06-40.無法者
レティは一人でサロモン爺様の下へ、私、パティ、イネスの三人はオルドニェス候の下へと直接乗り込んだ。
「無法が過ぎるぞ。妖精王」
オルドニェス候は背を向けたままだ。オルドニェス候の前には第三王子のデスクがある。この位置からでは第三王子の様子は伺えない。奇しくも先程の国王とニコライのような立ち位置だ。
「玄関から乗り込んでほしかったか?」
……なんだこれは? 血の匂い?
「お父様……。いったい何をなされているのですか!!」
「妖精王。貴様はどうする? 殿下はまだ生きているぞ」
イネスの呼びかけを無視して振り向いたオルドニェス候はそのまま僅かに脇に動いた。第三王子の胸元には一本の短剣が突き刺さっている。
「……私が治す理由は」
言いかけた所でパティの顔が視界に入る。その瞬間に私は動いていた。魔力手を伸ばして短剣を引き抜き、そのまま魔力を流し込んだ。
「っ!?」
第三王子に流した筈の魔力がオルドニェス候の手元に引き寄せられていく。
「なっ!? お前は!!」
「……」
オルドニェス候は幾分かの魔力を横取りした所で窓から飛び出していった。慌てて糸を伸ばすも、何かに弾かれて彼に届く事はなかった。
バァンッ!!!
「「「!?」」」
直後、ドアが勢いよく開かれた。兵士達が部屋の中になだれ込んでくる。あっという間に私達は囲まれてしまった。辛うじて命を繋いだ第三王子はまだ目覚めていない。それでも胸元は赤黒い血に染まっている。彼らがどのように認識するかは一目瞭然だ。
どちらが無法者だ。ふざけた罠まで仕込みおって。
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「はぁ……。勘弁してくれよぉ。妖精王さんよぉ……」
「また会ったな。ベルトラン」
先程今生の別れみたいな言葉を貰ったばかりで悪いな。その後も一度会ってるけど。あの時は言葉も交わさなかったけど。
「よく来れたな。ここは第三王子のエリアであろうに」
「勘違いすんな。お前達に質問する権利はねえ。無駄口も叩くな。こちらの質問にだけ答えろ」
冷たいな。それも致し方なしか。
「なんであんな半端な真似しやがった。お前なら綺麗さっぱり治せたろ」
「そこまでしてやる義理はない」
私の魔力には高い依存作用がある。意味もなく第三王子に好かれるのは御免だ。故に命を辛うじて繋ぎ止める程度にしか治していない。当分彼が目覚める事も無いだろう。
「なあ。これ以上ややこしくしねえでくれよ」
「私達は嵌められたのだ」
「んなこたぁわかってんだよ!」
すまん。
「出禁だって言われたろうが!」
「悪いとは思っている」
「なら引っ込んでやがれ!!」
「そうもいかん。このまま引き下がっては」
「ガキの喧嘩じゃねぇんだぞ!!」
「故にこそだ」
「そんな使命感なら要らねえよ。ここは俺達の国だ。お前のものじゃねえんだ。勝手な事してぇなら自分の国に帰ってくれよ。王様ごっこがしてぇならそっちでやれよ」
「悪いがそれは聞けん。奴は私の魔力を持ち去った」
「奴が目的なら好きに追えよ。どうせ国には戻らねえよ」
それはどうだろうな。私はむしろ……。
「出してくれるのか?」
「勝手に出ていけ。なんでこんな時だけ律儀に捕まってんだよ。そういうのがかえってややこしくなんだろうが」
「そうか。それはすまない。余計な気遣いだったようだ」
「全員連れてけよ。どっか隠れ家ぐらいあんだろ?」
「ヴァレリアとマルティナは休学にしておいてくれ」
「無理に決まってんだろ。何考えてやがんだ」
公爵閣下との約束も果たせそうにないな……。
「私達は必ず帰って来る。身の潔白を証明する為に」
「お前の帰る場所はここじゃねえだろ」
「嫌われたものだな」
「切り捨てねえだけマシだろうが」
「それもそうだな」
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「追い返されてしまいました」
「すまん、レティ」
「いえ。無策で突っ込んだのは失敗でしたね。私も少々油断していたようです。我々の力ならば遅れを取る事など無いと過信していました」
実際どうにでもなった事だ。あの場では取り逃がしてしまったが、何時でも追いつく事は出来るのだ。今はただ泳がせているだけだ。ルベド達が空からオルドニェス候を追ってくれている。彼が何を当てにしているのか見極める為に。
「大丈夫よ。まだ終わってない」
「うむ」
初手はしてやられたが、お陰で状況がわかりやすくなったとも言えるだろう。奴がわざわざ悪役に名乗り出たのだ。まさか第三王子を裏切って自分だけで逃げ出すとはな。私が治療する事を前提とした策とはいえ、ますます目論見がわからなくなってしまった。しかしその謎が解けるのも時間の問題だ。このまま奴の動きを追い続ければその意図が読み取れるだろう。
『まだるっこしいけど、一網打尽にするには良い手よね』
そうだね。絶対に援軍はいる筈だよ。きっと奴は戻って来るつもりだよ。第三王子を助け出す為に。仲間達を連れて。一人で逃げる気だったならとっくに逃げていた筈だもの。それにきっと忠誠は本物だ。確かな証拠は無いけどそう思うんだ。




