表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/360

06-02.作戦会議

「パティはやはり起きんかったか」


「いい加減眷属にしてあげたら? エリクが魔力を流せば一発じゃない」


「その話はまた後にしよう」


「もう。またそうやって」


「ディアナ」


「そうね。ごめんなさい。今はそれどころじゃないのよね」


 丁度学園が終わって帰宅したディアナ達も交え、作戦会議を開始した。参加者は私、ユーシャ、ディアナ、ニア、残った姉さんズ、レティ、リタ、ダリア、シルビア、ミランダ、そしてイネスだ。ベルトランは少し遅れている。急に呼びつけてしまったからな。さもありなん。


 どうやら件の少女、マカレナはパティ達の同期だったらしい。なんなら私も会ったことがある筈だ。流石にどの娘がそうだったのかはわからんが。あの卒業式の日に。世間とは狭いものだな。同じ年頃の少女を探すとなれば当然の帰結なのだろうけど。


 そして今回の議題はオルドニェス家にも関係するものだ。イネスに聞かせるべきかは迷ったのだが、結局会議に参加してもらう事にした。オルドニェス候の目論見や諸々の背景を確認する為にもイネス視点の情報はどうしても必要だった。



「感謝致します。クシャナ様」


「こちらこそだ」


 任せてくれと言った手前、力を借りるのは少々心苦しかったのだが、どうやら私のそんな気持ちも見抜かれていたようだ。こちらから何か言う前に気を遣われてしまった。



「クシャナさん。どうかお願いします。あの子を救い出してあげてください」


 話を聞き終えたミランダは真っ先に頭を下げてきた。



「よせ。お主の望んでいるような方法は不可能だ。マカレナ嬢を取り上げる事が目的なのではない」


「それでもどうか!」


 彼女の窮状を伝えるべきではなかったか。これは私の配慮が足りんかったようだな。



「ダメだ。これ以上言うなら下がらせるぞ」


「……はい」


 ミランダは冷静だ。今は必死に思考を巡らせているのだろう。どうやってこの会議を望む方向に持っていくべきかと。



「クシャナさん」


「ダリアもか?」


「聞いて下さい。あの子には事情があったのです」


「それをお主の口から話す事は認めんぞ。卒業生とはいえ彼女はお主の生徒であろう」


「なら私から話すわね」


 ダリアに変わって今度はニアが口を開いた。



「あの子の生家は子爵家でね」


 子爵だと? 侯爵はよく第三王子の伴侶にねじ込めたものだな。神の加護はそれだけの価値があるというのか? 信心深くもないこの国で? 第一そんな少女を送り込んでも禄に身を守る事なんぞ出来んだろう。送り込む前に侯爵家の養子にはしたのだろうが、だからなんだという話だ。どれだけ優秀な子であっても無茶が過ぎるだろう。最初から使い捨てにする事を前提とした配置なのだな。しかも侯爵はニアとマカレナ嬢の接点を知っておった筈だ。つまり私達を当てにして無茶を押し通したのだ。もはや狡猾と言うより悪辣だな。手段を選ばないにも程があろう。私はあの侯爵を過大評価していたのかもしれん。



「半年程前にあの子の実家の寄り親が第三王子の派閥に取り込まれてしまったの」


「それでニアは手を引いたのか?」


「そうよ。当然でしょ」


「そうだな。すまん。意地の悪い質問だった」


「いいえ。それより話を進めましょう」


 半年前か。卒業より少し前だな。殆ど内定していたようなものだったのかもしれんな。なればこそニア本人も後悔しているのだろうな。あの時強引にでも引き止めていればと。あくまで寄り親の鞍替えなら末端の少女一人くらいは逃げ切る事も出来た筈だ。ニアにはそれくらいの力があるのだから。


 けれどきっとマカレナ嬢本人が助けを求める事はしなかったのだろう。それがニアに迷惑をかける事になると知っていた筈だ。パティに縋らなかったのも同様の理由なのだろう。当然パティ達同期組も知らなかった筈だ。知っていたのなら先程のミランダのように頼み込んできた筈だものな。



「迂闊でしたね、ジェシーちゃん。侯爵の狙いは最初からあなたとマカレナ嬢の関係にあった筈ですよ。あなたが手塩にかけて育てた少女を横取りしたのです。悔しいとは思いませんか?」


