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06-38.必要悪

『まだ少し弱いわね』


 何が?


『思い出して。彼は老け込む程に仕事熱心でもあるのよ』


 ……まだ何か目的がある? あの状況でも口にしていない目的が?


『少なくとも王位に熱意が向いていないのは確かよね。けれど他に何かやりたい事はあったんじゃないかしら』


 そうかもね……。


『それに彼が周囲から慕われていたのも事実よ。ニアとパティも彼を人格者として評価していたわ。実際第三王子を心配していた気持ちも本物なんだと思うの』


 もうわかんないよ……何が真実かなんて……。


『きっと本質的にはニアと同じなのね。ただその見せ方を理解しているだけで。当然善性が皆無というわけでもないの』


 うん……。


『オルドニェス候が神の加護を求めたのは聖教国に取り入る為の口実でしょうね。マカレナの件は考えすぎなのかも。本当はただ寄り親の方に用があっただけなのかもしれないわ。マカレナの存在に後から気付いて利用しただけなのかも』


 ……もしかして考え続けろって言ってる?


『そうよ。彼と同じになりたくなければね』


 そうだね……。


『疲れちゃった?』


 ……正直。


『嫌よね。人の悪意を見るのって』


 ……わざとかな?


『彼の事? かもしれないわね。全部嘘だったのかも。本当は誰かを庇って話を合わせただけなのかも。全て銀花の勘違いだった。そんな風に疑う事だって出来てしまうものね』


 どうしよう……。


『考えすぎよ。そう言って欲しい? それとも納得出来る答えが欲しい? 或いはもう休めって言って欲しい?』


 意地悪……。


『考えなさい。まだ終わっていないわ』


 うん……。



 ゆーちゃんの言う通りだ。ニコライ達は第一王子の話を聞いた上で考えるだろう。このまま進めて問題ないのか。或いは第三王子派閥との決戦は中止すべきか。ニアは再び向こうについていった。父の行く末を見届けるつもりだ。


 私のせいでニアは……。第一王子はニアを自由にしてやりたかったのかもしれない。私はそんな優しさすらも台無しにしてしまったのかもしれない。愚かな真似をしているのは私の方なのかもしれない。


 引っ掻き回すだけで良い筈が無い。私も見届けるべきだ。せめて私の言葉が変えてしまった現実は直視せねばならん。誰がどのような結末を迎えるのか知るべきだ。私にはその責任がある。ここで逃げたら自らが断罪した彼と同じになってしまう。それがダメな事だけはわかっている。



「エリク」


 私の名を呼んだパティの声は少しだけ震えている。なのにもう前を向いている。きっと内心泣きたくて堪らないに決まっているのに。パティだって第一王子を慕っていたのだ。それを自分が追い詰めてしまった。そう考えているのだろう。


 パティは私だけに責任を押し付けたりなんてしない。むしろ自身こそが我らのトップであると自負している。私の言葉は自分の言葉であると当然のように考えている。だから逃げたり責めたりなんてする筈がない。その上で思考を止める事もない。私とは根本的な覚悟が違う。生まれついての姫と名前だけの王だ。その差は歴然だったのだろう。



「エリクは後悔しているのかもしれないけど、そんな必要は無いわ。一兄様が明らかに怪しい態度を取っているのは事実よ。もし仮にさっきの話しが全て嘘だったとしても、それを選んだのは一兄様自身よ。それはそれと割り切りなさい」


「パティはやるべき事を見つけたのか?」


「二つに一つよ。これ以上手出しせずに成り行きを見守るのか、或いは徹底的に悪を叩くか。それが正しいかどうかは一旦脇に置きましょう。重要なのは私達が何を選ぶかよ」



 国を運営するという事が清廉潔白な事だけとは限らない。


 嘘をつくのが悪だからと言って全ての情報を明かしてしまえば、国防は崩壊するだろう。


 不公平が悪だからと言って全ての者に公平であれば、矛盾や歪みが生じてしまうだろう。


 暴力が悪だからと言って一切の強制力を廃してしまえば、秩序が維持できないだろう。


 これらは必要悪だ。悪であるからと禁じてしまえば国家が成り立たない事だ。



 ならばどこまでが許されるべきなのだろうか。第一王子の行いは全てが許されざるものであったのだろうか。


 結局のところ、それを決めるのは周りの誰かなのだ。私は一度彼を許さないと決めた。だから追求した。騙し討ちで全てを明らかにしてしまった。私のあの行いもまた悪なのだろう。


 しかし次にそれを断罪するのは、私以外の他の誰かなのだ。咎める者はいるのかもしれない。誰かが私を咎めるのかもしれない。けれどそれでもだ。より良い未来に辿り着く為に我らは選択を続けるのだ。パティが言っているのはきっとそういう事なのだ。



「正確な情報を得ることは大切よ。もしかしたら私達は間違った相手を断罪してしまったのかもしれない。そう考え続ける事にも意味はあるわ。けれど立ち止まってはダメよ。もう皆動き出してしまったのだから。考えながら選択を続けましょう。それが出来ないのならキッパリと手を引きましょう」


「そうだな。パティ」


「結構よ。なら次は私から提案をさせてもらうわね」

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