06-08.呪いの正体
「いらっしゃい、エリクちゃん。それにパティちゃんも♪」
「はい。アニムスさん。またお邪魔させて頂きます」
「ふふ♪ ありがとう♪ 会いに来てくれて嬉しいわ♪」
「お邪魔します。アニムス様」
「うふふ♪ そうかしこまらないで♪」
これで三度目か。出来ればもう少し頻繁に話を聞かせてもらいたいところなのだが。中々鏡が光らんのだよなぁ。
「今日は続きからで良いのかしら?」
「先に一つお聞きしたい事が。呪いについて何かご存知でしょうか?」
「なら続きから説明するわね」
え?
「エルちゃんが私を使ってやりたかった事。それがエリクちゃんの言う"呪い"を生み出す事だったの」
なん……だと……。
「本当は生み出すって言うと少し違うのだけどね」
「……呪いとは元々存在するものなのですか?」
「そう。正しくは『樹力』」
じゅりょく?
「本来はあの大樹が持つ力。この世界が持つ力」
大樹の力? それで樹力?
「より正しくは、それをエルちゃんが扱えるように変換したものなの」
「……女神様はその力をどうするおつもりですか?」
「その話に辿り着くまでにはもう少しだけ段階を踏む必要があるわ」
「ならば結論だけでも」
「呪いは呼び水よ。口実とも言える。定期的に世界を脅かす厄災を生み出すの。そして厄災は異世界の者を引き寄せる。その為の口実」
「その先は?」
「一つは私の為。私を孤独にしない為」
「一つは?」
「他にもある筈よ。けどそれが何なのかはわからない。きっとエルちゃん本人にしか知り得ない事よ」
「……復讐に心当たりは?」
「ごめんなさい」
「いえ。ありがとうございます」
「あの」
「どうぞ、パティちゃん」
「私の呪いが解けた理由って……」
「大樹にとってそれは歪に歪められた力だからよ。解けたと言うより調律されて解けたの。そしてより大きな力の下へ自然と流されていったの」
「……ありがとう……ございます」
「今日はここまでにしましょうか」
パティが限界か。やはり長くは居られないか。これでも前回よりは少しだけ持ち堪えられる時間も増えたのだが。
「また来ます」
「ええ。次も楽しみに待っているわ」
いつかアニムスさんをここから連れ出す事は出来るのだろうか。せめてキスカとファスタのように……。
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「……」
「大丈夫か?」
「……ええ。少し落ち着いてきたわ」
「今回は意識を失わなかったな」
「そうね。次も頑張るわ」
「無理はするな。次からは私一人で行くとしよう」
「ダメよ。私も聞きたいわ」
「パティと一緒では話しが進まんだろう」
「そんな冷たいこと言わないで」
「……無理はするなよ」
「ありがとうエリク♪ 大好き♪」
はいはい。
「それより落ち着いたのなら話をしよう」
「気になる事をいっぱい聞いてしまったものね」
「樹力か……」
「呪いをかけたのは神なのね」
「だが魔王は……逆なのか?」
「呪いが魔王を生み出したのかも」
「それが厄災か? 魔王を討伐する勇者が異世界転移者?」
魔王の復活とは即ち厄災の事なのか?
「けどならエリクは何の為に?」
「次の厄災の……いや。私が呼び出されたのは既に数百年は前の事だ。魔王が転移者を呼び出す口実なら辻褄が合わん」
『……ネルケ。これでわかっただろう?』
ニタス姉さん? そういえば姉さん達は今の今まで誰も口を開かんかったな。姉さん達にとっても先程の話はそれ程までに衝撃的な内容だったのか?
『ネルケだけではありません。私達も騙されていました』
『そうだな。エルメラの存在こそが世界を脅かす脅威とはとんだデタラメだったわけだ。母上はエルメラを滅ぼす事でその脅威を生み出したのだ』
は?
『ルベドはかつて世界を纏め上げかけた。それは母上にとって都合が悪かったのだ』
『人の死こそが呪いを集める手段なんだね』
『そうだ。平和な世では命のサイクルが長くなる。母上はあの力を人の輪廻に混ぜて集めていたのだろう』
なん……だと……。
『とすると神器をばら撒くのも争いの為か。どうなんだ、ネルケ? それら話すつもりはないか? ギンカが呼ばれた理由にも何か心当たりくらいはあるのだろう?』
『それ……は……』
『まだ隠し立てするつもりか? 私と同じ失敗を繰り返すのか?』
『……いえ』
『ならば話せ。我々が考えていたよりも事態は深刻だ。残された時間はそう多くはあるまい』
『……はい。お話します』
ネル姉さんはいったい何を? ニタス姉さんは何を焦っているのだ? 女神様は何を企んでいると言うのだ……。




