05-65.ふわふわ
「おはよう、エリク」
「おはよう、パティ。すまんな。先に眠ってしまって」
「ううん。今朝ついた所だから」
「そうか。ご苦労だったな」
「ふふ♪ 久しぶりにあんな距離飛んだわね♪ セリナったら人使いが荒いんだから♪」
転移を見せるわけにもいかんし往復で運んだのだろう。加えて一晩掛かった所を見るにお祖母様にも相当引き止められた筈だ。本当にご苦労さまだな。ふふ♪
「挨拶は無事に終わったのかしら?」
「ああ、それがだな……」
結局まともに話せておらんのだよな。やたらと萎縮しちゃって。
「なによ。らしくないわね」
「すまん……」
「いえ、エリクの方じゃなくて」
「シルヴィか?」
「そうよ。あの子は緊張しいだけど、決してコミュ力が低いわけじゃないわ」
それはそう。普段のシルヴィならここまで拗れる前になんとかしてくれた筈だ。
「シルヴィとは会ったか?」
「ええ。私をここまで案内してから村長さんの家に向かったわ。呼び出されたそうよ」
こんな朝早くに? 私を置いて?
「昨日は何があったの? 随分と散らかっていたけど」
「宴会を開いてくれたのだ」
「結婚式?」
「……かもしれん」
「なによそれ。別に怒らないからハッキリしなさいよ」
「私にもよくわからんのだ」
「どういう事?」
パティに昨日あった出来事を一通り話してみた。
「聞いてみたらいいじゃない。シルヴィに答える気が無いんなら村長さんに確認してみましょう」
「う、うむ。そうだな」
「なに気後れしてるの? エリクもらしくないわね」
「不思議な事がありすぎてな」
「エリクの方がよっぽどよ?」
それはそう。
「一つ一つ謎を解き明かしていきましょう」
パティはそう言ってコンパスを取り出した。
「反応があるわ。近くに神器があるのは間違いないわね」
先にそちらを確認していくのか。まだシルヴィの方の話が終わっておらんかもしれんしな。
パティと二人でご両親に挨拶し、コンパスの導きに従って歩き出した。どうやら森の中を指し示しているようだ。もしかして昨日私が倒れていた辺りだろうか。
「この近くだわ」
「あの洞穴だな」
如何にもなやつがある。
「入って良いのかしら?」
「マズいかもしらんな」
明らかに人の手が入っている。先に村長さんにでも許可を貰うべきかもしれん。
「心配要らないよ。入ってみて」
「「!?」」
突然背後からかけられた声に驚いて振り向くと、何時の間にかシルヴィが私達の真後ろに立っていた。
「驚いたわ。いったいどうやったの?」
「何が?」
「気配だ。全く気付かなかったぞ」
「そうなの? 普通に近づいて話しかけただけだよ?」
そんなバカな。私とパティが二人とも気付かんなんぞある筈がない。こんな森の中なら尚の事だ。普通に歩いたって枝や葉を踏む音が聞こえてくるのだ。如何にシルビアにとって慣れ親しんだ土地とはいえ、いくらなんでも不自然だ。
「どうしたの? 行かないの?」
「「……」」
パティと視線を交わし、意を決して歩き始めた
「この先は私も入った事ないんだ」
「村長殿は許可をくれる為に呼び出したのか?」
「そうだよ。これは試練なんだって」
「私は一緒でもいいの?」
「良いんじゃない? パトも私と先生の伴侶なんだし♪」
シルビアはスキップするような足取りで洞穴の中を進んでいく。多少手は入っているものの、それでも歩きやすい地面とは言い難い。だと言うのに彼女の足取りには一切の危なげがない。初めて入ったという話だったが、まるで慣れ親しんだ道を行くかのようだ。
「~♪」
「楽しそうね」
「えへへ♪ そう見える?」
「シルヴィはこの先に何があるのか知っているの?」
「ううん。本当に何も知らないんだよ。けど予感がするの」
「予感? 良い予感?」
「そう♪ きっと本当の私はここから始まるの♪」
「それはどういう意味?」
「見てて♪ 最後まで目を離さずに♪」
「答えになっていないわ」
実は昨日からそんな調子なのだ。妙に浮かれておってな。
『ふわふわ~♪』
あら。おかえり、フーちゃん。……なんで今?
『もんくあっか~♪』
無いけどさ。戻ってこないからそのままパティの方に居着くのかと思って。
『むぅ~』
ありゃ? 気に触った?
『むぅ~ふふ~♪』
満更でもなさそう。パティとどんな話をしたのだろう。
『ふっふっふ♪』
ナイショっぽい。今回そんなんばっかだなぁ。




