるのが目的だ。現時点で神と事を構えるつもりは端から無かったのだ。
「何故あの地を選んだ? 聖教国ならば目的を同じくする者達も集めやすかったのではないのか?」
聖教国の者達であれば神への接触を試みようと思う者達は大勢いた筈だ。復讐という真の目的さえ隠せば利用出来た筈だ。
「母様を見つけ出す事も目的の一つであったからだ。封印がこの近くにある事だけはわかっていた」
なるほど。
「それにカルモナドの人間は強い。この世界で最も強い人種だ」
そこまでか。
「組織の解体を頼めるか?」
「……それは全てを見届けてからだ」
「わかった。いずれ神と話す機会も設けよう。望むのであればの話だがな」
「……無論だ」




