05-60.お願い
「待たせたわね!」
食事を終えてから程なくして、デリアさんと入れ替わりにセリナちゃんが現れた。
「早速で悪いんだけど一つ頼みがあるの!」
本当に早速だな。まさかそんなド直球で来るとは。
「竜をここに呼ぶ事は出来るかしら?」
「まさかお祖母様の下へ送り届けろなんて言わないでしょうね?」
「そのまさかよ! 流石は私のパティね♪」
私のだ。
「悪いけどその頼みは聞けないわ。あの子を戦争利用なんてさせるつもりはないの」
「心配要らないわ! 既に戦争は終わっているもの!」
「それでもダメよ。万が一攻撃されたらどうするのよ」
「それも心配なんて要らないでしょ! 王国の精鋭が束になっても敵わなかったなんて話も聞いているわよ!」
懐かしい。
「陛下に怒られてしまうわ」
「お母様が上手く伝えるわ!」
お母様って事はやっぱりセリナちゃんもお祖母様、バルデム辺境伯の娘なのだな。勿論養子なんだろうけど。あれ? そう言えばお祖父様はおらんのか? まだ見ておらんが。パティからも聞いたことが無い。
「お祖母様の命と言うわけでもないのでしょう?」
「私の言葉はお祖母様の言葉よ! 今この場ではね!」
「代行はデリア叔母様じゃない」
「そのデリアが許可した事よ! 当然でしょ!」
役割分担でもしているのだろうか。
「目的は?」
「威圧よ!」
わかりやすい。
「ちょろっと行って帰ってくるだけよ!」
「ダメ。あの子は竜王の娘よ。下手なことをすれば数百の竜が報復に来るわ」
「その話は本当なの?」
「ええ。実際に会ってきたもの」
「そう。残念ね。そういう話なら仕方ないわね」
あら。あっさり納得してくれたようだ。
「パティ。お母様にも挨拶していきなさい」
「会えるの?」
「私が間に入るわ。パティなら私を抱えて飛んで行くくらいわけないでしょ?」
「そこまでしなくてもまたすぐ来るわよ?」
「このまま帰したら私が叱られるわ」
お祖母様はそんなに楽しみにされていたのか。相変わらずパティは人気者だな。
「なら少しだけね。エリクとシルビアは先にエルナス村に行っててくれるかしら?」
「良いの?」
「ええ。私も後から追いかけるわ」
「わかった」
ルベド、パティを頼めない?
『……しかた』
『フーちゃんが行く!』
ならお願い。
『むぅ……』
ルベドもありがとう。ルベドは私についていておくれ。
『はい』
早速パティとセリナちゃんは窓から飛び出していった。
「何受け取ってたの?」
シルビアが私の手元を覗き込んだ。セリナちゃんが出る直前に握らせてきたものだ。
「地図か? もしや酒屋か?」
まさか気付いていたのか? 昨夜の私の様子から?
『未練がましい視線を送っていましたから』
まじか。全然自覚してなかった。
「寄ってみよっか」
「そうだな。手土産にも丁度良かろう」
デリアさんとサマンタさんに別れを告げて、シルビアと二人で領主邸を後にした。折角だからこのまま少し領都を見て回るとしよう。たまにはシルビアとのデートも悪くない。
「ふふ♪」
手を繋いだシルビアはニヤけっぱなしだ。二人でのデートもした事が無いわけでもないが、シルビアと二人きりなのは結構珍しいかもしれない。頻度はそう多くない筈だ。
「もうすぐお祭りかな?」
「そうだな。凱旋の準備かもしれん」
そこかしこが慌だたし気だ。そして道行く誰もが楽しそうだ。もう少し滞在していれば参加出来たのかもしれんな。
「今度こっそり来てみるか?」
「……二人で?」
「うむ。皆には内緒だぞ」
「やった♪」
ふふ♪
「エルナス村とはどんな場所なのだ?」
少しエルミラとも似ているな。名前だけだろうけど。
「普通だよ。普通の小さな村」
「普通か」
「うん。普通。……ふふ♪」
思い出し笑い?
「楽しみだな」
「うん」
「四年ぶりだったか」
「五年近いかな」
「兄弟姉妹が増えているかもしれんな」
「キャロちゃんみたいに?」
「またシュテルに目をつけれるかもしれん」
「ふふ♪ 妹だったら連れ出しちゃおっか♪」
「やめておけ。冗談で済まなくなるぞ」
「先生が責任取ってくれるんでしょ?」
「シルヴィについてはな」
「今更一人増えるくらいなら」
「増やさんぞ」
「けち♪」
「寂しくなったのか? アカネがいるだろ?」
「ディアナに取られちゃったじゃん」
「それもそうか……」
「冗談だよ? 真剣に悩まないで?」
「そうか? 強がってはおらんか?」
「ふふ♪ もう♪ 心配性だなぁ♪ 大丈夫♪ 普段はユーシャも一緒だから♪」
そうだったな。
「でも先生にはもっと構ってほしいな♪」
「善処しよう」
「うん♪」
こんな返事でも心底喜んでくれるんだもんなぁ。必ず期待に答えねばな。




