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06-33.反乱

「なんだ? 城の方が騒がしいぞ?」


 屋敷の近くにまで着いた所で違和感に気付いた。



「エリク! 二兄様が!!」


 私とアカネが足を止めた所に、丁度城の方から出てきたパティとリタが慌てて駆け寄ってきた。ただ事ではなさそうだ。



「ニコライがどうした?」


「反乱よ! 王位簒奪の為に挙兵したわ!!」


 なんだって!?



『ニア!』


「あなた達は何もしないで! 屋敷で待機していなさい!」


『わかった。代わりに視界を借りるぞ』


「当然でしょ!!」


 ニアもこちらの相手をしている余裕は無いようだ。第一王子派閥はまだ取り押さえられているわけではないようだが、交渉と情報収集、それから各所への根回しに奔走している。



 それから私達はすぐに屋敷へと戻った。ヴァイス家に移った者達の中から一部のメンバーも呼び戻して会議室に集まり、こちらでもわかっている範囲で情報を纏めていった。



「ニコライは謁見の間で堂々と陛下に刃を向けたそうだ。今はそのまま謁見の間に立て籠もってなにやら交渉事をしているらしい」


 他にも軍の一部や関係する高位貴族達がニコライに従っているらしい。謁見の間の者達だけでなく、城内に詰めていた第三王子派閥の者達も次々と捕らえられているようだ。



「近衛騎士は何をしていたのよ」


「陛下自身が制止したそうだ。なんならベルトランと第一王子も交渉に立ち会っているそうだぞ」


「随分と平和的な反乱ね」


「そうとも言い切れんぞ。第三王子の派閥も状況を悟って集い始めている」


「中途半端だわ。まるで人手が足りていないみたい」


「その通りだ。元々ニコライもこのタイミングで仕掛けるつもりは無かったのだろう。第一王子派閥か、或いは陛下の動きを察して強引に決行したようだ」


「無理もないか……。二兄様にとっても最後のチャンスだものね……」


「いや。どうやらやつの目的は王位ではないようだ」


「目的って?」


「そこまではわからん。交渉の内容までは明かされておらんからな。ただやつは肝心の第一王子派閥に何の手出しもしておらんのだ。あくまでやつらの目的は陛下と第三王子派閥だけだ。今の所はな」


「それはおかしな話ね。本気で王位を取るつもりなら一兄様に勝たないと意味が無いわ。仮にこれで陛下が二兄様を指名してもすぐに奪われてしまうもの」


「そうだ。だからこれはただの反乱ではない。陛下の罪を断罪しようとしているのやもしれん」


「二兄様も気付いていたのね」


「おそらくな。そしてこのまま第一王子派閥に先を越されたら揉み消さられるとでも考えたのかもしれん」


「そう……」



 しかし強引過ぎる。ニコライらしいと言えばらしいが、逆に不自然な点も多い。まるで王位なんてどうでもいいかのようだ。あんな半端な戦力で動いた所で最後まで戦い抜く事は不可能だろう。何もかも急過ぎる。彼が王位を放り出してでも優先した目的とはいったい……。



「本当に黙って待っている事しか出来ないのかしら……」


「パティも王位争奪戦に名乗りを上げたらいいじゃない。そうしたら大手を振って城に乗り込めるわよ?」


「リタ。滅多なことを言うでない」


「別に勝った後の事を心配する必要は無いわ。第一王子とは既に共闘しているんですもの。彼らに王位を譲ってしまえば済む話よ」


「あやつはそのままパティを王に据えかねんぞ」


「その時はその時よ♪」


「リタ」


「そんな怖い顔しないで♪ 嫌ならエリクも何か案を出してみなさいな♪」


 その意見は尤もだな。



「ふむ……」


 先ず陛下の目的はなんだ? ニコライはそれが何か知っているのか? 何故陛下は魔王の脅威を私達に知らせようとしなかったのだ? 私の力には利用価値がある筈だ。しかし彼らは私達を利用してこなかった。パティの為か? 二人ともパティには友好的だ。甘いとさえ言えるだろう。だからと言って国の一大事からも遠ざけるのか? それとも我々だからこそ近づけられないのか? 未だ信用されていないから? 信用なんぞされているとは思わんが、それでも利用するだけならいくらでもやりようはあったのではないのか?


