05-49.思い出の地
「あの遺跡か?」
「うん。きっと間違いないよ」
何故かユーシャは確信している様子だ。何か思い当たる節があるようだ。
「私全然不安じゃなかったの」
「……そうだな。ユーシャはずっと気丈に振る舞っていた」
あの暗闇の中でも心折れること無く歩き続けていた。
「勿論エリクのお陰なのは間違いないよ」
「そうだな」
私達は二人で居たから乗り越えられたのだ。今更負い目がどうこうなんぞ言うまい。あれもまた良き思い出だ。何せ私達の出会いの思い出なのだからな。
「けど何か他にもあったのかも。お姉ちゃんが居たなら、ずっと見守ってくれていたと言うなら納得出来る気がするの」
……そう考えるとちょっと癪だな。私とユーシャだけの思い出に踏み込んで来るなんぞ、例え姉さんであっても許される事ではないのだ。
『ユーちゃんの事になるとなんでそんな重いの?』
『ダメですよ、キトリ。そっとしておいてあげましょう。それこそ踏み込むべきではありません』
『なんだ? いったいどういう事だ? ギンカは妹に懸想しておるのか?』
『後で説明します。今は流しておいてください。ニタス』
『そうか。ふむ……』
ちょっと頭の中が騒がしい。もうすぐここにフーちゃんも加わるの? なんならフーちゃんが一番騒がしそうだなぁ。
『そう都合良くいくかな?』
『主様が自らの手で施された封印とあらば一筋縄ではいかぬでしょう』
『母上がフーちゃんを?』
『間違いありません。フーちゃ、フラン自身がギンカにそう告げています。害意を持てぬあの子なりの精一杯の警告でしょう。用心してください。何が待っているかわかりません』
そんな感じはしなかったけどな。まあでもただでさえ古い遺跡だったからな。崩れたりする可能性もある。気を付けて探ってみるとしよう。
「そうと決まれば姉さん達と私達四人だけで行こうか。今日は学園もある。朝食までには一度戻って来るとしよう」
ソラに飛んでもらう必要はなさそうだ。最初から転移で乗り込んでしまおう。
ユーシャ、パティ、ディアナ、私、姉さんズであの懐かしい遺跡へと転移した。
「ここね。エリクとユーシャが出会ったのって」
改良した魔導杖の先端に明かりを灯したパティが周囲を照らし出してくれた。
「そうだな。うむ。こうして見ると懐かしいものだな」
随分長い事離れていたが、遺跡は変わらずそこに残っていた。崩落している様子も無い。後はフーちゃんを見つけるだけだ。
『これはエルメラの建造物だ。母上は建物ごと地面の下に押し込んだようだな。未だ朽ちておらんのはフーちゃんに施したという封印の影響だろう。なれば封印を解いた途端に崩落するぞ。元々地中に作られたものではないのだからな。土砂の重みに耐えられまい。先に地上も確認しておくのだ』
厄介な。けどありがとう、ニタス姉さん。
『……おかしいです。私はギンカの記憶からこの光景を見ていたのです。そして今もニタスに言われるまで気付く事が出来ませんでした』
『間違いなくお母様の仕業だね。ルベちゃんに対してだけ認識阻害を掛けていたんじゃないかな』
『主様が本当にそのような事を? 意味があるように思えないのですが』
意味ならあるさ。ルベドがフーちゃんの居場所に気付くのを遅らせたかったのだろう。情報源が私の記憶であった事は関係無い。ルベドはこの遺跡の存在自体を自力で知る事は出来なかったのだ。そして同時にこれは女神様の仕掛けである事の証左ともなる。ルベドに対してこうまであからさまな対策を施した以上、女神様の意図が含まれているのは明白だ。これは大きなヒントになるかもしれん。少しずつ女神様の行動が繋がり始めた。私をこの地に落としたのもフーちゃんと何か関係があるのだろう。このまま紐解いていけばいずれ女神様の真意に触れる事も出来るやもしれん。
「パティ。先に地上を見に行くぞ。あまりこの場にあるものには触れんでおくれ」
「え?」
え?
ゴトゴト、ズシン。と、何か重たい物が落ちる音がした。続けてバキッと何かが割れる音がした。
「おい。それはなんだ?」
「えっと……あはは~」
いや笑い事じゃなくて。
「「「「!?」」」」
ミシリミシリと周囲から圧力を感じる音がする。バキバキと何かが耐えきれずに折れる音がする。これはマズい。非常にマズい。どう考えてもアウトだ。まだフーちゃんを見つけてすらいないのに。と言うか封印は一筋縄では解けないんじゃなかったのか?
『考えてる場合じゃありません!』
「逃げるぞ!!」
咄嗟にルベドが開いてくれた転移門に飛び込んだ。場所は近場の地上のようだ。幸い周囲に人の気配はない。けれど地面が揺れている。少し先で崩落が起きている。またたく間に地面が陥没していき、屋敷一つ分くらいの範囲が地の底に飲まれていった。
「皆無事だな?」
「ええ。大丈夫。怪我は無いわ」
「私も」
「ごめんなさい……」
ディアナもユーシャもパティも無事で何よりだ。しかしフーちゃんが……。
『心配は要らん。フーちゃんはこの程度じゃびくともせん』
そうか。それは何よりだ。けどどうやって掘り起こそう。
『もう直に目覚めるさ。封印が解かれたからな。それにフーちゃんは私と違って燃費が良い。すぐに回復するだろう。余計な手出しをせずとも自力で脱出してくる筈だ』
『そうですね。フランは特別製ですから。頑丈さに至ってはユーシャにだって負けません』
それはそれでどうなの? 堅固ってユーシャの担当じゃなかった?
「エリク……」
「心配要らんそうだ。良かったなパティ」
「うん……」
ほんと不幸中の幸いだった。地上に町でも出来ていたら目も当てられない所だった。けれどそんな筈は無いよな。この近くの村はユーシャの故郷だ。つまりユーシャを地の底に捨てた者達が暮らす村だ。そんな村人達がこの地まで村を広げる筈が無い。とは言えすぐに誰かが様子を見に来るだろう。それまでにフーちゃんが出てきてくれると良いのだが。出来れば目撃される前に退散したい所だな。




