05-45.民主政治
「刺客達から取り上げた神器を出してくれるかしら?」
「うむ? これだ」
そんな物いったい何に使うのだ?
「これの効果を教えてくれる?」
「単なる魔力タンクだ。刺客達はいずれも手練の魔術師だったのでな。事を成すにはそれで十分だったのだろう」
「そう。ちなみになんだけど、これでニタス姉さんを目覚めさせる事って出来ないのかしら?」
「無理だな。容量がまるで足りておらん」
「エリクの力と合わせても?」
「難しいな。私の回復速度より消費量の方が多い筈だ」
少なくともルベドはそう言っていた。
「残念ね。二タス姉さんが目覚めれば話も随分と簡単になったでしょうけど」
「何を考えておるのだ?」
「いいえ何でもないわ。話を戻しましょう」
単に興味があっただけか? リタの考えている事は相変わらずよくわからんな。二タス姉さんが戻っても今の状況は大して変わらんと思うのだが。長い間聖櫃に収められていた以上は二タス姉さんの事を知る者もおらん筈なのだ。
「エリクは竜王国とも話を付けてくれたのよね」
「うむ。彼らが聖教国と手を組んで襲撃を仕掛けてくる事はありえん。竜王様もそう約束してくださった」
「これで一つ安心ね。数多の神器を持った騎士や魔術師達と竜の大群なんてとても相手に出来ないわ。私達だけが身を守れたって国を守り切るのは難しいもの」
そうだな。竜達がルベドへの畏怖すら超える何かによって突き動かされたなら先程のようにはいかんだろう。それにまっすぐカルモナドを襲撃してくるなら迎え撃ちようもあるが、共和国のように離れた地を襲撃されたとしても察する事自体が出来んのだ。世界中を守るのは到底無理な話だ。
「洗脳の効果を持った神器とかも存在するのかしら?」
『……一つあります。魔物達を従える事が出来る神器が』
「今それはどこに?」
『わかりません。ですがご安心を。あれは竜種に通用する程強力なものではない筈です』
「そう。でも一応念頭には置いておきましょう」
そうだな。何があるかわからんからな。
「他に脅威となり得る神器は思いつくかしら?」
『……いくつかは』
「その全てに対策を打てる?」
『……ええ。心配は無用です』
「そう。なら神器の話はここまでね」
やけにあっさり引くのだな。神器の危険性を訴える事は神器回収の理由としては大前提だと思うのだが。
「なら次に考えるべきはどうやって聖教国がカルモナドの神器を回収しようとするかよ。彼らはきっと諦めないものね。私達はその対策を考える必要がある。場合によっては彼らの心を折ってあげなければならないわね」
遂に仕掛けてきたな。
「エリクはその辺どう思う? 神器の回収は有効な一手だと思わない?」
「確かに諦める理由にはなるだろう。だが逆に追い詰めすぎてしまうやもしれん。聖教国は大国だ。あまり強引な事をしてしまえば周辺諸国への影響も計り知れんぞ」
「八つ当たりでもすると?」
「逆もありえる。神器という絶対的な優位を失った聖教国は攻め滅ぼされるやもしれん」
彼らが高圧的なのは決して竜王国に対してだけではないはずだ。普段から周辺諸国の恨みを買っている可能性もある。神の護りを失えばパワーバランスは大きく崩れるだろう。
「そうね。考えられる話だわ」
「我々こそが世界の破壊者となれば女神様も黙ってはおらんかもしれんぞ」
「そこまではどうかしらね。女神様は人間の社会になんて興味も無いんじゃないかしら?」
決してそんな事は無い筈だ。でなければ神器なんぞ配ってはいなかっただろう。女神様は間違いなく人間を気にかけている。ただ偶に理解出来ない事をなさるだけなのだ。
『主様が関心を持っていないなんて事はありません。なんなら依怙贔屓とかだって普通にしますよ。例の聖女やギンカみたいなお気に入りは特に』
