06-39.小さな勇気
「本気か?」
「ええ。先にも言った通りよ。動くと決めたのなら割り切りましょう。ジェシー姉様の案も試してみるべきだわ」
「しかしなぁ……」
ニアの案とはマカレナとナタリアによる潜入調査だ。この混乱に乗じて第三王子の周辺を調べるのだ。しかし当然バレればただでは済まんだろう。派閥の違うナタリアは元より、マカレナにだって本来自由は認められていないのだ。この子はあくまで籠の鳥だ。聖教国での立場を決定付ける重要な存在だ。少なくともオルドニェス候はそう考えている筈だ。
オルドニェス候は当初、マカレナについて様々な利用方法を想定していたのだろう。しかし事ここに至って打てる手はたった一つだ。それは第三王子を聖教国の者達に託す事。神の加護を授かったマカレナとの婚姻関係は命綱だ。当然既に我々が横取りした事にも気付いているだろう。だからこそニアの作戦にも意味はある。私達の策が見え透いていても彼らはマカレナを側に置くしかない。なんならマカレナを通して我々に助けを求めてくるかもしれない。交渉が始まれば真実を知る機会もあるだろう。どう転んでも悪いようにはならない筈だ。それはわかっている。わかってはいるのだ……。
「ダメだ。今更第三王子と手を組むような真似は出来ない。例えフリだとしてもだ。彼らの秘密を暴くのは敵としてだ」
「勝ち方に拘る余裕なんてあるのかしら?」
「それでも拘らねばならん。それが私の選択だ」
「そう。わかった。いいわ。エリクの考えに賛成するわ」
「すまんな。ありがとう。パティ」
「気にしないで。私も納得したから賛同しているのよ。そうでなければいつも通り反論していたわ」
「うむ」
「なら次は私の番ですね」
「レティが? サロモン爺様と組むのか?」
「まだ問題がありますか?」
「……いや。それよりも何が出来るのかが知りたい」
「反乱の泥沼化を抑えます。現状、三番目のお兄ちゃんが素直に投降するかは不確実です。もしもの時には他の王宮魔術師達と連携して制圧します」
「……ふむ。悪くないな」
問題は王が立ち入りを禁じた事くらいか。事情が事情だけにレティの言った口実ならば見逃される可能性はある。
「ジェシー姉様も結局派閥の対応に戻ってしまったものね。私も何か出来る事はないかしら」
第一王子が抑えられても、第一王子派閥そのものが消えて無くなるわけでもないものな。しかしパティは……。
「パティはダメだ。理由が無い」
「そうとも言い切れませんよ」
「どういうこと? レティ?」
「パティにはいっぱいいるじゃないですか。探せば一人くらい協力してくれますよ」
確かにパティは人気者だ。仲の良い兄弟姉妹や卒業生達が力を貸してくれるかもしれない。皆が集まれば国を動かすにも十分な力が集まるかも知れない。しかしそれでは……。
「ダメよ。こちらから巻き込んでしまっては意味がないわ」
私達が干渉しようとする理由は未だハッキリと言語化出来るものではないが、それでも放っておけない、要らぬ犠牲者を出したくない。この二つだけは確かだ。被害者を増やしかねない選択肢は選べない。
そもそもレティの提案した方法ではパティが王位を継ぐしかなくなるだろう。学生達を巻き込んで城に乗り込んだあの時とは違うのだ。
「クシャナ様。どうかこのイネスめに」
「オルドニェス候に会ってどうするつもりだ?」
話は聞いていた筈だ。第三王子の派閥につく事は出来ん。それにこのタイミングで名乗り出たのだ。きっとパティとも関係があるのだろう。
「イネスが父を止めます。パトリシアさんとクシャナ様にもご助力頂きたいのです」
「……」
「元はと言えばイネスが皆様を巻き込んだのです。イネスが逃げ出さねば我が父とクシャナ様の間に因縁が生まれる事も無かったのです。イネスが逃げ出さねばマカレナさんが今の立場に置かれる事も無かったのです」
そうだな。イネスも本当は気にしていたのだよな。私にはわかっていた。イネスもまた私の眷属だ。心を痛めていたのなら当然伝わってくる。それでもイネスは何も言わなかった。自らの弱さを理解しているからこそ、余計な望みや罪悪感を口にするべきではないと自らを律していた。
それでも今回イネスは頭を抱える私達の為に口を開いてくれた。自らの望みを口にしてくれた。これはさぞかし勇気のいる事だったのだろう。出来る事なら目を瞑って耳を閉じていたかった筈だ。それでも一歩踏み出してくれたのだ。
「皆様の力をお借りせねば何も出来ぬ分際で烏滸がましい事とは存じております。ですがイネスには責務があります。我が父の野望がなんであれ、国外の者と共謀して王家を踏み荒らすつもりであると言うなら止めねばなりません。どうかお力を。お願い申し上げます。クシャナ様。我が主よ」
「……わかった。イネスの想い無碍にはすまい」
「感謝致します」
「というわけだ。我々は我々の理由を以って第三王子の下へと攻め込もう」
「本当に良いのね?」
「その方がスッキリするだろうさ。全て我ら自身の目で見定めるとしようではないか」
「ごめんなさい。エリクはそういう事を嫌うとわかっていたのに」
「パティが謝る事ではないさ。最後まで責任を持とう。我らは一度追い出されて尚首を突っ込んでしまったのだ。ここで立ち止まっては何の為に第一王子を糾弾したのかわからなくなる。そんな半端こそ私の最も嫌う所だよ」
「そうね。これは私達の傲慢よ。私達には国の行く末を最後まで見届けるつもりがない。王位を継ぐつもりもない。それでも今回の一件だけは最後まで見届けましょう。誰に責められようと、私達の正しいと思う選択を続けましょう」
「うむ!」
今度こそが我らにとって最後の決戦だ。その後はこの国の歴史から退くとしよう。故にこそだ。跡を濁す為ではなく、大団円を迎えるために尽くすとしよう。




