05-50.頂上決戦
「出てこんなぁ」
「本当に掘り起こさなくて良いの?」
「そうよ。早くしないと誰か来ちゃうわよ?」
「それにもう直学園の時間だわ。私はそろそろ帰らなきゃ」
う~む……。
『瓦礫の下でイジケてたりして』
『あり得るな』
『ですね。フーちゃ、フランですし』
『ですねじゃありませんよ!? なら早く助け出しましょうよ! それとこの期に及んで強がる必要あります!?』
まあまあ。
慌てた様子のネル姉さんを先頭に、姉さんズはフーちゃん救出の為に飛び出して行った。
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「……」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
……これもう目覚めてるんだよね?
『間違いなく』
『ただの狸寝入りだね』
『完全に拗ねてしまったな』
『どうしてこうなるまでほっといたんですか!?』
ネル姉さんも人のこと言えんだろ。色んな意味で。
『そうだよ。ネルちゃんだって一緒に眺めてたじゃん』
『しかも自分の時もイジケて隠れていたそうですね。フランとそっくりじゃないですか』
『ダメだぞルベド。そういう言い方は。姉妹とは仲良くするものだ』
私もだな。ごめん、ネル姉さん。
『ギンカは許します!』
姉さん。
『仕方ありませんね!』
まあいいか。よし、後はフーちゃんだけだな。
「取り敢えず帰りましょうか」
「「「そうだね」」」
イジケて寝たふりを続けるフーちゃんを抱き上げた。
「重っ!?」
『『あっ!』』
え? なに?
「ふっふっふっふっふ……」
フーちゃんが独りでに浮き上がっていく。怪しい笑いを漏らしながら。
『『やっちゃったぁ……』』
もしかしてこれ怒ってます?
『うむ。間違いなく』
『禁句なんです。その言葉は』
そういうの先に言っておいてほしい。
『今のはどう考えてもエリちゃんが悪いじゃん』
『咄嗟に漏れてしまったのもわかりますが、普通は思っても口に出しませんよね』
くっ。ネル姉さんすら味方してくれないなんて。
『情状酌量の余地無しです。他の三人は送り届けておきますね。そろそろディアナは本当に間に合わなくなりますし』
ああ、うむ。そうだな。頼む。
『ネルちゃんだけ上手く逃げたね』
『あの子たまに察しが良いですよね。普段はわからず屋なのに』
『言うまでもない事だがルベドには付き合ってもらうぞ。キトリも出来れば見ておくといい。これが頂上決戦だ』
え? 今からおっぱじまるの? フーちゃんは害意を持てないんじゃなかったの?
『ええ。それは間違いありません』
『フーちゃんビーストモードだ』
なんて?
『一時的に意識を手放して怒りに身を任せ、周囲一体を破壊し尽くすのだ。フーちゃんの怒りが収まるまで決して止まる事は無い。フーちゃんは完全に意識を手放しているので言葉で止まる事もない。まあ今回はそう長引かんだろう。エネルギー残量が心もとない筈だからな。使い切っても止まるさ』
えっと? 何その屁理屈?
『フーちゃんなりのストレス発散方です。とは言えフーちゃんが意図的に引き起こしているわけでもありません。限界を越えると自動的に発生する事象のようなものです』
あの禁句は一発でゲージがマックスになっちゃうの?
『そうです』
しかも言った人を攻撃するとかじゃなくて、手当たり次第に攻撃を始めるの?
『はい。その通りです。何かに対して害意を持っているわけではありません。ただ抑えきれない怒りを放出しているだけなのです。自然災害に害意が無いのと同じ事です』
何だそれは……。危険過ぎるだろ……。
『長生きの秘訣は溜め込まない事だ。ギンカも覚えておくがいい』
えぇ……。参考にするのはちょっと……。あとニタス姉さんは言う程稼働年数長くないよね?
『来ます!』
フーちゃんの周囲には何時の間にか無数の玉が浮かんでいた。地水火風光闇。色とりどりの玉が何の法則性もなく続々と生み出されては放たれていく。以前見たルベドの槍の雨とも段違いの数だ。あれらがもし一点に向かって放たれていたのなら、受けたものは瞬時に跡形もなく消し飛んでいただろう。
それでもルベドとニタス姉さんは力を合わせて全ての魔弾を打ち砕いていく。極力破壊の痕跡を残さぬようにと、必死に相殺を続けている。
私とキトリはそれをただ見ているだけだ。姉さん達の戦闘は遥か高み過ぎて手を出す隙が無い。私に出来るのは私の内に収まったまま戦う二人を邪魔しないよう委ねる事だけだ。
『三人とも凄いね』
『そうだな』
『なんかもうそれしか出てこないや』
『そうだな』
『私達も頑張ろうね』
『そうだな』
『エリちゃん? 大丈夫?』
『うむ……』
『心配しなくてもきっと許してくれるよ』
『そうだな……』
『なんか他の事気にしてるみたいだね』
『いや、な……』
『フーちゃんが可愛そう?』
『……そうだな』
『お母様はなんであんな風に作ったんだろうね。あんな方法でしか怒りをぶつけられないなんて欠陥だよね』
『……』
『気に触った?』
『……女神様の真意はわからんな』
『そうだね』