「そう。なら尚の事危険ね。エリクの行動は何時でも見ているって事ですものね」
まあ見てはいるだろうけど。とは言え何でもかんでも手を貸してくれるわけでもないようだ。少なくとも今すぐ二タスを治してくれるつもりは無いらしい。
「神器は世界で唯一神に届き得る力でもあると思うの」
リタまで何を言い出すのだ。
「聖教国を大人しくさせるには本物の神にご降臨頂くのが手っ取り早いと思わない?」
「まさか誘い出そうと言うのか? その為に神器を利用すると?」
「ええ♪ 世界中からかき集めてしまいましょう♪ それでもし神が降りてこないって言うなら、エリクが成り代わってしまえばいいの♪」
「滅多なことを言うもんではない。女神様は私にとっても母のような存在だ。簒奪なんぞするものか」
「違うわ♪ 代行してあげるのよ♪」
「余計なお世話だ」
「けど偽名を使ってるって事は必要なんじゃない? 神も自らの代行者を欲しているんじゃない?」
「もしそうだとしても神器を集める事となんら関係が無いだろう」
「パフォーマンスは必要よ♪ 聖教国の連中を納得させる為にはね♪」
「リタは私に王となれと言っているのか?」
「ええそうよ♪ つまりはそういう事なの♪ 理解が早くて助かるわ♪ 私が提案するのはチンケな泥棒なんかじゃないわ♪ エリクには国ごと盗ってほしいの♪」
「それこそ馬鹿な話だ。一番を目指すと言ったって限度があろう」
「けどエリクにだって口実はあるでしょう? もう一度エルメラの栄光を取り戻せたらお姉さんも喜ぶんじゃない?」
「ルベドは望まんぞ。そのような事」
『ギンカ……』
『ルベド姉さんたら感極まってますね』
『ちょろいなぁ~』
「あら残念。簡単に決まってはくれないのね」
「ここから採決をとるのか?」
「ええ♪ 二つに一つよ♪ エリクが国を盗るか、このまま聖教国を放置するか♪ 皆で決めると致しましょう♪」
「馬鹿げているな」
流石に賛成する者なんぞおらんだろう。
「じゃあ賛成派は挙手を♪」
一斉に幾つもの手が上がる。おかしい。過半数に届いているのではなかろうか。リタなら仕込みはしてあるだろうとは思ったが、それにしたってここまでとは……。
賛成が十三。リタ、ユーシャ、パティ、レティ、ミカゲ、ファム、マーちゃん、リリィ、ソラ、アカネ、タマラ、アニタ、イネス。
反対が十一。私、ディアナ、シルビア、ロロ、スノウ、メアリ、シルク、ミランダ、ネル姉さん、ルベド、キトリ。
「ふふ♪ 賛成が過半数ね♪ 小癪なカサ増しまでしたみたいだけど負けちゃったわね♪ エリク♪」
「待て! まだダリアとニアがいる!」
「この場にいないじゃない♪ それにもし二人ともが反対派についても同数よ♪ 言っておくけどニア姉さんはともかくダリアさんは説得済みだから♪ 潔く負けを認めなさい♪」
「くっ! こんな馬鹿な話しがあるか!」
「ふふふ♪ 多数決って最高ね♪ ビバ♪ 民主主義♪」
いやおかしいだろ! 多数決で決まったからって本当に国取りなんかするのか!? 大体なんでパティとレティがそっち側なのさ! 自分達はカルモナドの王位は継がないくせに私にその役割を押し付けるのか!?
「安心して、エリク。別に本当に王をやれってわけじゃないわ。妖精王と同じよ。ただの名誉職として就けばいいじゃない。そもそも聖教国でやる事って神の代わりを務めるだけですもの♪ 偶に大聖堂に顔出すだけで済むように仕組みを作りましょう♪ 言わば現人神ってやつね♪ むしろ王ってのは例えよ♪ なるのは王様じゃなくて神様よ♪」
「ダメだろどう考えても! 実際に神様いるんだってば! 許可も取らずに出来るわけないでしょ!?」
『良いよ~♪』
え? …………え?




