06-31.世間話
「ギルド長が?」
「そうなの。是非とも妖精王陛下に挨拶したいって」
少し前に新しいギルド長が就任した事は聞いている。タマラは今でも冒険者を続けているし、パティやアカネも素材の件で大規模な取り引きをしたばかりだ。
しかし私は別だ。ギルドには意識的に近づかないようにしていたくらいだ。ギルド長側も妖精王である私とは距離を置くつもりなのかと思っていた。もしそうでないなら就任直後に接触してきたことだろう。以前の確執は水に流そうと手を差し出してきた筈だ。でなければまた同じ事を繰り返す事にもなりかねないのだ。少なくとも私はそう取らざるを得ないのだ。
「何故今になって?」
「頼みたい事でもあるんじゃないかしら」
まあそうだよな。わざわざ距離を置いていた相手に擦り寄るなんてよっぽどの困り事があるのだろうな。
「先ずは精算しようというわけだな」
「ええ。そんな所でしょうね」
ふむ。これはどう見るべきか。正直不可解だ。そもそもギルド長が私と接点を持つ理由が思い浮かばない。パティもそれは知らんのだろう。知っていたら先に説明していた筈だ。
以前ギルドと私達は争った。私はギルド会館の上空に飛竜を呼び出して脅しをかけ、最終的に当時のギルド長が排斥される結果へと繋がった。
しかし今でもタマラは冒険者を続けているのだ。何か依頼があるならそちらに直接頼めば済む話だ。タマラの力を以ってしても太刀打ち出来ない魔物なんぞそうそう現れはせんだろう。
仮に腕っぷしと関係の無い依頼であったとしても同様だ。私に話を持ち込む意味は無い。この国の王女であるパティに直接相談すればそれで済む筈だ。その王女にわざわざ顔繋ぎを頼むなんぞ意味がわからない。
もしやカルモナド王国に借りを作りたくないのだろうか。ギルド長は世界に一つしかないギルド本部から派遣された人員という話だ。姫の力を借りるよりは明らかに国外の勢力とわかっている妖精王の方が都合が良いのだろうか。
『単に興味があるだけって可能性もあるわよ』
折角だから妖精王を一目見ておこうと?
『それかもしもの時の為に仲良くしとこうってだけかもね。今になったのは就任直後で忙しかっただけじゃないかしら。例の取り引きとかも落ち着いたからそろそろお茶でもしておこうって誘ってくれたのかも』
う~ん……。
「頼みたい事とやらに心当たりはあるのか?」
「いいえ。今のところは無いわね。ただなんとなくそんな雰囲気を感じただけよ」
なるほど。パティの勘か。それは当たりそうだな。
「リタはどう思う?」
「攻略してほしいダンジョンでもあるんじゃないかしら?」
「ダンジョン? この近くに大したもんは無かったろう?」
「だから遠くよ。ギルド長はこの国に来たばかりでしょ。それに私達には竜が居るんですもの。そのうち世界中の塩漬け依頼を押し付けられるんじゃないかしら?」
「なるほど」
たしかにそれなら納得だな。流石のタマラも移動時間だけはどうにもならんし。そもそもギルド支部としても最高戦力のタマラをそうそう動かしたくはないのだろう。
「ダンジョンは盲点だったわね」
カルモナド近辺にはわざわざ意識する程のものが無いものな。パティが気付かぬのも無理はない。
「ともかく話はわかった。早速明日にでも出向くとしよう」
「ええ。お願い。悪いけど私とリタは別件があるからアカネと行ってきて」
「うむ。承知した」
明日はディアナ達学園組も休みだ。久々にアカネと行動するのも悪くないな。いっそ一日連れ回してしまおうか。
『ハーレム王は大変ね♪』
アカネは忙しすぎる。学園でディアナの付き添いをしてくれているだけでなく、家でも研究所の営業兼経理担当としても働いてくれている。だから私に構っている時間が無い。こちらから言わねば休もうとすらせんだろう。
『眷属は疲労を感じないからって働き過ぎはよくないわよね』
うむ。明日はたっぷりと労おう。
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「妖精王様ったら♪ うちのことそんな好きやったんね♪」
ギルドに行くのは午後からと告げて、午前中はめいっぱいアカネを饗した。というか昨晩からだ。昨晩私はアカネの部屋を訪れた。翌日の予定を相談してから、早めに寝かせようと思って同じベットに潜り込んだのだ。
