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05-51.大役

「おっはよう♪ ギンちゃん♪」


「……おはよう。フーちゃん」


 もう日は沈んでいるがな。今日はもう一度ヴァイス家にお邪魔するつもりだったのだが。それから聖教国にも探りを入れる筈だったのだがな。早朝からずっと戦い続けていた上に、今度は本当に眠ってしまったフーちゃんから離れるわけにもいかず、結局こんな時間まで何も行動を起こせなかった。


 姉さん達は半日で済んだなら十分早いくらいだと言っていた。どうやらフーちゃんは燃費が良い方らしい。ニタス姉さんが全力で戦える状態なら抑える事も出来たようだが、あいにくニタス姉さんの方も目覚めたばかりで万全な状態ではなかったからな。


 まあ、被害もあの場所以上には広がらなかったし良しとしておこう。ユーシャを蔑ろにした村なんぞという気持ちも無いでもないが、だからって滅ぼしてしまうのはやり過ぎだからな。少し脅かしてしまっただろうが、それくらいならば構うまい。



「ちゃんと迎えに来てくれたね♪」


「うむ。無事に救い出せて何よりだ。封印が随分と緩いものであった事も幸いだった」


 女神様は助けに来る者がいるなら何時でもフーちゃんを解放するつもりだったのだろうな。そしてその役目を私やユーシャに期待していたのやも。


 ただルベドに対してだけ異様に厳しいのが不可解だ。フーちゃんの居場所に気付けないよう対策まで仕込まれていた。ルベドが救い出すのではダメだったのだろうか。フーちゃんの力を復讐に使うとでも考えて警戒したのだろうか。



「あれ? フーちゃんの可愛い妹達は?」


「ここにいるじゃないですか」


「わっ!? ルーちゃん!?」


「なんですかその反応。流石に傷付きますよ」


「なんで服着てないの!?」


「失敬な。着てるじゃないですか。このボロ切れを見てください。これはフーちゃんがやったんですよ」


「わっ!? わっ!? わっ!? もしかしてフーちゃんまた!?」


「そうです。盛大に暴れたのです。少しはスッキリ出来ましたか?」


「わかんないよ!? 覚えてないよ!?」


「まあ大丈夫そうですね。それからニタスはまだ眠っています。あの子はフーちゃんと違って燃費が悪いのです。ネルケとキトリは遠慮しているだけです。或いは怖がっているのかもしれません」


「そんなぁ!?」


 ルベドが楽しそう。慌てるフーちゃんを見て笑っている。これが本来のルベドなのだろうな。



「ユーシャは食事中だ。そろそろ顔を出す筈だ」


「食事!?」


 何故そこに食いつく。お腹減ってるの? 魔力は随分回復したようだけど、それとは別に食事も必要なのだろうか。姉さん達は基本食べないんだけど。フーちゃんだけは特別なのかも。



「今から食堂に行くか? 頼めば出してくれるぞ」


「うん! 行く!」


 じゃあ私も食べるとするか。



「ルベドはどうする?」


「私は結構です。ギンカの魔力は美味しいですから」


 え? 私の魔力? 食べてたの?



「少しずつ頂いています。迷惑でしたか?」


「ううん。どうせ無限に湧いてくし」


「なら遠慮なく」


 いくらでもどうぞ♪



「フーちゃんはご飯食べるからね! ほら! 行こう! 善は急げだよ!」


 フーちゃんはもっと遠慮して。暴走した事聞かされたのに秒で忘れないで。




----------------------




「けぷ」


 食べ過ぎだ。お腹パンパンじゃないか。



「しゃ~ぁせ~」


 蕩けていらっしゃる。今日はもう話は無理だな。明日から頑張ろう。そうしよう。



「フーちゃんはこの部屋を使っておくれ。ルベドも今晩はフーちゃんと一緒に過ごしてね」


「感謝します」


 こちらこそ。フーちゃんの事は任せたよ。



 私は今日こそユーシャ達と四人で寝るとしよう。ネル姉さんとキトリは何時の間にかニタス姉さんに添い寝してたし、朝までそっとしておいてあげよう♪



「ちょいちょい」


「なんだアニタ。晩酌か? 悪いが今日は」


「そう言わず付き合って」


 むぅ。そんな事したら朝までコースだろうに。



「勘違いしないで。大切な話があるの」


「大切な話?」


 珍しく真面目な様子だ。これは本当に何かあるのかもしれない。



「少しだけだぞ」


「あんまり冷たいと帰っちゃうぞ~」


「家出はニ、三日までにしておけ。それ以上掛かるようなら連れ戻すからな」


「ふふ♪ あからさまね♪」


 そんなでも喜んでるじゃないか。



 アニタの部屋に移動すると既にシルクも待っていた。



「本当に真面目な話のようだな」


「むぅ~! 疑ってたのぉ~?」


「日頃の行いのせいです。アニタ様」


「シルクまで虐める~!」


「それで話とはなんだ?」


「そんな意地悪ばっかしてたら教えてあげないんだぞぉ!」


「さっさと話を始めてください」


「しくしく。昔のシルクはあんなに可愛かったのにぃ」


 まだ茶番続くのかしら?



