05-66.試練
「これか?」
洞穴の最奥に収められていた神器は手鏡のような円盤だった。表面の質感はガラスっぽい。けれど映っているのはどこか別の景色だ。あれは植物か? 緑がいっぱいだ。そして当然私達の姿も映されてはいない。まさか転移門なのか? にしては小さすぎる。そもそも穴は開いていない。とすると映像装置なのか? これはどこを映しているのだ?
「エリクはこれが何かわかる?」
「なんとも言えんなぁ……」
一応映像装置について説明してみた。
「この光景にどんな意味があるのかしら。まさか森の中から同じ場所を探せって事?」
なるほど。そういう解釈も出来るのか。パティは頭の回転が早いな。
「シルヴィはどう?」
パティから神器を受け取ったシルヴィはくるくると回しながら確認していった。
「えい」
「「!?」」
そして何を思ったのか、突然シルヴィは鏡面に手を突っ込んだ。シルヴィの手は確かにあった筈の表面部分を貫いて、鏡の中へと飲み込まれてしまった。
「う~ん? あっ♪」
何かを見つけたようだ。鏡から腕を引っこ抜いて、その何かを引っ張り出していく。
「「!?!?!?」」
シルヴィの手が握りしめていたのはまた別の小さな手だ。シルヴィが躊躇無く引っ張り続けると、明らかに神器の縁より大きな人物が飛び出してきた。しかも二人。
「「わっ♪ びっくり♪」」
キスカとファスタだ!
「久しぶり♪」
「「シルだぁ!!」」
シルビアと手を取り合って三人で輪になり、その場でくるくると回りだした。仲良し。
「入口ってこれの事だったのね。……まんまじゃない?」
だよね。……何故村の者達は気付かんのだ?
『認識阻害の一種です。普通の人間には鏡にしか見えないようになっています』
なるへそ。
「それにしても場所じゃなくて神器が入口だなんてね」
「つまり女神様の差し金だったわけだ」
『それだけとも言い切れませんよ』
『ママが作ったの入口だけっぽ♪』
そっか。この神器が繋いだ先の空間は元々存在したものなのか。ならこの地が特別な可能性もまだ残っているのかも?
「試練はこれで終わりかしら?」
そうっぽい。素質が無ければ鏡を見つけて終わりだったわけだ。洞穴自体に他の仕掛けがあるようにも見えないし。
「「ごしょうた~い♪」」
まだ終わりじゃなかったらしい。双子が鏡を掲げると強い光を放ち始めた。眩しさに思わず瞑ってしまったまぶたを開くと、周囲の光景は先程までの洞穴とはまったくの別物となっていた。と言うかあの手鏡の中に映っていた光景だ。
「でっかい……」
我々の遥か前方には巨大な大樹が聳え立っていた。大きすぎて距離感がバグりそうだ。世界樹というやつだろうか。まるで大地そのものを支えているかのようだ。城とかそんなレベルじゃない。天まで届いている。あれ? 天井? ここはどこなのだ? 地下なのか? その割には明るいけど……。空はモヤでもかかっているかのようでハッキリとしない。少なくとも青空ではないようだ。
『まさか本当に……』
『うずうず♪』
登りたいの?
「ちょっち行ってくる!」
フーちゃんは止める間もなく飛んでいってしまった。
「「あっ!」」
大樹に向かって一直線に飛んでいくフーちゃんを見た双子が慌てた声を上げた。
「ぎゃっ!?」
撃ち返された!? 何今の!? 人!?
「フーちゃん!!」
慌てて飛び出したルベドが空中でフーちゃんを受け止めた。そのまま油断無く前方に視線を向けながら私達の側に降りてきた。
「「めっ!」」
「ごめんちゃい……」
双子に叱られたフーちゃんはすごすごと引き下がり、私の中へと戻ってきた。
『ぐすん』
よしよし。
「「ガーちゃん!」」
ズシズシと音を立てながら人型の何かが近づいてきた。木で出来た巨人だ。ウッドゴーレム? あれがフーちゃんを叩き落としたのか?
「「きて!」」
ウッドゴーレム(仮)は双子を抱えあげるとそのまま何処かへと歩き出した。どうやら案内してくれるようだ。
「行ってみよう♪」
シルビアが楽しげに後へと続く。
「ギンカ、パティ。決して私から離れないように」
ルベドが私達を庇うように少し前を歩く。私とパティもその後に続いて歩き出した。
「なんだか懐かしい気がする」
「シルヴィは来たことあるの?」
「ううん。無い筈なんだけど」
本人すらも半信半疑らしい。
「きたこと!」
「あるよ!」
「だそうよ?」
「そっかぁ~」
軽いなぁ~。
「けど不思議じゃないよね♪」
「そうか。忘れさせられたのか」
キスカとファスタのあの不思議な力が原因なのだな。
「ねえ、あれ」
前方に一軒の小屋が見えてきた。どうやらあそこを目指しているらしい。キスカとファスタの家だろうか。それとも他にも誰かが住んでいるのだろうか。




