06-29.唯一の解決方法
とは言ったもののだ。何をどうすればこの問題は解決するのだろうか。ゆーちゃんの懸念通りこのまま放っておくのはマズいだろう。私が見て見ぬふりをするのはダメだ。だからこそゆーちゃんは動いてくれていたのだ。
「ゆーちゃんは具体的に何をするつもりだったの?」
「私の作戦は一旦忘れなさい。銀花なりに考えてみなさい」
まあそう言うよね。ゆーちゃんだし。
「銀花はどうせぶち壊しちゃうんだし、最初から自分で組み上げてみるべきだと思うわ」
「それもこれもゆーちゃんの作戦あってのものじゃない?」
「ねえ、私をなんだと思ってるの? 普通に傷つくのよ?」
「ごめん……」
「別に焦る必要は無いわ。あと数時間でどうこうなるって話でもないんだし。それに銀花は私がいなくても上手くやってきたじゃない」
「……うん。もう少し考えてみるよ」
今一度問題を整理してみよう。
私はこれまでユーシャこそが一番であると公言してきた。パティとディアナは二番で他はその次だと。そうハッキリと態度で示してきてしまった。
今回はそこにゆーちゃんが現れた。未だ私とゆーちゃんは恋仲と呼べるような関係ではないが、ともすればそれ以上に強固な絆で結ばれた関係だ。何せ魂が癒着している。混ざり合っている。例え離れようとしても不可能な程だ。もちろんそんなつもりは微塵も無いけども。
ユーシャだからこそ大目に見てくれていたパティとディアナも、ゆーちゃんが加わるのは認め難いだろう。それも当然の話だ。
「紹介していなかったけど実は仲の良い姉がいたの♪」
「その姉が一緒に暮らしたいんだって♪」
「皆も仲良くしてくれるよね♪」
一年も同棲していた恋人から突然こんな事を言われたら戸惑うのも当然だ。あまつさえその姉は結婚後の家庭にも居座ると宣言しているのだ。「冗談じゃない。婚約破棄だ」そう言い渡されてもおかしくはない暴挙だろう。
何をどう考えても私が悪い。ハーレムが許されたからって他の全てが許されるわけではない。物事には限度がある。踏み越えてはならない領域がある。四人の関係性は不可侵だ。
私とユーシャとパティとディアナだけだから見逃されていたのだ。そこにゆーちゃんが入る余地は無い。誰より私自身そう言葉と行動で示してきた事だ。今更ひっくり返すなんて到底認められる筈がない。当たり前だ。
さて。前提としてはこんな所だろうか。それでだ。私はどうするべきだろう。
もちろんゆーちゃんを追い出す事なんて出来る筈が無い。切り離す方法が見つかったとしても迷わず揉み消すだろう。
ユーシャ達もそこまでしろとは言わない筈だ。ただ私に宣言させたいだけだ。今までと何も変わらないと。ユーシャが一番でパティとディアナが二番。ゆーちゃんは三番目の婚約者達に加わるのだと。それなら見逃してやると言うだろう。
私自身、別にゆーちゃんと結婚がしたいだとか、関係性に拘っているわけじゃない。ただ側に置いておきたい。私の心の中という誰より近い場所に居続ける事を許してほしい。
本音を言ってしまえば、そんな風に思考を止めていた。我が身を振り返る事もせず、ゆーちゃんや他の皆にばかり危機感を抱かせてしまっていた。
私はゆーちゃんが望むならどんな願いでも叶えるだろう。到底ゆーちゃんが望む筈の無い事は別としてだ。ゆーちゃんが恋人らしい事をしたいと言うなら、なんやかんやとは言いながらも身を委ねるだろう。実際初日からそうなったし。
そしてユーシャ達も私のそんな心境を察している。だから困っている。私からゆーちゃんを引き剥がす事は出来ないけれど、私の不貞を黙って見過ごす程甘くもない。
かと言って、単に頭を下げただけでは決して認めはしないだろう。そもそも頼む事自体が失礼だ。道理に反している。
私はそれだけ酷い事をしているのだ。けれど諦めるわけにはいかない事だ。例え口先だけゆーちゃんは三番目だと言い張っても誰も認めはしないだろう。何かしら落とし所は必要だ。いつまでも気付かぬふりはしていられない。
「思考が遅いわ。私ならとっくに策の一つや二つ思いついてる頃よ」
「ごめんて。謝るから機嫌直してよ。そんな意地悪言わないで」
「ほんと困った甘えん坊だわ」
「言っておくけど半分はゆーちゃんのせいだからね?」
ゆーちゃんは私の半身なんだから。
「酷い責任転嫁だわ」
「なら諦める? 私は別に仲の良い姉妹でも構わないよ?」
「今更通るわけ無いじゃない」
「だねぇ」
困ったものだ。本当に。
「ディアナが面白い事言ってたわよ」
「どんな?」
「私達を同一人物として見ればいいって。ただの二重人格なだけだって」
「それ採用!」
「パティとユーシャに否決されたわ」
「じゃあダメじゃん」
「銀花もそろそろ何か思いつきなさいよ」
「頭脳労働はゆーちゃんの担当でしょ」
「あなたも考えてみるって言ったじゃない」
「じゃあ」
「没」
「まだ言ってない」
「伝わるもの」
「ずっるいなぁ~」
「銀花も頑張りなさい」
「ゆーちゃんが教えてよ」
「今まで私抜きでも頑張ってきたじゃない」
「ちゅーしてあげるから」
「あなたがそんなんだから皆心配するのよ。エリクモードはどうしたのよ?」
「品切れちゅ~~」
「やめなさい。真面目な話してるんだから」
「嬉しいくせに」
