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01-36.姫様の秘め事

 湯治、ホムンクルス、竜の涙、精霊王の祝福、伝説の木の実、酒や薬またはそれらを産み出す器、指輪、人魚肉、ネクロマンシー、魔物化……etc。



 集まったのはこんな所か。

なんだか私の世界とも大して変わらんな。

もっと突飛なものでも出てくるかと思ったのだが。


 大体人魚肉とかもろではないか。

この世界に人魚は実在せんのだろうか。

こうしてお伽噺になるくらいだ。

少なくとも身近な存在では無いのだろう。



「浮かない顔ね」


「この程度ではな」


「今日はこれくらいにしておきましょうか。

 いくつか借りて、中身を確認してみましょう」


「良いのか?

 ここは貸出などしておらんのでは?」


「普通はね。私だけ特別よ♪」


 流石は姫様。

いや、それだけではないのだろう。

司書長や領主様からパティへの信頼の証でもあるのだろう。

きっとこうしてディアナの為に尽力してきたのだろうから。



「ディアナは何故知らんのだ?」


「何の話?」


「お主の事だ。

 パティ、お主もしや隠しておるのか?

 ディアナの為に普段している事も、自分が従姉妹だという事も」


 ディアナはパティに対して特別に親しくしているわけではなかった。もちろん邪険にする事もない。メイド達とそうするように、楽しげに話をするくらいだ。


 父君に対するものとはやはり違うし、メイド長にだってもっと気安く接しているのだ。パティともそう接していてもおかしくはないのに。


 メイド長が言いたかったのはこういう事だったのだろう。

ディアナがパティを愉快な客人としか思っていないというあの発言は、パティに対して苦言を呈していたのだろう。

立場を明かして、家族になってもらいたかったのだろう。



「考えすぎよ。

 従姉妹だなんて話、どこから出てきたの?」


 叔父様というのは領主の事であろう。

この町で姫と親族にあるような者などそうはおるまい。

普段は領主様なんて言って誤魔化しているが、先程はうっかりあの呼び方が出てしまったようだ。



「誤魔化すな。私達には正直に話せ。

 本当に家族になりたいなら間違えるな」


「……意地悪エリク」


 らしくない。

何時ものパティなら嬉々として乗ってきただろうに。

言質を取ったと大騒ぎするであろうに。



「まあよい。話したくないと言うのならそれでもな。

 距離を置くことにもまた理由があるのだろう。

 悪かったな。踏み込みすぎたようだ。

 私達もまだまだ足りておらんかったようだ」


 パティに家族と認められるにはな。



「ユーシャ?」


 ユーシャは何も言わずにパティの手を握った。

寂し気な表情で、苦し気なパティの顔を覗き込んだ。



「もう……二人して……。

 ……私のお母様とディアナのお母様は姉妹だったの。

 二人とも体が弱くてね。元々そういう家系なのよ。

 私やお祖母様はそうでもないんだけどね」


 ディアナはぽつりぽつりと話し始めた。

何時もの元気な声音とは全然違う平坦な声音だ。



「両極端なの。

 健康で頑丈な体に生まれる子と病弱な子。

 私は前者でディアナは後者。

 だから嫌だったの。知られるのは」


「ディアナがそのような事を気にするわけがなかろう」


「わかっているわ。そんな事。

 だからって開き直れるわけないじゃない……」


 パティは負い目に感じていたのだろう。

同じ条件で生まれてきたのに、自分だけが健康な肉体であった事が。もしかすると、ディアナの健康を奪ってしまったとでも思っているのかもしれない。



「ならば一刻も早くディアナを救わねばな。

 その時にこそ、お主も名乗り出るつもりなのであろう?」


「ええ。もちろん。

 親友から家族になるために」


「今のディアナはお主を親友だとは思っておらんぞ」


「もう!空気読んでよ!」


「お主は秘密にしすぎなのだ。

 親族である事はともかく、ディアナの為にと尽力している事まで秘密にする必要もなかろう。それを明かせば、ディアナだって勇気づけられるかもしれんのだぞ?」


 少なくとも、メイド長はそうしてほしいのだろう。

本当の事を明かして、ディアナの支えになってほしいのだろう。


 そして何より、ディアナはそういう子だ。

自分の為に頑張ってくれる親友を残しては逝けまいと、力を振り絞ってくれるはずだ。それが生きる支えの一つに繋がるはずだ。



「それこそ言えるわけ無いでしょ!

