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01-35.お伽噺の治療方法

「バカはいないのでは無かったのか?」


 何度目かのナンパを適当にあしらって追い返すパティ。

やけに手慣れている様子だ。私を盾に怯えて縮こまるユーシャとは大違いだ。



「あはは~♪

 おかしいわね。

 普段はこんな事無いのに……やっぱ胸か?」


「顔ではないか?」


 ユーシャ程の美少女はそうそうおらんからな。


 いや。その程度ではないな。

むしろ世界中探したって見つかるまい。

あの女神を名乗る不審者ですら、ユーシャには劣……あれ?

ユーシャの顔、あれとちょっと似てないか?気のせいか?


 むむむ。きっとうろ覚えなせいだな。

あの不審者と会ったのは、もはや数百年も前の事だ。

そんなに前ではいくら記憶力の良い私でも、数分話しただけの相手の顔なんぞ覚えていられるはずもない。忘れまいと誓ったはずなのだがな。こればかりは仕方あるまい。そもそも積極的に思い出したいわけでもないのだ。


 きっと抜けた記憶をよく知るユーシャの顔で埋めてしまったのだろう。そうに違いない。まったく。ユーシャに失礼な事を考えてしまった。こんな事さっさと忘れてしまおう。うむ。



「顔なら私も自信あるわよ?」


「まあ言うだけの事はあるな。

 だがパティは常に帽子を被っているだろう」


 それも随分とつば広の。



「ねえ、エリク。

 エリクってやっぱり私の事好きよね?」


「ユーシャの友とは認めておるとも」


「顔採用なの?」


「いいや。もちろんそんな事は無いが」


「なら顔の好みはエリク個人の話よね?

 ユーシャの友達かどうかは関係ないよね?

 なんで今誤魔化したの?」


「面倒くさいな。お主」


「どっちがよ。

 面倒くさいのはエリクの方じゃない。

 素直に愛してるくらい言えないの?」


「いったい何を勘違いしておるのだ?」


「もう!エリクのバカ!」


 何なのだ……。



「ユーシャも苦労してるわね」


「そんな事より早く行こうよ……」


 ユーシャは周囲の視線に怯えて縮こまっている。

やはり外套を持ってくるべきだった。別に町を歩く間までメイドの格好を見せつける必要も無かったであろうに。どうせ、図書館の入館時に話を通しやすくするのが目的なのだろうし。



「その帽子をユーシャに貸してやってはくれまいか?」


「ダメ。これは私の拘りなの。

 例えユーシャの為だからって、貸してあげられないわ」


 たまに室内ですら被っているくらいだものな。

それはなんとなくわかる。


 だがしかし。


「なんだパティ。

 お主のユーシャへの愛はその程度だったのか。

 これは色々考え直す必要がありそうだな」


「意地悪エリク。

 そんな言い方はズルいわ。

 でもダメ。ユーシャはもう少し頑張るべきよ」


「まあ、それもそうだな。

 ユーシャ。私を掲げて持つのはやめよ。

 かえって目立ってしまうぞ」


「だってぇ~」


 むしろ何故この状態で話しかけられてしまうのだろうか。

普通は敬遠されそうなものだと思うのだが。やはり顔ではなく胸だったのか?


 まあいい。好きにさせよう。

どうせもうすぐ目的地だ。




「どうも~♪」


 パティは図書館に入るなり、軽いノリで司書の一人に話しかけた。



「あら、殿下。

 一週間ぶりね。

 珍しく空いたじゃない」


 殿下?

ああ、パティの事か。

そういえば姫だったな。こやつ。

護衛も付けずに町中歩いて来たけど。

殿下などという呼び方は違和感しか無いな……。


 それに、この司書とも友達なのか。

呼び方の割には軽い口調だ。



「ちょっちね~。

 この子、私のパートナーよ。

 今後は顔パスでお願いね♪」


「ええ。承知したわ」


 軽っ!?



「こちらの方が?」


「そっ。やっぱ叔父様から話しきてたんだ」


 叔父様?



「ええ。内密にね」


「エリク、この人はソニア。

 ここの司書長で、私の友達。

 ソニア、この子達はエリクとユーシャ。

 私とは将来を誓いあった仲よ♪」


 誓っとらん。



「なんだ?

