06-32.予兆
「ほらやっぱり」
『まだわからないじゃない』
アカネと二人でギルド長の部屋を出てロビーを通りかかった所で、大勢の冒険者達が集まっている場面に遭遇した。どうやらボードに貼り出された依頼を見て騒いでいるようだ。
こっそり脇を通り過ぎようとしたものの、集まっていた者の内の一人が私達を見つけて声を上げた事で、他の皆も一斉にこちらを振り向いてしまった。
彼らは明らかに何かを期待している様子だ。「妖精王が動くぞ!」なんて事を言いながら盛り上がりっている。ご丁寧にも、わざわざボードまでの道を開いてくれた。これ無視して帰っても良いのだろうか。
「妖精王様♪」
何故かアカネまでノリノリだ。気になるの?
渋々ボードに近づいて確認すると、何やら派手に装飾された一際目立つ依頼票が張り出されていた。
『なっ!?』
「うそっ!?」
「魔王……だと……」
いったいどういう事だ!? 魔王はもう生まれない筈じゃなかったのか!?
「ああ。お前達も見たのか。あれは陛下から要請されてな」
慌ててギルド長の下へ引き返すと、平然とした様子でそんな答えが返ってきた。
「近々魔王とやらが現れるそうだ。その為の戦力を集めて欲しいとのことだ。眉唾な話だ。そう思っていたのだが。貴殿の反応を見るに、あながち妄想というわけでもないのだな。しかし不可解だ。貴殿らが陛下の動きを知らんとはな。陛下はこの件に貴殿らを巻き込みたくないのかね?」
しまった。余計な情報を与えすぎた。こんな事ならまっすぐ帰ってパティに、いや。今すぐニアに相談するべきだ。
「すまない。少々取り乱した。おそらくお主の言う通りだろう。だからここだけの話にしておくれ。王女が要らぬ騒ぎに巻き込まれれば陛下も黙ってはおるまい」
「そんな話しが通るか。今や妖精王の力はこの国の誰もが知っている。本当に魔王とやらが脅威であるなら関わらずにいられる筈が無いだろう」
ごもっとも。
「わかった。観念する。我々は知っている。カルモナド国王の考えの一部も含めてな。だが話すわけにはいかんのだ。理解しておくれ」
「そういう事にしておいてやる」
それはどうも。
再びギルド長の部屋を出て集まってきた冒険者や受付嬢達をどうにかやり過ごしながらギルド会館を抜け出した。
『というわけなんだが』
「早いわね。もう知っているなんて驚いたわ」
あかん。これ皮肉だ。めっちゃ機嫌悪いじゃん……。
『すまん。ニアは知っていたのだな』
「ええ。あなた昨晩から繋いで無かったでしょ。今度は誰と寝ていたのかしら?」
『アカネだ。この子は頑張りすぎだからな。少しは休ませようと考えたのだ』
「……そう言えば私の怒りが収まるとでも?」
悪かったってば。
「まあいいわ。陛下が突然動き出した理由についてはあなたも想像がつくでしょ」
『我々の行動を察したからだな』
「ええ。魔王の脅威については心配ないとお父様が伝えてくれた筈なのだけど」
その程度で納得出来る筈もないわな。
『やはり一度私から話すべきだっただろうか』
「それは無理よ。魔王の件が無かったとしてもどのみち王位については話さなければならないのだから。そこに妖精王が関わっているとなれば陛下も冷静でいられないでしょうね」
そんなわけあるか。あの人は淡々と対処するだろうさ。少なくとも表面上は。……そう思っていたのだが。
「既に冷静さを欠いていると思うかしら?」
『わからん。ただらしくないとは思う』
「そうね。広めるつもりがあるならもっと早くに広めていた筈だものね」
明らかに今までとは異なる動きだ。これは何かしらへの対処だ。慌てて施した策だ。本来の予定には無かった筈の動きだ。第一王子にすら魔王の件は禄に話しておらんかったのだ。それを今になってこんな形で公表した理由が何かある筈だ。
「こちらも計画を早める事になりそうだわ」
『やむをえまい。出来れば平和裏に進めたかったものだが』
「そうも言ってられなさそうね」
この期に及んで第一王子と話し合わずに動いているのだ。陛下にはまだ隠したい事がある筈だ。
『一つ謝っておきたい事がある』
「あら? 一つだけかしら?」
『真面目な話だ』
「聞きましょう」
『私は以前よりも能力が低下している。複数箇所を同時に覗く事は出来そうにない』
「……はぁ? 嘘でしょ? このタイミングで?」
『悪いわね。私が意識を取り戻してしまったせいよ』
「そう。ユウコが。事情はなんとなく察したわ」
一応ゆーちゃんが私の補助に集中してくれる間だけは以前と同じ事も出来る。しかしそれはあくまで意識的に集中している間だけだ。ゆーちゃんの心が人としての形を取り戻してしまった影響か、私達は以前のような人間離れしたパフォーマンスを発揮する事は出来なくなってしまった。のだと思う。実はまだ色々と試している最中なのだ。けれどもっと早く話しておくべきだった。
『すまんな。ニアはくれぐれも気をつけてくれ。眷属達には変わらず魔力は流し続けているからそうそう傷を負うことも無いだろうが、決して不死なわけではない。心臓が破壊された程度は問題が無くとも、全身が一瞬ですり潰されでもすれば再生も間に合わんだろう』
「バカね。そんな事あるわけないでしょ。変な事言わないでよ。私を怖がらせたいの?」
『本当に気をつけておくれ。私はお前を失いたくないのだ』
「ならもっと早く言いなさいよ」
『尤もだ。すまん』
「そういう所がダメなのよ。あなたは」
『面目ない』
「なら今はアカネに集中なさい。あなた達今町中歩いてるんでしょ? 何かあったら一番に守ってあげなきゃダメよ。妖精王を狙う刺客だっていないわけないんだから」
『アカネは大丈夫だ。ニアよりよっぽどな』
「なによそれ」
『アカネにはセンスがある。既に魔装も扱えるのだ。それも常時身に纏っている。並大抵の攻撃ではびくともせんぞ』
「……そう。私は足手まといなわけね」
『そんな事は言っとらんだろうが。非戦闘員という意味ではリタも大差無いぞ。むしろアカネやレティが特別なだけだ』
「はいはい。ならマカレナの方も頼んだわよ」
『あの子には姉さんが加護を施してくれた。それこそ心配は要らんだろうさ』
「なら結構よ」
いっそ家族全員にかけてもらうべきだな。私の事情を説明して姉さん達にも協力を仰ごう。なんなら母さんに頼めば本物の神の加護もかけてもらえるし。
「とにかくこちらは任せなさい。引き続き調査は続けるわ。けれど定期的に繋ぐ事も忘れないで。何かあったらすぐに伝えられるようにね」
『うむ。約束する』
「話し終わった? ニア姉さんはなんて?」
「陛下が動き出したようだ。目的は調査中だ」
「そっか。ならうちらも帰ろか」
「すまんな。折角のデートだったのに」
「ええって♪ そん代わり平和になったらまた行こな♪ まだまだ紹介したい所ようさんあるんや♪」
「そうだな。また来よう。いくらでも」