「ほら。機嫌を直せ。ちゃんと聞いてやるから。な?」


「むぅ~! エリク偉そう! ちょっと怖いお姉ちゃん出来たからって調子に乗っちゃってぇ~! アニタちゃんの方が凄いんだぞぉ~!」


 面倒くさいなぁ。



「わ! 今面倒くさいって顔した! ひっどいんだぁ~!」


 話しが進まんなぁ……。早くユーシャ達の待つベットに入りたいのに。



「それが話したい事か? アニタの方が実は姉さんズより強いのか?」


 以前はルベドに手も足も出なかったけど。



「たぶんそう。部分的にそう。条件が合えば」


 なんだそれは。本当にそんな話しなのか?



「けど神には勝てない。そんな塩梅。後は呪いも苦手」


 え? もしかして本当にアニタって凄いの?



「ちょっと~! 疑いの目向けないでくれるぅ~?」


 一々話を止めないでほしい。



「むむ。これはどこから話したものかしら。先ずはこの世界が置かれた状況かしら。エリクはそんな事もわかってなさそうだし」


 まるで自分はわかっているかのようだ。妖精種族自体引き籠もりみたいなものなのに。



「エリチー」


 私か? 私しかおらんか。



「なんだ? アーちゃん」


「それ採用♪ 次からそう呼んでね♪ 私も負けてられないもん♪」


 もしかして姉さんズに張り合ってる?



「そろそろ真面目に話しましょうか」


 良かった。ようやく進めてくれるようだ。



「エリクはこの世界って平和だと思う?」


「世界平和……だと……」


「ちょっと。どこに衝撃受けてるのよ? まさか私が口にしそうにない言葉だとでも?」


 うん。正直思った。



「この世界は危機に瀕しているのか?」


「いきなり核心突かないでよ。そういう問は最後にするもんでしょ」


 知らんがな。



「エリクも気になってるんでしょ? 神が何をやろうとしているのか、或いは何をしてきたのか」


 ……まさかそれこそが真の核心だとでも言うのか?



「神、とりわけ守護神って言うのは半ば装置みたいなものなのよ。自らの自由意志が無いとは言わないけど、その目的は世界の恒久的な運営なの」


 本当に真面目な話しが始まった。これは真剣に聞いておくべきだな。



「よしよし。ようやく興味を持ったわね」


「すまんな。話を続けておくれ」


「うん。それでね。要は神っていうのは世界が続きさえすればいいのよ。平和だろうとそうでなかろうと。そういう意味での世界の守護者なの」


 キトリも似たような事を言っていたな。



「転生者、或いは転移者って何の為に存在すると思う?」


「それは……」


「もちろん簡単に呼べるわけじゃないの。自らの守護する世界と関係の無い別の世界に手を出すならそれ相応の理由が必要なの。神にだって越権行為という概念はあるわけなのよ」


 ふむ。わからん話ではないな。



「世界の守護者が外界に助けを求めてまで解決しなければならない問題がある筈なの。エリクは神から聞いてない?」


「……聞いとらんな」


 エリクサーとしての生を全うしろとか、姉達を探し出せとか以外に指示された事は無い筈だ。



「かつて小さなシルクを連れ回していたメグルという転移者はある敵と戦ったの」


「その敵とは?」


「あの子は魔王なんて呼んでいたわね」


「魔王? 実在したのか?」


「ううん。より正確に呼称するなら"呪王"ってところかな」


 呪王じゅおう? のろいのおう?



「……まさか危機はまだ去っておらんのか?」


「そうだね。人は呪いに囚われたままだし、実は隠れているだけで世界中のあちらこちらに残滓は残ってる」


 残滓か。ならば本体は先代の転移者が討ち滅ぼしてくれたのだな。



「私はその呪いを解いていけば良いのか?」


「たぶんね。基本的にこの世界の存在にはどうにも出来ないものだから」


 なるほど。それで転生者が必要だったのか。



「待て。ならばシルヴィはどうなのだ? あの子も呪いにかかってはおらんぞ?」


 それになんだか特別な宿命があるような事を陛下が言っていた。



「さあ? そこまではわからないよ。案外あの子も転生者だったりしてね。前世の記憶を忘れちゃってるだけで」


 ……そんな事があり得るのか? いや、無いとする根拠もまた存在せんのだが。とは言え今代の転生者があくまで私であるなら、シルヴィまで用意した意味がわからんな。単に私一人の手には負えないと判断されたのだろうか。実際何百年も女神様の期待に応えられず、フーちゃんも見つけ出せないままだったのだし。



「何故これを秘密で話すのだ? 姉さん達とも一緒に話し合うべきではないのか?」


「別に怪しい理由じゃないよ。単に私が知りすぎているからさ。神に目をつけられても嫌だし」


「女神様は何時でも見ているぞ」


「今だけは別よ」


 欺けるのか? 女神様を?



「流石は妖精女王だな」


「ふふん♪ 伊達じゃないのさ♪」


「これは警鐘か?」


「うん。きっと姉妹を揃える事も女神の代理を務める事も、世界に残された呪いと何か関係があると思うの」


「話はわかった。感謝する」


「むぅ。そんな水臭い言い方しないでよ。私だってエリクの伴侶なんだから」


「そうだったな」


「あ! 認めた! やったね♪ 一番乗り♪」


 まったく。すぐ調子に乗りおって。

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