 今度はレティが言葉を挟んだ。



「そうね。レティの言う通りよ。私が干渉した事によってあの子の人生を歪めてしまったの。その罪悪感はあるわ。だからこうして頼んでいるの。レティも力を貸して頂戴。私はあの子を放ってはおけないの」


 ニアもようやく素直になってきたな。レティの物言いは少々乱暴だが、ニアを焚き付けるには最善だったのかもしれんな。派閥の問題や私達への気遣いがどうしても頭から抜けきらんでいたようだし。出来ればもっと早く素直になって頼んできてくれればよかったものをと思わん事もないのだが。



「でしたら徹底的にやりましょう」


「それは無理よ。今となっては」


「方法はあるじゃないですか。いい加減目障りなので三番目のお兄ちゃんにはご退場頂きましょう」


「冗談でしょ? 派閥ごと潰す気?」


「何を日和っているのです? 逆にジェシーちゃんこそどうしてグズグズしているんです? 未だに彼らがのさばっている現状をおかしいと思わないのですか? 一番目のお兄ちゃんに王位を取らせるつもりなのでしょう? それも一年でとエリクちゃんに約束したのでしょう? こんな所で手をこまねいている場合ですか? とっとと潰しちゃいましょうよ。彼らには吹き溜まりとしての役割があるってなんですか? そんなのただの腫瘍でしょう? それも完全に悪性ですよ? 切除しちゃえばいいじゃないですか。その後国が回らなくなるかもなんて心配はくだらないと思いませんか? それが王位を目指す者の姿勢ですか? 彼らの力を借りなければ国が存続できないのですか? そんな覚悟で王を務めるつもりなのですか? ならもういっそ全部」


「レティ。そこまでだ」


「はい。エリクちゃん」


 まったく。ニア相手だとすぐ感情的になりおって。流石に言い過ぎだ。



「天罰にかこつけて派閥丸ごと潰すか。面白い作戦よね♪」


 面白がるな、リタ。



「おいおい。なんて話ししてやがんだよ。俺もう帰っていいか?」


「早かったな、ベルトラン。来たばかりでそんな事言うな。ほれ。お前の席だ。用意してやったぞ。ありがたく思え」


「ふざけんな」


 と言いつつ律儀に腰を下ろすベルトラン。



「良かったな。綺麗どころに囲まれて」


「よく言うぜ。この国で一番おっかねえ場所だろうが」


「多少なりとも制御出来るのはお前だけだ。光栄に思うが良い」


「俺近衛の団長なんだけど? 流石に業務範囲から外れてねえか?」


「王国最強の守護者が情けない事を言うな」


「今度また修行しようぜ。最近一人でやってく自信がねえんだ」


「いいぞ。いくらでも相手になろう。お主がそんな調子では張り合いが無いからな。というか私がいなくてもタマラがいるだろう。何時でも挑みに来て良いのだぞ。私が特別に許可してやろう」


「流石に淑女だらけの屋敷にあしげく通うのはなぁ」


「なんだ。まだ私達の事を女性と思ってくれていたのだな」


「まあ気にする必要もねえか」


「おい」


「冗談だ。邪魔して悪かったな。話を続けてくれ」


「帰るなよ」


「帰れるか」


 よしよし。



「なんだかエリクが楽しそうだわ」


「私達と接する時とも少し違うのよね」


「エリクの中の男心が親友との触れ合いに飢えてるのかも」


「え? それって♪ きゃっ♪」


「おい。無いぞそんなもん。なんだ男心って」


 あと誰だ。今黄色い悲鳴あげたやつ。



「話を戻しましょう。騎士団長さんはそう長くいられないでしょうし」


「纏まってから呼ぶべきだったかもしれんな」


「今で正解だよ。いいからさっさと続けてくれ」


 止めはせんのだな。なんだかんだ言いながら。



「大筋の流れとしては、先ず第三王子派閥を潰しましょう。それからマカレナちゃんとやらを第一王子派閥に引き抜きましょう。今度は手放さないであげてね♪ ニア姉さん♪」


 何故かリタが仕切りだした。この国とは関係ないのに。



「ええ。覚悟を決めたわ」


 決めちゃったかぁ。ついでに司会役も取り返してくれないかしら? リタが進めると過激な内容になりかねないんだけど……。


 というかこれ、隣国の政治家の娘の主導で自国の勢力の一角を引きずり下ろすのって何らかの罪に引っかからない? 大丈夫? バレなきゃ? 勝てば? そういう問題?


 なんだかなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