アカネはそれはもう喜んだ。昨晩から今現在に至るまでテンションが上がりっぱなしだ。今も私の腕を抱いて歩きながら甘い言葉を囁いている。わざわざ大人モードになって白昼堂々イチャラブデートを楽しんでいる。
「今はエリクと呼べ」
「ふふ♪ ええよ♪ 今だけやで♪ エ・リ・ク♪」
この国では妖精王ってあまり良い印象ばかりじゃないからね。町中で呼ばれるのは少しマズいよね。今更過ぎるけど。
「他に行きたい所はあるか?」
「う~ん。名残惜しいけどぼちぼち仕事せんとな~」
あと一箇所くらいなら……。まあいっか。やること終わったらまたデートの続きしても良いんだし。
「なら食事を済ませてからだな」
「ええとこあるで♪ 案内したる♪」
アカネの紹介してくれたレストランは初めて来た店だったが、どれも美味しいものばかりだった。元々アカネはこの国一の商会であるカナレス商会の娘だ。王都についてはうちの家族の中で最も詳しい子だ。
「満足した?」
「うむ。また来よう」
「絶対やで♪」
ふふ。アカネも楽しんでくれたようで何よりだ。
レストランを出た私達はそのままギルドに直行した。事前に遣いは出してあったので、ギルドに到着するなりすぐさまギルド長の下へと通された。
「はじめまして。妖精王。キャンベルだ。お見知りおきを」
新しいギルド長は妙齢の女性だ。女性にしては大柄で、少々迫力のある御仁だ。
「わざわざ来てもらってすまない。本来であれば私の方から出向く所であったのだが」
「それは構わんのだが。良かったのか? たしか私は魔物として扱われている筈だと記憶していたのだが」
「申し訳ない!」
おもいっきり頭を下げられてしまった。
「気にするな。済んだことだ。意地の悪い質問だった。こちらこそ申し訳ない」
「そうか。ありがとう」
前ギルド長とは随分毛色が違うのだな。
「何か我々に出来ることはあるだろうか」
「今後とも良き付き合いをしてくれればそれで結構」
「かたじけない」
まさかこれで話は終わりなのだろうか?
「それで用件は?」
「一度挨拶をさせて頂きたかった。それから謝罪を」
「ならばもう用は済んだか?」
「少しばかり世間話にお付き合い頂けないだろうか」
「もちろん構わんとも」
そこから始まった話は本当に他愛のないものだった。最近タマラがこなした依頼や近くに現れた魔物の情報、それにパティやリタ、同行してくれたアカネについて。アカネの事も随分褒めてくれた。優秀な商人だと。とにかくギルド長は私達と友好的な関係を築いていきたいようだ。かといって押し付けがましかったり、わざとらしくすり寄ってくるようでもない。まるで対等な友人を相手にするかのようだ。それでいて嫌な感じもない。間違いなく我々に敬意を示してくれている。そう素直に受け取れる姿勢を貫き通してくれた。
「ダンジョン? いや。今のところ特に無いな。本部からも指示は受けていない」
「そうか。ふむ」
「その方が安心出来るか?」
「ふふ。すまんな。お主を疑いたいわけではないのだが」
「気持ちはわかるさ。こちらこそ気が利かなかったな。それらしい依頼でも用意しておくべきだったか」
「はは♪ それはそれで怪しむさ♪」
「違いない」
本当にただ仲良くする為だけに会いたかったのか。少し拍子抜けだな。もちろん悪いことなんて無いのだけど。ただ少し気になるのは、パティとリタは何か目的があると考えていたことだ。私の勘よりも二人の勘の方が信頼度は高いのだ。私は何か見落としているのだろうか。
「何かおもしろい依頼でも見つけた時はまた呼んでおくれ。もちろんそれ以外でもお邪魔させて頂こう」
「うむ。私も多忙故いつでも気軽にとまでは言わんが、好きな時に来て頂いて構わない。その際は出来る限り応対しよう」
ギルド長は正直者だな。思い過ごしなのだろうか。
『私の言った通りだったわね♪』
だからこそ不安なんだよなぁ。
『ちょっと! それどういう意味よ!?』
ゆーちゃんってなんでか肝心な所で外しちゃうんだもん。
『あんたそんな風に思ってたの!? 全部銀花のせいでしょ!?』
まあ、うん。そうなんだけどさ。
『そう。そんなにパティ達がいいわけね』
良いとか悪いとかじゃなくてさ。
『酷いわ。あんまりよ』
ごめんて。ゆーちゃんの事も信じてる。念の為だよ。念の為。




