06-04.接触
計画を練った私達はその日の内に早速動き出した。先ずは下準備その一だ。帰ってきたルベドとニタスも交え、ついでにユーシャも加えて、フーちゃんの生み出した精神空間に直接招待する事にした。
「ユーシャさんがいっぱい!?」
この子か。確かに見覚えがあるな。あの乱闘騒ぎの中でも比較的高い実力を持っていた子の一人だ。そして二次会の方には参加しておらんかった筈だ。
「我々は女神様の御遣いです」
「女神様!?」
マカレナ嬢はすぐさま跪いた。珍しい反応だ。この国の者達は誰も彼も信仰心なんて持っていない様子だったのに。なんならむしろ厄介者扱いされているくらいだ。神器という物騒な代物を無作為に振りまいていく悪神とでも言いたげだ。
「申し訳ございません! 折角頂いたご加護を!」
抑えきれない程に震えている。まるで自分が天罰を受けると信じているかのように。
「あなたが謝る事ではありません。我々はあなたを救う為に現れたのです」
「わっ私の為に!?」
「何故疑問を抱くのです? 加護を与えし者が蔑ろにされたのです。当然の事ではありませんか?」
「めっ滅相もございません!」
「何を恐怖しているのですか? あなたに危害を加えるつもりはありませんよ?」
「わっ私は! 不信心者です!」
「ああ。そんな事ですか。気にする必要はありません。対価を求めて加護を授けたわけではないのですから」
「ですが!」
「むしろ謝罪せねばなりません。加護があなたの人生を狂わせてしまったそうですね」
「そっそんな!?」
恐縮しっぱなしだな。接し方を間違えただろうか。
「落ち着いて、マカレナ」
ユーシャが近づいて手を取り立ち上がらせた。
「エリクもそんな話し方やめて。あと姿も元に戻して」
「うむ」
「えぇ!? 妖精王様!?」
「久しいな。マカレナ嬢。故有って我々はお主に助力する事にした。感謝ならばジェセニア王女に向けるがいい」
「あのお方が!?」
そこも驚くのか。そりゃそうか。自分は不義理を働いたのになんて顔してるし。ニアはそんな事気にしておらんのだがな。
「今後の事を少しばかり話し合いたい。協力してくれると嬉しいのだが」
「はっはい! なんなりと!」
マカレナ嬢にはこれまでの経緯と私達の目論見を全て打ち明ける事にした。いざとなったら全て聞かなかった事にしてもらおう。この精神世界ならば干渉も自由自在だ。特定の記憶だけ消し去ってしまう事だって可能なのだ。
「すまんな。頭を下げるべきは私の方だ。私達の半端さがお主を斯様な問題に巻き込んでしまった」
「い、いえ! 私が選んだ事ですから!」
お主までそんな事を言うのか。
「強がる必要は無い。私達はお主の味方だ。ニアもそうだがお主ももう少し素直になっておくれ。でないと私達は気付けんのだ。今後の為にもどうか頼んだぞ」
「っはい!」
勝手な物言いとは思うがな。卒業式のあの日の時点ではマカレナ嬢が第三王子の伴侶になる予定なんぞ無かったのだ。もし仮にそんな事を考えている者がいるとしたら侯爵ただ一人だけであろう。あの侯爵ならイネスが逃げ出す事も察していた可能性は高い。これも買いかぶり過ぎだろうか。
「それでどうだろうか。この計画に協力してくれるか?」
「それは……」
流石に躊躇うか。自分がキッカケで王族の一人が引きずり降ろされるかもしれんのだ。元子爵令嬢には決断するにも荷が重かろう。
「妖精王陛下……一つお話が……」
「いいぞ。一つと言わずいくらでも。遠慮せずに思った事を言ってみよ」
「感謝致します。それで、えっと……。サンダリオ様、第三王子殿下は皆が思う程に悪しき人物ではないのです」
名前初めて聞いたな。
「罰を加減してほしいと?」
「……はい。あの方は利用されているだけなのです」
「惚れているのか?」
「いえ」
キッパリと言い切ったな。
「あ! いえ! あの! その! 今のは!」
「落ち着け」
「あ、はい……」
「つまりは加護を取り上げた事も第三王子の命令ではなかったと言いたいのだな」
「はい。間違いありません。周囲が勝手に仕立て上げたのです」
「えらく信頼しておるのだな」
『ルベ、いや、ニタ、じゃないな。ネル姉さん。悪いがこの子が洗脳されていないか記憶を覗いてみてくれるか?』
『ご安心を。この子の精神状態に異常は見られません。あと気遣わなくて結構です。どうぞ私にお任せを』
『ありがとう、ルベド』
『むぅ。私が頼まれたのにぃ』
『どうどう。ネルちゃんもわかるでしょ。エリちゃんが気遣った理由はさ』
『そうですけど~』
『なんでフーちゃんには頼まないのかな? かな~?』
『私も名前上がらなかったね。エリちゃんの中での信頼度順が垣間見えたね』
違うってば。
「あの方は私に手を出しませんでした」
うん?
「神の加護が取り消されてしまうかもしれないからと」
「本人がそう言ったのか?」
「はい」
なんだか私の知っている人物像とはかけ離れているな。だが私の印象も間違ってはおらんと思うのだが。私は彼本人をこの目で見た事もあるのだ。なにせ直接デネリス公爵邸の前まで押しかけて来たのだから。
「だから取り上げる筈が無いのです。あれは他の者の指示なのです」
興味深い話しだな。マカレナ嬢はいったい何を見てきたというのだろうか。
「ふむ。詳しく聞かせておくれ。お主の考えも交えてもらって構わん」
「はい!」




