01-33.名付け
「『侵食』でどうかしら?」
それが私の魔術の名前か?
いや、私の場合は魔導と言うんだったか。
何だかしっくりこんな。
「もう少しどうにかならんか?
まるで悪いものみたいではないか」
「良いじゃない。わかりやすくて。
それに実際、異物と認識されているのは間違いないわ。
少なくとも私とメアリの体にはね。
そこも本当はもう少しサンプルが欲しいところだけど」
「ならぬ。
私の力と存在は無闇矢鱈と広めるものではない」
「よしよし♪良い子よエリク♪」
「やめよ!抱きしめるな!
頬ずりするな!ユーシャも止めんか!」
「パティなら許す。そっちは」
なん……だと……。
「つまりその瓶に触らせてもらえるようになったら、本当に信頼されたって証拠になるわけね♪
いいわ!やってやろうじゃない!
ユーシャの全てを手に入れてみせるわ!」
「話を戻せ。
また脱線するつもりか」
「脱線?
エリク、蒸気動力車を知っているの?」
しまった。
あまり一般的ではない言い回しだったのか。
というか、この世界に汽車あるの?
あ、いやでも機関車とは言ってない?
魔力があるのに、蒸気機関も発展しているのだろうか。
魔力が能動的に動かせないからありえるのか?
「まあそんなところだ」
「……ふ~ん。
まだまだ秘密がありそうね」
何だこの反応?
言葉を間違えたか?
鉱山にでも行った事にするべきだったか?
この世界にだってトロッコとレールくらいはあるだろうし。
「まあいいわ。続けましょう。
魔力を流し込む術を侵食とするなら、その魔力を使って他者を操る術は『傀儡』と名付けましょう」
「ますます悪役みたいになってきおったな」
「エリク、一々文句言わないの。
折角パティが考えてくれたんだから」
「ぐぬ……よい。なんとでも名付けるがいい」
「ふふふ♪ありがとう♪ユーシャ♪
次は魔力で外側を覆う術。これは『魔装』と。
後は魔力を手の形にして動かす術。これは『魔力手』ね」
こやつ、さてはネーミングセンスが無いな?
全てそのままではないか。
わざとわかりやすくするにしても、限度があろうに。
「これでエリクの手札は四つ増えたわけね。
『侵食』『傀儡』『魔装』『魔力手』。
どう?随分とわかりやすくなったでしょ?」
まあそうだな。
こうして改めて考えると、先の決闘で魔装と魔力手だけで戦ってしまったのが如何に浅慮だったのか理解出来てしまうな。
「他にも出来そうな事があれば言ってみて」
「『浮遊』も使えるぞ」
「そうね。これで五つ目。
ところでそれ、どういう仕組みなの?
絶えず下方に魔力を噴出でもしているの?」
「いいや。
念力のようなものだ」
「ねんりき?」
これもか……。
「なんと説明したものか。
魔力は空中に留め置く事が出来るのだ。
その要領で自分ごと宙に固定するのだ」
「エリクの体重はどうなっているの?
魔力にそれを支えるだけの浮力があるってこと?」
「正確には浮くという感じとは少し違うな。
いや、現象としては浮いているで合っているのだろうが。
魔力には重力の類が働いていないのかもしれん。
かと言って、重量が関係していないわけでもない。
ユーシャを浮かせ続ける事は出来んだろうな」
私は試しにユーシャを浮かせてみた。
ユーシャは一応宙に浮き上がったものの、すぐにその場に落下してしまった。
「とっとっと」
すまぬ。いきなりだったな。
転ばなくて何よりだ。
「留め置く。なるほどね。
負荷が大きすぎれば、破綻もしてしまうと」
「そんなところだ」
「ぶぅ~何か私が重いみたい」
「「……」」
「何処見てるの!二人して!!」
「最高よ、ユーシャ」
「意味がわかんない!!」
「まあでも、『浮遊』でいいわね。取り敢えず」
テキトーすぎやしないか?
「あとあれは?
たまに私の体力値が~とかって言ってるやつ」
「いや、あれは……」
ぶっちゃけただの悪ノリだ。
別にHPバーとかが見えてるわけじゃない。
とは言え、完全に当てずっぽうというわけでもない。
単に、ユーシャの体の状態はなんとなくわかるのだ。
これはなんというか、直感的?感覚的?なやつなので、私にもよくわからんのだが。
「つまりユーシャへの愛が為せる技と」
「もう///ふふ///エリクったら///」
照れ過ぎだ。今更。
「次だ次!」
それからも私に出来る事を思い出しながら、一つ一つ名付けていった。