『国王は知っているんじゃないかしら。神こそが黒幕だった事を。魔王を生み出していたのは神だったって事を』


 ……なるほど。それなら説明がつくだろうか。


『流石に無理があるかと。私達ですら知らなかった事です』


 だな。ネル姉さんはともかく、ルベド達ですらも知らなかった事だ。流石に知っていたとは思えない。


『ともかくってなんですか。引っかかる言い方をしますね』


 ごめんて。



「エリクちゃん。お姉ちゃんはお爺ちゃんに会ってきます」


「ダメだ、レティ。ニアから絶対に来るなと言われている」


「エリクちゃんはお姉ちゃんよりジェシーちゃんを信じるのですか?」


「そうではない。私も同意しているだけだ。安心しろ。ニアの目を通して状況は観察している。サロモン爺様も謁見の間には入れていない。どの道レティが出向いても意味がない」


「お姉ちゃんを信じてください」


「何か考えがあるのか? 言っておくがレティが王位を目指すのも無しだ。お前は私のものだ。今更返すつもりはない」


「もちろんそんな事しません♪ お忘れですか? 私は未だ王宮魔術師です。この状況で職場に戻らぬ方が不自然です」


「レティの職場はこの屋敷だ。私達のお目付け役が仕事だ」


「それは建前です」


「だとしてもだ。レティが行くのは無しだ」


「不安なのですか? 私まで陛下や三番目のお兄ちゃんに巻き込まれてしまうと?」


「そうだ。レティの研究は陛下にとっても重要なものであった筈だ。レティは自分の意思でやっていた事と考えているのだろうが、全て仕組まれていた可能性だってあるのだ」


 下手をすれば罪人に祭り上げられてしまうかもしれない。或いは気付かぬ内に本当に加担していた可能性だってあるのだ。レティはむしろヴァイス家に移すべきだ。この屋敷だっていつまで安全とも限らない。妖精王を敵として事態を更に引っ掻き回す輩が出てこないとも限らないのだ。



「ありがとうございます。エリクちゃん。その気持はとっても嬉しいです♪ けれどだからこそ私は行くべきなのです。この国の王女として、王宮魔術師の端くれとして、研究者の一人として。知らぬふりは出来ないのです」


「お主がそういう考えだから私は行かせられんのだ」


「何かあればいつでも支配して頂いて構いません」


「当然だ。言われるまでもない」


「許可してくださいますか?」


「抗う術があるのではないのか?」


「そんなものは用意していません。本当ですよ♪」


 嘘だね。レティが研究していないわけがない。



「信じてください」


「せめて目的を言え。具体的に何をするつもりだ?」


「お爺ちゃんと一緒に乗り込みます」


「ニアの邪魔になる」


「ジェシーちゃんでは無理です。エリクちゃんにもわかっている筈です。一番目のお兄ちゃんが既に動いている以上、ジェシーちゃんには手の出しようがありません」


「しかし……」


「第一王子派閥と妖精王の一味は別です。我々は我々の意思を以って介入すべきです」


「責任なんぞ取れんだろうが」


「そこは一番目お兄ちゃんに押し付けちゃえばいいんです」


「……まったく……ネル姉さん。……転移門を開いてくれ」


『良いのですか?』


「うむ。私が直接乗り込もう。レティとパティも付き合え」


「ふふ♪ それでこそ私のエリクちゃんです♪」


「そうでもしなければレティが勝手に行ってしまうかもしれんからな。或いはリタがもっと強引な策を思いつくかもしれん」


「あら残念♪ 丁度とっておきの策が思いついた所だったのよね♪」


 リタのは本当に洒落にならんやつだぞ。絶対。



「パティもそれでいいな?」


「もちろんよ! 私が先頭に立つわ!」


「ダメだ。今回は妖精王が出向くのだ。お前は私の隣だ。パティ」


「承知したわ!」

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