05-53.最後の問題
今日はロロと二人でヴァイス家にやってきた。お父上とシンディー殿から話を聞くつもりだ。
「その前に私から話しがあります」
どうやらエフィも参加するようだ。ルシアはお母上と共に居るらしい。足止めでもしているのだろうか。
「地下の宝物庫入口が荒らされていました。あれは父さん達がやったのですか?」
荒らされていた? トラップを解除しようとしたのか?
「「……」」
「何故そこで黙るのです? 何かやましい事でもあるのですか?」
いきなり正面から踏み込みおって。エフィは性急過ぎる。
「……以前賊が入ったのだ」
「賊? その者は今どこに?」
「州軍に引き渡した。それっきりだ」
州軍だと?
「それは嘘偽りありませんか?」
「父を疑うのか?」
「疑いたくもなりましょう。そんな態度を取られていては」
そうだな。何故隠し事なんぞする必要があるのだろうか。本当に賊が入っただけなら隠す理由は心配を掛けまいとする親心故だろう。なのに「心配要らん」の一言さえ無いのだ。まるで何か他に気がかりでもあってそれどころではないかのようだ。
「父さんこそ私達が信じられないのですか?」
「そうではない」
「なら話してください。問題があるなら共に解決致しましょう。私達は力になれる筈です。特に義姉さんは頼りになります。とは言えこれ以上手を煩わせるわけには参りません。義姉さん達には義姉さん達の生活があります。ですからここで話してください。そして全て終わりにしましょう。義姉さん達には憂いなく元の生活に戻って頂くと致しましょう」
「そう……だな……」
これでもまだ言い辛そうだ。とは言えこちらも引き下がるわけにもいかんのだ。キャロちゃんもルシアもエフィも、もう他人ではないのだからな。当然ご両親だってそうだ。出来る事なら良き関係を築いていきたいと願っている。
「そこまでよ。エフィちゃん。どうか二人を虐めないであげて」
タイミング良くお母上が現れた。後ろでルシアがごめんとジェスチャーしている。どうやら足止めに失敗したらしい。
「ごめんね、エフィちゃん。ロロちゃん。本当はもう少し隠しておくつもりだったのだけど。こうなったからには全部話させてもらうわね」
「待て! まだ方法は!」
「いいのよあなた。いずれは伝えなきゃいけなかった事なんですもの」
「しかし……」
「大丈夫。ここは私に任せて。あなたは」
「いや! 私から話す!」
「そう。ならお願いね」
お母上は穏やかな微笑みを浮かべて促した。お父上は呼吸を整えるようにしてから娘達に向き直った。
「すまない! 二人とも!」
お父上は大きく頭を下げた。
「私達はこの城を手放すつもりなのだ。私達だけでは維持しきれんのだ」
「それでお金が必要に?」
「違う。最早金だけの問題ではない」
「人手の問題ならばいずれ解決するのでは? 彼が約束してくださいましたよね?」
「いいや。戻らんのさ。すぐにはな」
「すぐに? この城は今にも崩れそうな程朽ちているわけではありませんよね?」
「そうなってからでは遅いのだ。手遅れになる前に託さねばこの城は完全に朽ちてしまう。それに私はもう限界なのだ。以前賊が押し入ったのは本当だ。辛くも退ける事は叶ったが危うく家族を失う所だった。宝物庫にあるのはガラクタや空の箱だけだと言うのにだ。そしてまたいつ同じ事が起こるとも限らん。我々は身の丈に合った生活を始めるべきなのだ」
「どうか誤解しないでね、ロロちゃん。エフィちゃん。お父さんはこう言っているけど、これは全部私が言い出した事なの。お父さんはずっと反対していたの。娘達との思い出が詰まったこの城を手放したくないと頑張ってくれていたの」
「余計な事を言うな。任せると言ったじゃないか」
「ふふ。ごめんなさい」
そうか……。そういう事だったのだな……。
「私とルシアが維持します」
「無茶を言うな。お前達は私達の事なぞ気にせず好きに生きろ。娘達に世話を掛けさせる程耄碌した覚えはない」
「私もこの家が好きなのです。その気持は姉さんにだって負けていないつもりです」
「……だから話したくなかったのだ。誰も私の話なんぞ聞きゃしない」
心中お察し致します。奥方も娘達も意志の強い者達ばかりだ。余計板挟みになるのは目に見えていた。
「誰か託す相手がいらっしゃるのですか?」
「……州知事しかおるまい」
「ですが彼は」
「現知事が失脚して次の者が決まるまでは持ち堪えてみせよう」
まあそれしかないよな。今の所は。
「……ハニィ」
うむ。そうだな。
「お義父様。一つご相談なのですが」
「……なんでしょうか」
「我々をこちらに住まわせては頂けませんか?」
「どうかお気遣いなく。これ以上ご迷惑をおかけするわけには参りません」
「いえ。これは気遣いなどではありません。勿論その気持が全く無いとまでは申しませんが」
「ですが……」
「これはお話するのもお恥ずかしいのですが、我々は少々国で騒ぎを起こしすぎてしまいまして。近所の目を気にする事なく暮らせる場所を欲していたのです」
「……それは」
厄介事を持ち込む気なのかと視線が言っている。言葉選びを間違えたかもしれない。
「それに我が家には巨大な竜がいるのです」
「りゅ、竜ですか?」
「今の庭ではその子が羽を広げると少々手狭でして」
「は、はぁ……」
「この城の庭ならば十分なスペースも」
「い、いえ。それは流石に困りますなぁ」
あらら。断られちゃった。
「勿論冗談です。ご迷惑はおかけしません」
「そ、そうですか。冗談……どこからだ?」
ロロに視線を向けて、助けを求めるように問いかけるお父上。
「冗談ナンカ言ッテマシタカ?」
空気読んで。