「押し倒すわよ?」
「さっきから誘ってるじゃん」
「真面目にやりなさい」
「しょ~がないな~」
「銀花」
「わかってるってば。ただの冗談だよ」
「それで?」
「ディアナから味方につけよう」
「結局人任せなの?」
「そうじゃなくてさ。先ずは数で均衡取らないとさ」
「均衡どころか逆転しちゃうじゃない」
「ゆーちゃんもカウントするの?」
「なるほど。そうね。先ずは四人で話をつけるべきよね」
「そゆこと。ゆーちゃんは景品だからね。どーんと構えていてよ♪」
「本当に任せて良いの?」
「あ、やっぱ知恵は貸して」
「ちょっと」
「貸してって言うとちょっと違うか。ゆーちゃんのものは元々私のものなんだし。もちろんゆーちゃんの頭脳だって例外じゃないもんね」
「リスペクト精神の欠片もないわね」
「憑く相手を間違えたね♪」
「しないわよ。後悔なんて」
「だよね~♪」
「いい加減話を進めましょう」
「ディアナを味方にしたら次はパティね」
「ユーシャじゃなくて?」
「ユーシャは絶対認めないよ」
「そうかしら? 私はパティの方がないと思うのだけど?」
「なんでそう思うの? 私達は同じ情報を下に判断してる筈でしょ? そもそも意見が分かれる事自体おかしくない?」
他の事ならともかく、よく知るあの三人の事で見解が分かれるってどういう事なんだろう。
「思考が違うのだから当然じゃない」
そういうもんかなぁ。
「一つだけハッキリさせておきましょう」
「ゆーちゃんとユーシャどっちが上かって話だよね」
「そうよ」
「ユーシャだよ」
「……」
「少なくとも恋人として一番なのはユーシャ。それだけは絶対に覆らないよ」
「……そう。本気みたいね」
「傷ついた?」
「……どうかしら。いえ。そこまでではないわね。認めたくないけど」
「だよね。ゆーちゃんはそう言うと思ったよ」
「ほんと酷い相方だわ」
「そう。相方なんだよ。ゆーちゃんは」
「そうね。それで? なんでユーシャは認めないの?」
「ゆーちゃんがパティとディアナよりも上だからだよ」
「……そうね。それなら確かにユーシャは認めないわね。ユーシャにとってはパティとディアナの方が私より大切なんですもの。銀花が私を二人より上に置くなんて許せないわね」
「そう。だから先にディアナとパティを味方につけるの。二人が納得すればユーシャが折れる可能性も高くなるから」
「それもそれで酷い話ね」
「どのみち酷い事はするんだよ」
「私より二人を上にすればいいじゃない」
「それを私が口にしても誰も信じはしないんだよ」
きっと私自身ですらもね。
「身から出た錆ね」
「そういうものを積み重ねて来ちゃったからね。私は私のやり方を貫き通す以外に道は無いんだよ」
「次からは気をつけなさいな」
「流石にもう生えてこないでしょ? それともゆーちゃんには誰か心当たりでもあるの?」
「あるわけないでしょ。ばかじゃないの?」
「そこまで言わなくても……」
「今の私には怒る権利くらいあると思うのだけど?」
「怒ってるの?」
「怒ってるわよ。当然じゃない」
「ユーシャより上が良かった?」
「そもそもジャンルが違うもの。どっちが上とか比べる方が不毛だわ」
「そうだよ。あくまでゆーちゃんとの恋愛はおまけなの。大切なのはゆーちゃんが誰より私に近い存在であることだけ。それだけは例えユーシャにだって踏み込めない領域なの」
「領域を決めていくのね」
「そうだね。ユーシャは誰より大切な娘で恋人で伴侶」
「どれか一つにしなさいよ。パティとディアナの分が無くなるじゃない」
「そんな半端は認められないよ」
「そりゃそうでしょうけど」
「ゆーちゃんは唯一無二の相棒」
「なんか他にもっと言い方ないかしら」
「そこは好きにしていいよ。他の領域を侵さなければ」
「ディアナには何を与えて味方につけるの?」
「なんだろう。何なら納得するかな?」
「まさかのノープラン……」
「ディアナの事だから相談すれば自分で決めてくれるよ。たぶんパティの分もね」
「信頼しすぎよ。任せすぎよ。もう少し引っ張ってあげなさいよ」
「そんな事したって上手くいくわけないじゃん。良いの。私達は四人で恋人になったんだから。こういう事は皆で決めていくもんだよ」
「何を偉そうに言ってるのよ。丸投げするって言ったのはどこのどいつよ」
「丸投げなんかしないよ。意見を聞いてみるだけ」
「腹案も無しに聞くことを丸投げというのよ。覚えておきなさい」
「もう。心配性だなぁ。ディアナなら大丈夫だってば」
「そういう問題じゃないと言ってるの!」
「わかったわかった。ディアナが来るまでに考えておくからさ」
「来る? 呼んだの? いつの間に?」
「あれ? 今メアリを介して声かけたよ? 気付かなかったの?」
「……おかしいわね。それだって気付かない筈は」
「ゆーちゃんが私の外にいるからじゃないかな? ファム達に言われたんだよね。ゆーちゃんが抜けてる間の私はスペックが低下してるって。流石のゆーちゃんでも肉体に意識を向けてる時は私の思考を見逃すんじゃない?」
「……そう、みたいね。気をつけるわ」
「ゆーちゃん? 大丈夫?」
「え、ええ。気にしないで」
本当に大丈夫? さっきのよりよっぽどショックを受けてたみたいだけど。