 何の根拠もないのに!」


「だからお主は親友などでは無いと言っておるのだ。

 ディアナの事を何もわかっておらん。

 あの子は強い子だ。見くびるでない」


「勝手な事ばかり言って!

 エリクは知ったかぶりし過ぎよ!

 エリクが私達の何を知ってるって言うのよ!」


「知らん。

 私が知っているのはお主らが教えてくれた事だけだ。

 だから問うておる。一つでも多くを知るために。

 我らは家族となるのであろう?

 なれば言葉を交わす他あるまい。

 友であれ、家族であれ、知り合わねば始まらぬ。

 私は知りたいぞ。お主の事が。

 ディアナもきっとそうなのだ。

 それでもあれがお主を友と見ておらぬのは、お主がディアナに何も伝えんからだ。

 先ずは伝えよ。お主の事を。友と名乗るのはそれからだ」


「……ぐぅ」


 なんじゃそれは。



「もうもうもう!

 エリクのバカ!

 意地悪エリク!

 そんな正論聞きたくない!

 もっと甘やかしてよ!

 どうせなら愛を囁いてよ!

 エリクやっぱ私の事好きなんでしょ!

 家族になりたいって!そう言ったものね!」


 何やら顔を真っ赤にして捲し立ておった。

どうして毎度そっちの方向に誤魔化そうとしてしまうのだろうか、この子は。



「言ってやれ、ユーシャ」


「パティ大好き」


「もうもうもう!ユーシャまでもう!

 可愛すぎよ!何なのよもう!」


 牛さんになってしまったようだ。

真っ赤な顔のまま、ユーシャを抱きしめてこねくり回している。



「え~ごほん。

 殿下、痴情のもつれは外でお願いします」


「ソニア!?」


 あかん。騒ぎすぎて司書長が現れた。

図書館ではお静かになんて決まり文句は定着しておらずとも、流石に限度を越えてしまったようだ。


 結局人形のフリだのなんだのも忘れて騒いでしまった。

面目ない。



「すまぬ。

 いくつか借りていきたい書物があるのだが」


「手配いたしましょう」


 どうやら領主邸に運んでくれるそうだ。

なんと至れり尽くせりか。まあ追い出されはするのだが。



 借りていくつもりの書物を司書長に預けて、私達は図書館を後にした。


 パティは未だに頬を赤らめている。

ユーシャにしがみつくようにして、イジケているようだ。



「なあパティよ。

 すまぬ。言い過ぎた。

 だから機嫌を治しておくれ」


「エリクのバカ。唐変木。

 今欲しいのはそんな言葉じゃないし。見当外れだし」


「何か腹に入れていくか?

 昼もまだであったろう?」


「またそういうこと……。

 ダメだよ、エリク。

 全部わかってて惚けてるんでしょ。

 そんなのパティが可愛そうだよ」


 そうは言われてもな。

パティは誤魔化したいだけであろう。

茶化しあって、流したいのだろう。

まさかこのタイミングで本当に愛を囁いて欲しいわけでもなかろう。


 それがわかっていて付き合うのもなんだか違うと思うのだがな。



「まあよい。放っておけ。

 それよりユーシャ。

 今ならパティが何でも奢ってくれるぞ。

 好きな店に入るが良い」


「ちょっと!そういう事勝手に言わないでよ!

 ダメよ!ユーシャ!私が案内するわ!

 こうなったらヤケよ!食べまくってやるわ!」


 ユーシャの手を取って走り出すパティ。

このお姫様、冒険者より町中に詳しいようだ。

本当にお転婆なお姫様だ。困ったものだな。

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