 人形のフリはいいのか?」


「はい。お話は伺っております。

 ですが、職員全員が把握しているわけではございません。

 ご不便をおかけするかもしれません」


「よい。私も広く知られる事は本意ではない。

 極力人形のフリに徹する事にしよう」


「感謝致します」


「こちらこそ。お気遣い感謝する」


 ああでも、幼児の方がよかったか?

私のサイズだと、人形のフリも結構な違和感があるのだ。


 ただ幼児のフリをしてしまうと、領主様の隠し子疑惑が浮上しかねない。今はユーシャがメイド服だからな。あらぬ疑いがかからぬよう、配慮しておくべきだろう。まあ、人形を掲げるメイド少女も意味わからんけど。ユーシャにはもっと胸を張ってもらわねばなるまいな。



「さて♪

 挨拶も済んだし、早速行ってみましょう♪」


 パティは司書長の案内も待たずに勝手に歩き出した。

どうやら目的の本の置き場所に見当がついているようだ。

ソニアもそれをわかっているのか、付いてくる事なく見送った。



「先ずはおとぎ話だったわね」


「医療の棚に聖女に関する書籍が一冊あった。

 あれを検めておくのも良いのではないか?」


 視点が変われば、得られる情報も変わるやもしれぬ。



「必要ないわ。

 医療と魔術に関しては全て読み終わってるもの。

 あの本には技術的な考証の話しか乗っていないわ。

 聖女の軌跡について知りたいなら歴史のジャンルよ」


 本当に詳しいな。

しかも読了しているとは。

私達も関係のありそうな本は目を通していったが、到底全てを読み切れる量ではなかった。パティはいったいどれだけここに通ってきたのだろう。とっくにわかってはいたが、やはりディアナに対する想いは本物のようだ。



「歴史なのか?

 聖女は実在の人物として語り継がれているのか?」


「ええ。言っちゃあなんだけど、別に珍しくもないのよ。

 特別に大きな力を持った偉人の活躍なんて話はね」


「そちらにヒントは乗っていないのか?」


「活躍した場所くらいは乗っているわ。旅の案内は任せて。

 そこは全部私の頭に入ってるから心配しなくて良いわ。

 今回欲しいのは、私も知らない偉人の情報よ。歴史書では見つけられないだろうから、お伽噺を見てみましょう」


「参考までに、他にはどのような偉人がおったのだ?」


「何でもありよ。

 勇者、ドラゴンスレイヤー、発明家、探検家、建築家に音楽家、料理人。あらゆる職業に一人くらいはいるんじゃないかしら?」


 勇者?

もしや魔王もおるのか?



「その全てに例の物が関わっているのか?」


「いいえ。そんなわけないじゃない。

 別に人間は、女神におんぶに抱っこで繁栄してきたわけではないもの」


「ならばどのようにして当たりを見つけ出す?」


「見つけられていないから探し続けているのよ」


 そりゃそうか。



「それに神器が必ずしも偉人と関係があるとも限らないの。

 どこかの小さな村で祀られた宝物がそうだったり、日の目を見る前に怪しげな地下組織が回収してしまったり、単にそれと気付かれずに使われていたりね」


 ありそうな話だな。



「旅に出たらその辺りの情報も集めながらになるわね。

 不思議な出来事というのは人の目を引くものよ。

 誰かが目撃すれば必ず噂は流れるわ。

 こういう時は本を読んでいるよりもそれらの情報を集めた方が手っ取り早いのよ」


「もしやお主、元からそのつもりだったのか?」


「ええ。

 旅立ちは始めから提案するつもりだったわ。

 これでもお姫様だからね。一人では許可が降りないのよ」


「だからといって、私達では頼りになるまい?」


「そうでもないでしょ?

