05-62.帰郷
「シルヴィが! シルヴィが帰ってきたぞ!」
とある村人のそんな大声でまたたく間に村中の人達が集まってきた。
「シルヴィ!」
お母様と思しきシルビアとよく似た女性が真っ先にシルビアを抱きしめた。
「おかえりなさい!」
「ただいま。お母さん」
シルビアは少し躊躇してから女性を抱きしめ返し、静かに涙を流し始めた。
「はは♪ 二人とも泣くことなかろ♪」
とか言いつつ貰い泣き笑いしている村人達。諸々落ち着くまでには暫く時間を要した。
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「遠路遥々ようこそお越しくださいました」
シルビアの生家へ案内された私はまるでお貴族様のように丁重に饗されてしまった。一応いつもの黒ゴスからは着替えて落ち着いた服にしておいたのだけど、それだけでは足りなかったのかもしれない。
『考えすぎでは? どのみち目的を考えればある程度の正装は必要なのですから』
そうなんだけどさ。
「どうぞお気遣いなさらず。私は」
「エリク先生は王様なの!」
なっ!? 何故だシルヴィ!?
「「!?」」」
ご両親固まっちゃったじゃん! どうすんのこの空気!?
「それからそれからね! 私の先生で! 私の恋人なの!」
ああ。これは……。
『緊張が振り切れて暴走しているようですね』
シルビアはあがり症だからなぁ……。
『五年ぶりなのに加えてギンカとの関係を報告しなければと意気込んでいたせいでしょう』
これはケアを怠った私のせいだな……。
『後悔するより口を開くべきでは?』
そうだな。ここで黙っているわけにはいかぬよな。
「お父様、お母様。改めまして、私はエリク。妖精王エリクと申します。娘さんとは結婚を前提にお付き合いさせて頂いております。お二人にもどうかお認め頂きたく。本日はご挨拶に伺わせて頂きました」
「「……」」
ありゃ?
「お父さん!?」
バタンと後ろに向かって倒れてしまった。どうやら気を失ってしまったらしい。
「申し訳ございません!!」
お母様は慌てて頭を下げ始めた。
「い、いえ、それよりお父様の介抱を」
「はい! 陛下!」
なんか変な誤解が生まれているようだ……。
「シルヴィ。私は少し外すとしよう」
「ごめん……私のせいだよね……」
「いいや。誰のせいでもないさ。落ち着いたら呼びに来ておくれ」
「うん。ありがとう」
シルビアにその場を任せて一人家を出た。
「「?」」
と思ったら小さな少年少女が立っていた。もしかしてシルビアの? けどその割には歳が……。近所の子?
「こんにちは」
「「こんちは!」」
ふふ♪ 可愛い♪
「おねーちゃんだぁれ?」
少女の方が問いかけてきた。
「私はエリクだ。君達の名も教えておくれ」
「キスカ!」
「ファスタ!」
キスカちゃんとファスタ君か。
『いえ、どちらも少女ですね』
あらそうなの? 顔が同じだから意図的に髪型と服装を分けているのかしら?
『そもそもこの子達、人間ではありませんね』
え? なんて?
『シルビアの妹でもないでしょう』
まあ、五歳は越えてそうな見た目だからシルビアが知らないのもおかしな話しか。義理の妹達って可能性はあるけど。
「君達はこの村の子かな?」
「「?」」
そこで首を傾げるの?
「「きて!」」
少女達は私の手を掴んで駆け出した。不思議なことに周囲の村人達がこちらを気にする様子が無い。挨拶をしてくるでも、目を逸らすわけでもない。まるで私達に気付いていないかのようだ。
『なんでしょう、この子達。人でないのは確かなのですが』
ルベドも知らないの?
『私が引き籠もっている間に生まれた種族でしょうか』
神器でもない?
『ええ。間違いなく生物ではあります』
見た目の特徴は人間そのものだよね。耳も尖ってないし。
『妖精族ではありませんね。もっと別の何かです』
ハーフとかってわけでもないのか。
『そもそも人間の要素を持っていません』
どういうこっちゃ? 擬態なの?
『可能性はあります』
実は魔物とか?
『かもしれません。だとしても私の知らない種族ですが』
少なくとも害意は感じないよね。
『ありませんね。無邪気なものです』
ならまあ、取り敢えずは付き合ってみようか。気になるし。