 少なくとも、旅の経験は私より豊富でしょ?」


「まあ、そうだな。

 こんなでも、十年近く流離っておるからな」


 ユーシャよ。

図書館内くらい、ビクビクせずに歩けんのか……。



「十年って……その間二人きりで?」


「一人だ。私が体を得たのはつい最近だからな」


「一人じゃない。エリク一緒」


 拘るな。そういう意味ではない。



「ユーシャってまだ成人していないのよね?」


「最初に出会ったのはこの子が五つの頃だ」


 だからまあ、厳密には十年経っていないのだ。

この世界の成人年齢は十五だからな。



「次の誕生日は盛大にお祝いしましょう♪」


 まだ少し先だがな。

それまでパティとも仲良くやっていられると良いのだが。



「それまでに婚約指輪も作らないとだわ!」


「許さんぞ」


「やっぱりエリクは意地悪だわ」


「何を言う。

 私は娘の事を想っているだけだ。

 意地悪な要素などどこにも無かろう」


「娘ねぇ。

 本当にそれだけかしら?」


「話はしまいだ。

 図書館であまり騒ぐものではない」


 別にこっちの世界はそこまで口うるさくもないだろうが。

そもそも、利用者が殆どおらんのだし。



「逃げた」


「逃げたわね」


 うるさい。




 それから目的の書棚に辿り着いた私達は、手分けして書物に目を通していった。


 まずはふるい分けだ。

治癒やそれに類する奇跡関連の話を集めていく。



「これはどう?」


 ここ数日、読み書きの復習をさせられていたユーシャ。

お陰で一人でも本が読めるようになっていた。

この一週間の成長が著しくて、お母さん涙出そう。



「うむ。貸してみろ」


 ユーシャから受け取った本をパラパラと捲り、簡単に目を通していく。



「なるほど。湯治か。

 うむ。悪くない。

 これも詳しく調べてみよう」


 少々お伽噺としては弱い気もするがな。

だが、かえって現実味が増すというものだ。

これなら実在する可能性もある。


 しかも、女神の落とし物とやらが関わっているなら、奇跡レベルで高い効果を発揮する可能性が存在するのだ。場所がわかれば見に行ってみる価値も十分あるだろう。



「やった♪」


 可愛い。



「これは、パパ?」


「誰がパパだ。

 パティは自分で判断できよう」


「私もママに褒めてほしいなって」


「ママでもない。

 まったく。ほれ、見せてみろ」


「どうぞ♪」


 ふむふむ。ゴーレム……か?

いやこれ、ホムンクルスとかそっち系では?

なんだこれ。どういう話なんだ?

普通に気になるぞ。今は全部読んでる場合ではないが。


 と言うか、待て。



「おい。人体錬成はいかんぞ」


「なにそれ?人体れんせー?」


「お主はこれを参考にしてディアナをどうするつもりだ?

 健康な肉体を産み出して魂を移し替えるのか?」


「何か問題あるの?」


 むむむ。

倫理観とかどうなって……いや、知らないだけか。



「ダメだ。その手の技術には致命的な問題があるものだ。

 例えば成長が止まってしまったり、最悪寿命すら無い存在に成り果ててしまうかもしれぬ」


「良い事じゃない♪」


「そうでもないとも。

 それはもう人ではないのだ。

 体の変化は心にも影響を及ぼすものだ。

 人ではない孤独な存在として永遠に生き続けるなど、地獄そのものなのだ」


「何か実感籠もってる?」


「ああ。私はまさにそういう存在だ。

 人でなしの化け物だ。ディアナをこちら側に引きずり込む事など出来るはずがない」


「それは説得力が無いわ、エリク。

 あなたは化け物なんかじゃない。

 どこからどう見ても、優しい人じゃない。

 まあ、少しばかり意地悪ではあるんだけど。

 いえ、少しではなかったわね。とっても意地悪ね」


 なんだそれは。まったく。



「逆のパターンも在り得るぞ。

 造り物の体は酷く短命な場合もある。

 維持に特殊で高価な素材が必要であったり、幾度も魂の移し替えを繰り返した結果、魂に修復不可能な傷を負ってしまったりと、副次的な弊害が発生する場合もあるのだ。

 そして何より、その手の技術を会得するには長い時を要するものだ。到底ディアナの治療としては間に合うまい」


 その手の技術を研究した者は、結局自らにその処置を施して次は死者蘇生に手を出そうとするのだろう。そうしてまた長き時を費やした結果、当初の目的も忘れ去って悪霊と化すのだ。そんな物語を何度か目にしたことがある。



「やけに詳しいのね。

 それは自分がそういう存在だから?」


「だけでは無いがな。

 まあいい。この本も後でもう少し目を通そう。

 場合によっては、何かしらの高度な技術も見つかるかもしれん」


「一部を流用する事はできるわけね」


「そういう事だ。

 よく見つけてくれた。

 この調子で続きも頼むぞ、パティ」


「……」


「パティ?」


「え!あ!うん!

 えへへ♪頑張るわ♪」


 なんだ?

何を慌てておるのだ?



「エリクのバカ。スケコマシ」


 なんでぇ……。

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